ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「それで？」

「そしたら・・・店長たちも来る大騒ぎになって・・・」

「一緒にいたウチの3年の万引きも発覚した？ってこと？」

「そう・・・。けど、アタシは学校には言ってない！」

そう言いながら、小町は割れたメガネをかけ直しました。
しかし、そこまでの騒ぎになれば、学校に報告が来るのは、当然のことです。

「レジに出されたのはうれしかったんだけどね・・・・」。

小町は、そう言いましたが。
おそらくそれは、
包丁で指を怪我したからで（精肉の処理は細菌の侵入があるので、ケガをするとはずされる）

考えてみれば、これも、そもそも僕が原因・・・。

僕が夕子ちゃんの話をしたから・・・・。

彼女は指を切り、
レジへと移り、
エルメスのバッグを発見した。

僕には、小町の、割れたメガネのレンズが、やけに痛々しく見えました。


「とにかく。ここ、出なきゃ」

とは言うものの、小町はずぶ濡れ。
ブラどころか、ともすれば乳房まで透けて見えそうです。

「あ。そか」。

僕がワイシャツを脱いで渡そうとすると

入り口側から

「うぉおおおおおおおおお！」

たいへんに聞き覚えのある、集団の叫び声。

「あ？」

入り口あたりで、

「な、なによ！あんたたち！」

「掃除当番で～～～～～～～す！」

西条くんたちの声です。

つまり。援軍到着。

遅いっつーの！

「お前らー！入ってくんな！」

女子トイレから、男子生徒が男子生徒を拒むというのもヘンですが。

当然

「うるせ～～～～～～～～～」
「小町～～～～～～今助けるぞ～～～～～～！」

聞きわけなどありません。

「こらーーー！おまえらーーーー！入ってくんな！」

が、「女子トイレ」興味本位の暴徒と化した彼らは、誰にも止めることができません。

「うおおおおおおおお！」

そのまま集団で3年女子トイレ乱入！

僕の前まで来てようやく、

「あ？なんだ？かたづいたのか？」

「そうだよ！だから出てけよ！」

なのにこいつら。
ずぶ濡れの小町を見つけるなり

「おお・・・・！チクビ小町・・・・・！」

ばか・・・。

「出てってーーーー！アンタら全員大っっ嫌い！」



下校する僕たちに、言葉はありませんでした。

特に西条くんは、ずっとうつむいたまま。

それはそうです。
せっかく助けに行ったつもりが、いくら「チクビ」失言があったとは言え、「大嫌い」。
これは堪えます。

「あのさぁ・・・・・」
と、ようやく口を開いた西条くん。


「女子トイレって・・・・バラの匂いじゃないんだな・・・・」


って！そんなことをずっと悩んでたのかっ！

つーか、どんだけ女子に理想抱いてんだ？こいつは！


この、あまりに純粋とも言える西条くんの妄想に、
姉のいる孝昭くん、
「バカだなぁ。西条。女だって臭いもんは臭いんだぜ！」

「いや～～～そうは言うけど孝昭」

「俺もよ～。朝、必ず姉ちゃんが先に便所入ってっからよー」

「いや・・・孝昭」

「おまけによー。姉ちゃん、ベンピだからっ！これが長いんだ、また！」

「・・・・・」

「姉ちゃん、その日、出たかどうか匂いでわかるもん。あっはっはっはっは」

「いや・・・孝昭。そんなことはないだろう」
「そうそう。早苗さんに限って・・・」

「いや！姉ちゃんのは臭いっ！」

「いや・・・孝昭」

「ん？」

「お前の姉ちゃん、そこにいるけど・・・」

「あ？」

校門の外。
これ以上ないくらい怖い形相の早苗お姉さんが立たれておりました・・・。

「なんで？？？」

そうです。ジェミーってば、早苗お姉さんまで援軍に呼んでくれたのでした・・・。

　気がきくなぁ・・・。


孝昭くんは、僕たちとは別に、お姉さんと一緒に下校することになりました。

「あと2、3日は学校来ないな・・・孝昭」。
「いやぁ。ありゃ1週間だろ」。
「そうだな・・・。欠席届け、出しとこうか・・・」。


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