ぼくたちと駐在さんの700日戦争

＜本日シリアスモードです＞

「井上の・・・ことだな？」

パピィは事前にケン坊たちの用件がわかっていたようだった。

「はい」

と、花さん。

「一応、ママチャリにも言われてたんで、警察庁の友人にも連絡はしておいた」。

「すいません。駐在さん」。

「だが、海外ってなるとさすがになー。まして中国だろ？」

「ええ。上海らしいです」。

つまりは、夕子先生のお兄様の行方を追っているらしい。

「で、ママチャリは？」

「たぶん今朝、立ちました」。
と、花さん。

「井上追っかけてか？」

「はい」。

話は深刻だった。
井上先生のお兄様が海外に行ったのは、どうやら花さんと婚約してすぐらしいのだが。

「問題は、お母さんがいつまで持つか・・・・」。

「そんなに悪いのか？井上のおふくろ」。

「いえ。今は小康状態ですが」。

「夕子ちゃんはこっち来てていいのか？」

「それが・・・お母様の言いつけで。教壇に立つようにと・・・」。

「気丈な人だなぁ。あのおふくろさんも・・・」。

「ええ・・・」

わたしは、夕子先生の笑顔の裏に、そんなことがあるなど、想像もつかなかった。
ひたすらにチャーミングで、いつもにこやかで。

「井上のバカが。高校の頃は、そんなバカじゃなかったのになぁ。こんなかわいい婚約者残して」。

すると花さん

「いえ」。

「私は、彼が旅に出たことは誇らしく思ってます」。

胸をはって言った。

「彼が旅でなにかを見つけて、大きくなって帰って来るのなら、それでいいんです」。

「私もそうでしたけど、彼は高校まで、ずっと線路の上を走っていて。誰からもいい子で。どこから見ても優等生で」

「でも、高校に入って、仲間に出会って、なにかがちがう、と感じたのでしょう」。

「彼は自分を探したくなったんだと思います」。

「自分の器に入るものがなんなのか。そもそも自分の器ってどれくらいなのか」。

「だから彼が見知らぬどこを旅していても、わたしは寂しくなんかありません」。

「だって私は・・・」

「彼を信じてますから」。


「私と結婚するなら・・・・それくらいの男じゃないと！」


わたしは、

今までに聴いたどの先生の言葉よりも

これほど心に残った言葉はなかった。


ともだちや仲間って。それぞれが運命なんだ・・・・。

あるいは恋も。

この人は、どこにいるかもわからない井上先生のお兄様のことを信じ切っている。

なんて深い。

それよりなにより

花さん、かっこいい！

わたしもこんな女性になりたい！


わたしは、わずか3、4日で、恋に落ちた自分を、ちょっとだけ反省したけれど

頭に浮かんでいたのは、その南先輩のことではなく、なぜか涼太のことだった。


「ふむ」。
と、パピィ。

「お前らは・・・・あの頃も思ったが・・・いい高校時代を過ごしたなぁ」

花さん
「そうですね。彼らとかかわれたのは、人生の転機でした」。

「うんうん」。

パピィは、自分のことでも褒められたかのように、にこやかに笑った。


「それで今日はどうすんだ？」

「私は夕子ちゃんのとこに泊まります」。

「ああ。そりゃいいな。で、こいつは・・・・」

ケン坊は、
「あ。俺はここ泊まりますんで。ご心配なく」。

「いや！待て！そりゃご心配だぞ？」

「酔っぱらい運転で帰ってもいいんですか？飲んだら乗るな。乗らせるなら飲ませるな」

「くっそ～～～～！はかりやがったな？ケン坊！」

「わははは。後の祭りですよ～～～」

「まぁいい。お前はヤギ小屋に泊まってパトパトの世話でもしてろ」

「ええええ！ヤギ小屋？」

「ひょっとするとキリストでも授かるかも知れん」。

「な、なに言ってんすかっ！」

結局、ケン坊は、居間に泊まったが・・・。


朝おきたら、寝ているケン坊の上に、子猫が3匹のっかっていた。



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