ぼくたちと駐在さんの700日戦争

調べると、原爆ばあさんの「被爆体験者の話を聞く」授業は、孝昭くんの小学校でしか行われていないことがわかりました。

為になりそうな授業なのに、学校が近所の1校に限定されているということは・・・

原爆ばあさん本人としては、「あまりしゃべりたくはない体験」ということです。

これはうなづけます。
親戚のひとりが亡くなった話でも、思い出せばつらいのに、彼女たちは、一瞬にしてまわりのすべてを失っています。
それは文字通り「語るにつくせない」ものなのでしょう。

そしてもうひとつある可能性。

実はおばあさんは、たいへんな「怪談好き」なのではないか？

そうでなければ、ちょっとしたことでも怖がる小学生に、そんな話をするでしょうか？

もしくは。

あまり考えたくない可能性ですが、実はそれが、原爆ばあさんの、なんらかの「復讐」なのではないか？ということ。

考えているうちに僕は、原爆ばあさんへの興味がつきなくなりました。

「いずれにせよ・・・」

すべては、孝昭姉弟を中心に動いています。

そう。あの「心霊写真」も。

1年の不良をまとめあげるにせよ、孝昭くん抜きでは考えられません。


「孝昭。ちょっといい？」

1日おいて、僕は孝昭くんの教室をたずねました。

「こないだみたいなつまんねー用事はやだぜ？」

さっそく釘をさして来ました。

とがってるなー。
しかし、彼を口説かなければ、1年連合はできあがらない、と、僕は考えていました。

「孝昭、原爆ばあさんに、ひらがな教えてるんだって？」

「え！あ・・・・！」

驚いた孝昭くん。照れるどころか

「てめぇ。誰かに言ったら絶交じゃすまねぇからな！」

断固拒否。

僕なら背中に看板背負ってまで伝えたい善行も、孝昭くんには違うようです。
僕は、自分の小ささを、あらためて思い知らなくてはなりませんでした。

ここでいちかばちか・・・。

「いや。お前んち行く道沿いに社あるだろ？」

「ああ。お稲荷さんな」。

稲荷神社だったのか・・・？

「実はあそこをさ。昨日の夜、お前のお姉さんと通ったんだ」。

「てめっ！姉ちゃんにへんなことしなかったろうな!?」

「え・・・いや・・・」

そこまでの勇気ない・・・。
むにゅ、は、ちょっと惹かれたけど・・・。

「するなら責任持って嫁にもらえよな！いいな！」

あ？

「あ～～～～、これで姉ちゃんがいなくなる～～～～。助かった♪」

「いや・・・まだもらうとか言ってないけど・・・」。

高校1年だし。

「だよな～・・・・」

だよ。

「いや。あれで姉ちゃん、けっこう家庭的だぞ？料理裁縫なんでもこいだぞ？もらって損はないぞ？」

俄然、セールスにまわる孝昭くん。

「えっと・・・、じゃ、ひとまず、見積り見て、検討させていただきます・・・」

「おお。この機会にぜひっ！ご予約だけでも！」

「はいはい・・・」。

「今ご予約のかたには、文化包丁3本セットつけっからよ！」

「はい・・・・」。

「あ。返品はいかなる事情でも受け付けないからな」。

なんか「押し売り」と化しています。

「そうじゃなくって。その社でさぁ・・・・」


「へ、へんな音がしただぁ？」

「うん。お姉さんから聞かなかった？」

「ば、ばかやろ！よ、余計なこと教えんな！俺、毎日通って帰ってんだぞ？」

やっぱりビビってます。

あれだけ強い姉でも、あそこを怖がる、ということは、なにか思い当たることがあるのです。
そしてそれは、予想通り、姉弟共通でした。

「じ、実はよ・・・。あそこはよ・・・・」

やっぱりなんかあるんだ・・・。

「狐火？」

「そ・・・そうなんだ。昔姉ちゃんとお祭り行った帰りにな・・・・」

「お祭りあんの？」

「当たり前だろ？」

そしてそこで姉弟そろって見たのが「狐火」。

「マジ？」

「マジだ・・・・」

そうか・・・聞こえるだけじゃないのか・・・・。

「でな。原爆ばあさんが言うにはよ・・・・」

ここでも原爆ばあさん？

「あそこ出る狐火はよ。ここいらで亡くなった兵隊さんの魂なんだとよ」

「兵隊・・・さん」

「ああ。出征の時にな、千本針ってのやるんだってな」

「千本針？」

「知らねぇのか？」

＜千本針=出兵する兵士に、残された婦人たちが、ひとりひと針ずつ縫った手ぬぐいを送る戦時中の風習＞

「あそこにゃそれが祭られてるらしい」

「お稲荷さんに？」

「でな。ある時、どっかの小学生がイタズラでそれ盗んだんだってんだ」。

「うん・・・・」

「そしたら、その夜によ・・・。体中から針が出て来たんだと」。

「え？」

「俺らぁ、それ聞いてビビってよ～～。また、ばあさんの話し方が怖いんだ！」

「ふうん・・・」

やっぱり。特別授業は「怪談オンパレード」のようです。

「ありえないだろ」

「ありえないだぁあああ？見たんだぞ！俺らぁ！他にもいっぱいいんだ！あそこの狐火見たヤツは！」

「うん。それで原因を調べようと思ってさ」。

「原因を調べるだああああああ？」



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