ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「ちょっと待てーーーーーーーーーーーーーー」

誰だ？遠くて見えない・・・。

河野くんと・・・・久保？久保、今日来てたっけ？
いずれにせよ、グレート井上くんが連絡をとったのでしょう。

西条くんが言いました。
「なんでお前ら階段なんだぁーーーーー？」

「ばかやろーーーー！ヒーローってのは、上から現れるもんだろーがーーー。仮面ライダー見てねーのかーーーーー」。
ずいぶんと遠いヒーローです。40段めあたりでわめいています。

しかし・・・

「んあ！」

「ん？どうした久保？」

「ちょ、ちょっとハウドゥユドウだ・・・」。

「またかよっ！」

階段を駆け上ってもどる久保くん。
「こ、この階段の振動がきつ・・・いーーーー。だ、だめかも・・・・」

「なにしに来たんだ？あいつ・・・」。

全員あきれ顔。
久保くんも神経性腸炎さえなければ、孝昭くんなみに強いはずなのですが・・・。

「ま、いいけどな。孝昭来たから、あとは勝てるから」。
平然と西条くん。
またそう正直に・・・。

「な、なんだとぉ！なめてんのか？こるぁ！」

「高校生風情が何人いようと、俺らには同じことなんだがな・・・」。
それはかなり裏付けのある、自信のある台詞のようでした。


あと少しです。あと少し時間を稼げれば、駐在さんも来るはず。


しかし、最初の孝昭くんの奇襲で脳しんとうを起こしていたスキンヘッドが立ち上がりました。
もう、顔、というか頭まで真っ赤。相当怒ってます。

スキンヘッドは、側にあったビール瓶をつかみ、側の灯籠にぶつけて割ると、それを凶器にして孝昭くんをにらみました。

「てめーか！さっきのは！ぶっ殺してやる！」

「へっ！凶器が怖くて生理の姉ちゃんと住めるか！」。

孝昭くん。お前の姉ちゃんの生理っていったい・・・・。
スケ番お欄。恐るべし。

孝昭くんは、側につんであったビール瓶の箱を持って構えました。
西条くんと孝昭くんは、どちらも強いですが、正統な格闘技を使う西条くんに対し、孝昭くんは方法を選びません。あるものはなんでも使い、とにかく勝てばいいのです。

「てめーがビール瓶ならこっちは箱だ！瓶より強いぜ！」
誰が決めたのでしょう？

大柄の男がすごみます。
「兄ちゃんたち、覚悟はあるんだろうな？え？」

「俺らに覚悟はいらねー。お前らこそ保険入ってるか？」

「へ。口のへらねーガキだ」。


一触即発！緊張が走ります。


というところで、

カラコロカラコロ

さらにもう一人、久保くんが去った階段から聴こえて来る「下駄の音」。


「待て待て待て待てーーーーーーー！！！！」

「あ？」

「な、なんだ？」

カラコロカラコロ



駐在さん・・・・！ですが、格好が・・・・。


柔道着・・？なんで？


「ちゅ・・・・」
「シッ・・・・・」
口をすべらせそうな西条くんを、僕が制止しました。


「だ、誰だ？てめーは？」

当然の質問に

「す・・す、姿三四郎だ・・・」

そんなに恥ずかしいのなら名乗らなきゃいいのに・・。なんで姿三四郎？？？？

「いやーーー。慣れない下駄はいて来たんで、遅れてしまってなー。悪い悪い」。

「なら、なんで下駄はいてきたんです？」

「ん？柔道着に靴はおかしいだろ？」

いや。だったらなぜ柔道着着て来た？


「よし！お前ら絶対手を出すなよ！俺にまかせておけっ！」

駐在さんが僕たちにむかって言いました。


「なんだ？てめーは？」

「ふっ。すぐにわかる。覚悟しておけ！クズども！」
駐在さんはそう言うなり、下駄を脱ぎすて、まず大柄の男に向かっていきました。

「てやーーーーーーーーーーーーーーーーー！」


が・・・・。


あっけなく捕まりました・・・・。

　あ？


ドスッ！

片桐が羽交い締めにされている駐在さんのボディにパンチをくらわしました。
続いて若いやつが駐在さんの顔をなぐりつけます。

ガスッ！
鈍い音が参道に響きました。

「ひゃひゃひゃ。こいつ弱えーぞ。サンドバッグだな、こいつは」。


　え？え？

　駐在さん・・・弱・・・。

図に乗る片桐たち。本当にサンドバッグ状態です。
スキンヘッドが割れたビール瓶でおそいかかろうとした時、

　ガツッ

それを孝昭くんがビールの箱でなぐりつけて止めました。

しかし
「て、手を出すなと言ってるだろっ！」

それでも強気な駐在さん。しっかり捕まってるくせに・・・。

「けど・・・」。
孝昭くんがとまどいます。

スキンヘッドが駐在さんにひざ蹴りをくらわします。

「ぐっぅう！」


「やべ・・・。駐在殺されちゃうぞ・・」。

「ああ、あんなに弱かったとは・・・・・」。

「よし！助けろ！」

と、僕たちが向かおうとしたその時。


「わははははははははははは」

駐在さんが殴られながら高笑いしたかと思うと、羽交い締めにしていた大柄の男に肘鉄をくらわしてほどくと

「お前らー！傷害の他に、公務執行妨害な！最低2年はくらってもらうぞ！わはははは」

「なっ！？」
「えっ！？」

ひるむ片桐たち。

「そこのハゲッ！お前は殺人未遂もサービスしてやる」。

2年・・・・そうか！

この言葉でわかりました。駐在さんは、僕たちが卒業するまでの間、彼らが「お礼参り」に来れないようにしたのです。
傷害罪だけだと初犯で執行猶予がつけば、実質0年。傷害だけなら1年以下の可能性もあります。しかし公務執行妨害罪は実はたいへん重い罪なので、2年は刑務所に入らなくてはなりません。
もし、彼らが出所しても・・・。
そうです。2年後、僕たちは卒業していて、まず間違いなくここにはいません。

駐在さんが制服を着ないで来たのも、彼らに殴られ続けたのも、すべてこのためだったのです。


「駐在・・・・だいじょぶか？」

「え？ちゅ、ちゅ、ちゅうざい？」
西条くんが思わず発した言葉に、片桐たちが反応しました。つまりは、自分たちが殴った相手が警察官であったことに、ようやく気づいたわけです。

そこに息を切らせながら久保くんも再度到着。
「いや～。ハウアーユーになんなくてよかった～」。

やがて、孝昭、久保、河野、西条、千葉くん、そして駐在さんが4人を取り囲みます。


駐在さんが言いました。

「よし！お前ら、好きなだけやっていいぞ！正当防衛だ！」

「おおおーーーーーーー！！！」


決戦開始！！！！





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　　　　7章-第34話へつづく

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