ぼくたちと駐在さんの700日戦争

＜今夜から、『ぼくちゅうラジオ』開始！こちらから！＞


”なすがままに”また、元の木阿弥。

　ま・・・・いいけどね・・・・・

「嫌われてますね～～～～。先輩～～～～～～～～」

こいつぅううううううう！


しかし腑に落ちないこともあります。

あの「お固い」グレート井上家が、外国人とは言え、年頃の女子を同じ屋根の下に泊めるでしょうか？

彼女が「日本語まるでダメ」なところを見ると、前回来た時は、かなり幼かったのでしょう。
でも、駐在所での調書によると、彼女は実は15歳。
背が高いので、ずいぶんと歳上と思っていましたが、実は僕らより下でした。

「どう考えても危険なお年頃だよな」
と、この西条くんでさえ、心配するほど。

「まぁ・・・そりゃそうだけど」


「サチコ・・・・」。


って、また犬かいっ！


「あのグレート父さんが、同じ屋根の下に置くかなぁ？」

「黒犬をですか～～～～？」
今度はジェミー。

「息子をっ！」

こいつら。どんだけサチコ思いなんでしょうか？


「あの、ポーラって子、けっこうすごいもんなぁ」

「なにが？」

西条くんのことですから、プロポーションのことでも言うかと思いきや

「だってほら。あの歳で英語バリバリだし」

そう来たか・・・・

「アメリカ人だからなっ！」

たぶん、もっともっと小ちゃい時から英語バリバリです。


ここで理恵ちゃん。
「井上くんちは離れもあるでしょ？」

西条くんだけが
「あん？サチコのいるとこか？」

あれは犬小屋。
離れてはいますが、普通に「離れ」と言いません。

「ああーーーー。前にあんのは、アレ物置小屋なんだぜ」

「え！あのおっきいのが？物置？」

やっぱり。
この子は、井上んち行ったことがあるんだ・・・。
でも、ドーベルマンの名前までは知らない。
敷地に入ったこともない。

「だって・・・だって・・・・・」

理恵ちゃんの言いたいことはわかりました。
井上家の物置は、大正時代風の建物で、普通の一軒家などより、ずっと大きく立派なのです。

「昔は、使用人かなんかが住んでたのかな？たぶん」

「使用人・・・・」

理恵ちゃん。かなりショックそうです。

グレート井上くんは、家のことなど、まったく自慢もしないので、みんな意識もせずにいますが、やはり名家なりのことはあるわけです。
それこそ、時代が違えば、僕たちなど近寄ることもできなかったかも知れません。

「だからよー。俺らとはちがうんだって」
と、西条くん。

「サチコは」。

だからサチコはもういいだろ!?

「犬だしな！」

まったくだ。
ようやく理解してくれたようで、うれしい。

「ちがいます～～～～～。黒犬です～～～～～～～～」

まだ、理解しきれていないのがひとり・・・。


しかし。西条くんは、どうやら、わざと話をサチコにふっているようでした。

理恵ちゃんのその態度から「井上くんを好き」なのは、誰の目にもあきらかで。
それが外国人とは言え、同じ年頃の女の子が、同じ屋根の下にいられるのは、やはり心中おだやかではないはず。

実は「彼なり」の気づかいなのです。
いや。ひょっとしてジェミーさえも・・・。

それがわかったのは、電話ボックス前にさしかかった時、

西条くんが、
「お前。井上んち、タイプライターの断りの電話入れろよ」
と、
僕に促したからです。

西条くんは、もともとこういうことを僕に言うタイプではありません。

　やっぱ、いいとこあるなぁ・・・・。西条。

僕も、西条くんの気づかいを察知しまして、

「わかった」。

電話ボックスに入りました。

そして、やっぱり理恵ちゃんも、僕が公衆電話ボックスに入っている間中、

「もしもし？あ・・・井上？今日さぁ・・・・・」

もう、つき合っている必要もないのに、そこを立ち去ろうとしませんでした。

「うん・・・。え？・・・・わかった」


電話の結果は、実に意外なものでした。

「ポーラは、教育委員会から頼まれて、グレート父さんが招待したんだってさ」。

「え？つまり？」

「聡子先生が呼んだっていうブロンドさんと一緒」。

「え？じゃ、英弁のため？」

「そう。ポーラは中学校の部のほうのコーチらしい」。

英語弁論大会は、高校の部以外に、中学ジュニアの部がありました。
今年度代表は夕子ちゃん。


「だから宿は、教育委員会の方で用意するらしいよ」。

「そうだったの・・・・」。

ほ・・・と、安堵した表情の理恵ちゃん。

やっぱ、井上のこと好きなんだなぁ・・・・。

僕はチラリと西条くんに目で合図を送りました。

　これで・・・いいんだろ？西条。

すると西条くん。
「そいで？」

「え？そいでって？」

「肝心なこと忘れてるだろ？」

「肝心なこと・・・。あ？タイプライター？」

「そうじゃねーよ！　 サチコは？　ポーラ、襲ったって？」

えええええええええ!!

やっぱそこなのかっ!!??

「いやぁ。あのサチコのピストン運動は、アメリカ人でも絶対ビックシだぜ！」

西条・・・・・。

「さすがドイツだよなー！ BMWが速いわけだよなー！」

西条・・・・・。

「黒犬～～～～～～～～～～」

ジェミー・・・・・。




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