ぼくたちと駐在さんの700日戦争

【第3話 ブロンズの魅惑(1)】

理恵ちゃんの『チクリ小町』というアダ名は、どうやら小学校かららしく、もともと一中でも『言いつけ魔』として有名だったようです。
とりたてて、そんなに「美人」でもない彼女に、どうして『小町』というアダ名がついているのか、僕にはちょっと不可解だったのですが、

「あいつ、旧姓は小野だったんだよ」
と、孝昭くん。

「あ～、それで～～～～～～」
「イモコなんだな？」

「こ・ま・ちっ！」

西条は黙っててくれよ・・・。

「そういうこった」

実に小学生らしいネーミングです。

「え？旧姓っていうと？」

「ああ。親が離婚して中学入った時から母親の姓になったんだ」
と、河野くん。

「ふうん・・・・」

普通、離婚しても、子供のことを考えて苗字は変えない、というのが一般的です。
つまりは、それくらい「修羅場」な離婚劇だったのかも知れません。

しかし、
「イナズマンだって名前変わるじゃん」
と、西条くん。
みんながこうならイジメもおきないのでしょうが。


＜イナズマン=石ノ森章太郎原作。73年～74年テレビ朝日系で放送された特撮ドラマ。サナギマン→イナズマンへと2段変身するヒーローだが、サナギマンはめっちゃ弱い。変身のかけごえは「ゴーリキショーライ！」＞

「いじめられてかわいそうだったよ。そういうのって、めずらしかったからね」
と、森田くんは理恵ちゃんに同情的。

「あれからもっとヒネクレたな」
と、どう考えても「イジメ側」な孝昭くん。

「乳首が？」
「性格が！」

ひねくれた乳首・・・
見たいような、見たくないような。

「俺はチクるようなヤツは、でーっ嫌いだ」
同じ中学の不良であった孝昭くんたちは、いろいろと因縁もあるようです。

「でも、そんなに頭いいのにウチの高校なんだ？」

「いや。中学じゃそんなでもなかったんだけどな」
「ああ。たいしたことなかった」
「富士の5合目あたり」

「ふうん・・・・」

実はすごいなー。5合目。

「胸は1合目くらいだな」
「あははは。言えてる～～～～～高尾山だな、高尾山」

＜高尾山（東京都八王子市）=標高559m。立派なものだが、日本の登山コースとしてはAカップ＞

しかし。
チクリ小町の被害は、その後も続きました。

「工藤先生！背中に剣が刺さってます！」

「シッ！ばか・・・・・！」

「剣～～～～～～～～～？」

僕らは、背中に「張り紙」などというハンパなことは嫌いでした。
工藤先生の背広は、たいそう立派で分厚く、こういうオブジェに適しておりました。
適している限りは、そこまでやるのが「礼儀」というものです。

なのに。

　発覚。

「おい！なんだこれは」

「オリハルコンの剣です・・・・」
「そうそう。トリトンの・・・」

「ほほぉ。あとで指導室まで来てくれるかな？トリトンくん！」

「はい・・・・」


＜ぼくちゅうでは、すでにおなじみの『海のトリトン』。手塚治虫原作のアニメ。現在NHK-BSで放送中＞

それでも、女子を恨む気にはなれなかった僕でしたが、決定打は、僕たちが、ほんのささいな公務執行妨害で集団停学になった時におきました。

「反省文、全員分、お前書いたってバレたぞ！」

「まじぃ？なんで？」

「お前、千葉となんかしゃべんなかったか？」

「いや・・・・。井上とは相談してたけど・・・」

まさか。まさか！

「とにかく、工藤に呼び出された。口裏合わせないと」

「だな・・・・」

生徒指導課も何度も何度もやられていれば、おさえたもので、僕たちへの尋問は、僕を後回しにし、外堀から埋めていく作戦をとるようになっていました。

「くっそ～～～～～！反省文書き直しだってよ！」

「心配すんな。また書くから」

「お前、よくこの人数分、反省できんな～～～～～～」

「反省はしてないけど、反省文は書ける」

「すげ～～～～。お前、それ将来、本にでもしろよ！5巻はいけるぜ！」

「反省文がかぁあ？」

ありえねー。（はずだったんですが）。




しかし、最後の最後に呼び出された僕に対する「チクリの洗礼」は、意外なところへ飛び火していました。

「お前が全員分書いてたんだってなぁ？トリトン」
と、工藤先生。
トリトンはもういいでしょ？まったくネチっこいんだから。

「まさかぁ。いくらなんでも。ポセイドン先生」
とぼける僕です。

生徒指導室には、なぜか英語の聡子先生もいらっしゃっていて、僕には、そのことが不思議でした。
そしてその答えが・・・

「ところで、トリトン」
と、工藤先生。

「はいはい、ポセイドン先生」
と、僕。

「去年の英語弁論大会なぁ。久保が1年代表だったけなぁ」

「はい？」

「今年も久保が選考に残ってんだが。あれもお前か？」

「え？い、いえ・・・・」

でも実際はそのとおりで、去年も今年も、実は僕です。
正確には、原文が僕で、英訳はほぼグレート井上くん。
しかも「悪いこと」に、去年は、久保くんが「学校代表」で県大会まですすんでしまい、僕たちは青ざめながらも大爆笑したのでした。

けど、なんで英語の弁論大会まで？？？




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