ぼくたちと駐在さんの700日戦争

【And I love her.(2)】

「ああ、そいつ理恵だよ、理恵」
と、孝昭くん。

「ふうん」

「ふうん、ってお前知らねーの？1年じゃ、井上と競ってたんだぜ？」

「なにを？」

「成績に決まってんだろーが！」

「森田じゃないの？」

「森田とは、いい勝負じゃねーか？」

「へぇ」

と、すれば1年のときのグレート井上くんのクラスは、たいしたクラスだったことになります。
学年上位をほとんど独占。

「へぇ・・・って。まるで感心ないみたいだな」
と、当の森田くん。

「富士の3号目あたりで頂上は見えないんだよ」

「あははははは。言えてるっ！」
賛同者多数！

実際、僕は、学校の成績には、まったく感心がありませんでした。
最低限の労力で、赤点にさえならなければ、それでよかったのです。
赤点をとると、補習がありましたので、そうなると貴重な「青春時代」が削られるわけで、それだけは避けたい事態でした。
つまり、最も効率よく「赤点だけはとらない」のが僕の勉学であり、家で勉強するなど「とんでもないこと」とさえ思っていたのです。

「でも、中学じゃ井上より上だった時もあったろ？」
と、麻生くん。

「中学くらいまでなら、親からもらった才能でなんとかなるから」

「さすが神童の息子だな～」

しかし、高校ともなればそうもいきません。
あっと言うまにボロが出て、ズルズルと富士の3合目あたりまで、下がってしまいました。


「でも、お前の井上のマネ、似てた～～～～～～」
褒めるのは、千葉くん。

「だろだろ？家で練習してきたんだ！」

「・・・・・」「・・・・・・」「・・・・・」

「お前・・・・・勉強はしないのに、そういう練習は家ですんのか？」

「あたりまえだろ？失敗は許されない」

「・・・・・」「・・・・・・」「・・・・・」

僕はなにかおかしいことを言ってるでしょうか？

孝昭くん、
「とにかく理恵には気をつけろよ。アイツ、中学から『チクリ小町』って言われてたんだからよ」

それまで黙っていた西条くんが、

「チクビ小町っ？」

あまりにも彼らしい反応をしました。

「西条。残念ながら理恵は胸ペッちゃんこだから」

「孝昭、だからな？女をそういう目で見てはいかんのだよ！」

ほほぉ。

「胸がちっちゃいからこそ、乳首が際立つんだろーがっ！」

そんなもんだ。

「そういうもんかぁ？」

「常識だろーが！ほら。夕子ちゃんもさぁ・・・・」

と、この話題になると、まるでそれに引きつけられるかのように現れる人物がいます。

　ガラッ！

「おい！」

そう、実兄グレート井上くん。

入ってくるなり、西条くんではなく、いきなり僕に向かいまして、

「『禁断』は英語にないんだってなぁあ？え？」

「あーっと・・・。えーーーっと」

しまった・・・。こっちにもチクられてたか・・・・。
なるほど手強い。チクリ小町・・・・。

「おかげで、聡子先生は、僕が自己紹介する前から、夕子のこと知ってたよ！」
皮肉たっぷり。

「そうか・・・。そりゃよかったね・・・・」

やばいなぁ・・・・。
また友情にヒビが入りそうです。
ってか、すでに入ってます。ピキピキ。

しかし、グレート井上くんとも、もう5年のつきあい。
彼の弱点は知り尽くしています。

くらえっ！母直伝、『論点ずらしの術』！

「だったら他の男性で、夕子ちゃんのことを言うべきだった？」

「んな!?」

「他の男として And I love Her　って言ったら憤慨しただろ？」

「う・・・・！あたりまえだろ！」

「じゃぁ、いいじゃない。君の立場で and I love her　なんだから」

「く・・・・」

推理派のグレート井上くんは、相手の言いたいことを常に「先読み」して、返答する癖があります。
したがって、実は、彼は「予想外」の台詞に意外なほどもろいのです。

　フッ・・・・。
　まだまだあまいな。井上。
　
勝ち誇る僕。

「とにかく。それくらい夕子ちゃんはかわいいってこと。もう2度と言わないからさ。許せよ」

まぁ、僕が「グレート井上くんとして」自己紹介する機会など2度とあるはずもないのですが。

「う・・・。ま、まぁ・・・わかればいい」

「僕が井上との友情を壊すようなこと、するわけないだろ？」

と、せっかくまるくおさまったところに、
森田くん、
「君たちの友情って、『表面張力』みたいなもんだね」

富士の頂上あたりのヤツって、これだから嫌いです。



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