ぼくたちと駐在さんの700日戦争

＜おことわり：半シリアスモード。続きます＞

「ふうん。理恵が・・・ねぇ・・・・」
と、グレート井上くん。

「つまり水虫と油虫ってわけですね？」
と、ジェミー。

「水と油だろ？なんで昆虫にする？」

「ざ～～～んねん！水虫は昆虫じゃありませ～～～～ん」

「く・・・・・」

よりによって、コイツに上手をとられるとは・・・・。

「なんで殴るですか～～～～～～！」

「うるさい！」

騒ぎをよそに、

「お前が女と仲悪いってのもめずらしいな」

実はグレート井上くんに原因があるようにも思うのですが、僕も西条くんも、それは伏せていました。


「今年のESSの合宿費って、そんな高いの？」

「今年は、外人コーチ分の負担もあるんだよ」

「ああ。ブロンド女の？」

「そうそう。ひとり1万円くらいじゃないかな」。

1万円「くらい」、という言い方に、「集金袋を出せば親が出す」高校生らしい無責任さが出ています。
グレート井上家にすれば、たいしたことないかも知れませんが、1万円といえば、当時では大金。

「今年は2泊3日だしね」。

「今年は、って、去年もあったの？」

「ESSは毎年やってるよ。1泊2日だけどね」

西条くん。
「超能力の訓練でもすんのか？」

「ESPじゃないよ・・・」

「なぁんだ。つまんねーの」

「2日間、英語しかしゃべれないって合宿」

「超能力じゃん！」

西条くんにとって、英語は「テレパシー」に近い分野です。

「へー。じゃ、今年も？」

「そう。今年も2泊3日間。英語しかしゃべれない」

「すげぇ超能力だなーーーーーーーー」。

そうでしょうとも。

「詳しいな。井上」

「だって、僕、元々ESSだったから」。

「え！そうだっけ？」

「そうだよ。それをお前が心霊研究会やるって言うから、写真部に移籍したんじゃないか」。

「あ・・・・原爆ばあさんとき・・・・・」。

「そうそう」。
「だから、みんな文科系部活は、写真部になったんだろ？」
「そうだそうだ。なに無責任なこと言ってやがる」
全員同調。

「無責任です～～～～、水虫のくせに～～～～」
ジェミーまで同調。

「ジェミーはちがうだろ！」

去年。
廃部寸前だった写真部に、「心霊研究会」全員を集めたのには理由がありました。
「無料で写真の現像ができる」ということもありましたが、それよりなにより魅力的だったのは、部費です。

文科系部活は、部員人数あたりで部費が支給されますが、その割合が最も高いのが写真部でした。
元々が帰宅部で、部員数もたいしていなかった写真部は、総額では目立っていませんでしたが、ひとりあたりの金額は、他の文化部の比ではありませんでした。
現像液や印画紙は、当時、非常に高価だったからです。

僕は、このおおざっぱな部費配分のシステムにひそかに着目。

先輩のほとんどいない写真部に、大量な1年生を登録することで、文化部としては破格の予算を勝ち得たのです。

おかげで心霊研究会は、学校の予算で「我世の春」を謳歌することができました。
文化系部活としては、1、2位を争う活発な部活となり、年に4回も合宿を行ったのです。

「まったくお前の極悪な頭脳には、頭が下がるぜ～」。
「ほんとほんと。あったまいいわ。そういうとこだけ」。
「あたまいい水虫～～～～」

しかし、よく考えると、文化部全体の予算のパイは決まっていましたから、そのしわよせは他の文化部にいっていたわけです。
頭のいい小町には、それが僕が仕掛けたことと、わかっていたのかも知れません。
わずかとは言え、ESSの合宿費用の自己負担分が上がったのには、僕の悪知恵が加担していたわけで。

「なんか悪いことしちゃったかな・・・」。

「悪いです。悪い水虫」。

「うるさいぞ！ジェミー！」


「まぁ、気にするな。活発な部活が予算多いのは当たり前なんだから」
と、グレート井上くんは、言いますが

「う・・・・うん。そうだな」

もうひとつ。
ESSにいたグレート井上くんをやめさせたのも、僕。
小町にとっては、不愉快なことばかりです。


「あ、もう練習、行かなきゃ！聡子先生、遅刻にはうるさいんだ」
と、グレート井上くん。

「ああ。がんばれよー。超能力者」。

「あ？・・ああ。西条もがんばれよ。赤点だったんだろ？テレパシー」。

「あ？・・ああ・・・・」。


その小町が、思わぬ事件をひきおこしたのは、噂のブロンドのやってくるという前日でした。


「万引きで停学？」




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