ぼくたちと駐在さんの700日戦争

7章［のぶくんの飛行機］第20話　おぼろ月夜(2)


明けて月曜日。僕たちはバンドのメンバーで集まり、曲順や構成の打ち合わせをしていました。
メンバーにはジェミーもドラムで加わっています。
ジェミーは小柄で一見ドラムには不向きに見えるのですが、これがなかなかの腕で、なにより自前でシモンズ（シンセドラムの走りで後にYMOが使って有名になりました）を持っていました。

「えっとねぇ。1曲めがね。『焼きそばパンのブルース』ね」。
「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」

「その次がぁ・・。『豚バラ土曜日70円』。メモした？」
「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」

「で、その次の曲がね。『天ぷらうどんは錦屋で』」
「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」

「で、次がねぇ・・・『ショートケーキが恋した・・」

「もうええわい！！」

「あ？」

「なんだ、その”商店街食べ歩き”は？あ？お前、やる気あんのか？」
バンドメンバー一同総激怒。

「いや・・・。まぁ、いろいろと事情があって・・・」。

「どういう事情か知らんが、ディープパープルはどこなんだ？え？」
「そうだ！これじゃ『スモーク・オン・ザ・ウォーター』しか残ってないじゃん！」

「あ・・いや。そこには『スモーク・オン・ザ・サーモン』が入るから・・・」

「はぁ？」

「え・・。だから魚屋さんのCMで『スモーク・オン・ザ・サーモン』・・・・」

「なんじゃそりゃ？」

もう立場ボロボロです。

「まぁ・・・一応、歌詞オリジナルだしぃ・・どうせ英語の歌詞なんか客、わかんないだろ？」

「歌詞ってこれか？お前つくったやつ」。

「あ・・・う、うん」。

「”シャケは紅ジャケ、こどもはイクラ・・・”　」

「そうそう。それで、サビの”♪スモ～ク、オン、ザ、サ～～モン～”を3度でハモって・・・」

「♪”シャケは魚河岸”」
　　　　　　　　「♪”シャケは魚河岸”」

「へぇーー。ディープパープルみたいだぁ」
「だろ？」

「とでも言うと思ってんのか！このボケがぁ！」

ぼっこぼこです。なにしろ9曲中8曲がCMソング。
河野くんちの『かなり家食堂』の大宣伝のおかげで、商店街の食品関連ほとんどがCMソングを申し込んできたのです。
引き換え条件は、もちろん、のぶ君の食事。

「いや・・。これでもレコード屋のは断ったんだぜ？」

「レコード屋が？」

「うん。”公害ブルース”コピってやってくれって・・・」。

「あほぉーーーー！！！！それも原因はてめーだろーがぁ！！」

「ご、ごめん・・」。

「お、俺たちはなぁ！そういう商業ベースにのせられずにやるフリーダムなバンドだろ？」

「ま・・・まぁ。こらえてくれよ・・・」。

「こらえられるか！次の日から学校の笑いもんだぞ！こんなんじゃ！」
「ああああああ。かっこよくモテるはずだったのにぃぃぃぃっぃぃ！」

「いや・・サーモンでもモテるときはモテるって・・」

「ぜっっっったいに無理だ！タラコにでももてようってのか？あ？」

「でもドリフもモテてるし・・・」

「コミックバンドかっ！」

→ → → → → → →

けんけんがくがくの話し合いの末、さまざまな”話術”を駆使して、ようやくメンバーを納得させた帰り道。
校門から出たところで、後ろから声をかけられました。

「いま、帰り？」

「あ・・・宮崎さん・・・」。

宮崎さんは、西条くんが生徒会長秘書候補としてあげた2組のアイドルです。

「どう？コンサートうまくいきそう？」
となりによりそう宮崎さん。
悪い雰囲気ではありません。

「んー。どうかな。ちょっと絶望的かも」。
「今回はなに演るの？」
「え・・。まぁ、ほぼオリジナル・・。うん・・・オリジナル」。

僕は自分に言い聞かせるように言いました。
そうだ。オリジナルだ。たとえ紅ジャケの歌だって、立派なオリジナル。

「がんばってよね！去年素敵だったよ」。
「え？」
「うん。私、ちょっぴり憧れちゃった」。
「・・・・」

2人は無言になりました。
実にいい雰囲気です。しかも相手はアイドル宮崎さん！

僕たちは、音楽の話などをしながら、ずっと並んで歩いていました。
肩と肩がふれあいそうです。
はたから見れば恋人同士？

「クリスマスとか、プレゼントいっぱいでしょ？君」。
「え？そんなことないよ。宮崎さんこそアイドルだから・・」。
「うーん。でも、やっぱり一番好きな人にー・・・」
宮崎さんは言葉をつまらせました。

が

そこに

”あーあーただいまーマイクのーーーテストちゅうーーーー”

がなりたてるようなスピーカーの音。
実に聞き覚えのある声です。

そこは”駐在所前”。

”あー、ママチャリくん、ママチャリく～ん”

「え？ママチャリくんって君？」
突然の”警察放送”に、宮崎さん、すっかり驚いています。

「え？い、いや。知らないよ」。

”　下校途中のママチャリく～ん　夜道気をつけて帰ってくださ～い。マイクのテストちゅう～　”

「や、やっぱり君のこと、じゃない？そういうえば修学旅行で・・・」

「え・・、いや、まさか」。

ところが

”ママチャリく～ん、こないだとつれてる女の子が違いますね～。このいろおとこ～”

げげげげ！

これが商店街中に聴こえているんだからたまりません。
ただの通行人まで笑っています。
これが正義の警察官のやることか？

”　はい、若い女性は暗い夜道と、送りオオカミにお気をつけください～　”

「あ・・。ごめん。あたし、バスの時間あるから～」。
駆け出す宮崎さん。

「え！み、宮崎さん・・・・」。

”わははは～。どうだ～。ママチャリ～、今日から新しく導入したんだ。外部拡声器～。ただいまマイクのテスト中～”

この「新兵器」がよほどうれしいらしく、信じがたいほどにうかれています。駐在。
たまらず僕は駐在所の中へ。

「駐在さんっ！！！！！！！」



　　　　あなたの1クリックが明日の1行！


　　　　7章-第21話へつづく

mixiに「ぼくちゅうコミュ」現在134名が参加中！。mixiやってる方、ぜひどうぞ！

関連記事

• 7章-第21話　おぼろ月夜(3)
• 7章-第20話　おぼろ月夜(2)
• 7章-第19話 おぼろ月夜(1)