ぼくたちと駐在さんの700日戦争

しかし、パピィがハワイの人さらいを居間に通したからたいへんだ。

「お、お母さん。部屋で勉強してくる！」

「お客さんにごあいさつしてからでしょ？」

やぱし・・・。

厳しい・・・。

「それから猫。ちゃんとお父さんに報告しないと」。

「あ～～～、そ、そうね。そうだよね」。

それはそうなんだけどさ～～。


「おじゃまさせていただきます～～～。巡査さん～～～～」

来た！

とっさにわたしは後ろを向いた。

「いらっしゃい。ケンイチさん」。
お母さんも知り合いなんだ？

まぁ、無理もないか。

「奥さん、どうも～～～～。あいかわらずお奇麗で～～～～」

「ほら。愛。ご挨拶なさい」。

「いらっしゃいまし・・・」

後ろを向いたまま挨拶した。

「お客様にお尻向けて！失礼でしょ？」

「は～～い・・・」

「いらっしゃいませ！」

顔を見られないよう、奇しくも希望通りの「土下座でお迎え」。

「あ！娘さん？おっきくなられましたね～～～～」

「はは～～～～」

顔を上げられないので、土下座しっぱなしのわたし。

ところがハワイの人さらいも、わたしの丁寧すぎるおじぎに頭を下げ返した。

「どもども～～～～お父さんにはお世話になってます～」

「いえいえ～～～～」

「どもども～～～～」

やばい。こっちがやめるまで頭上げないよ、この人。
どうしよ？

「いえいえ～～～～」

「どもども～～～～」

エンドレス・・・。

とうとう、パピィ
「おまえら。そろそろ挨拶終わりにしろ！」

しかたないので、前髪を武器に、うつむいたまま顔を上げた。

「いやぁ。愛ちゃんでしたっけ？おっきくなられましたね～」。

すると、後ろにいた女の人も

「愛ちゃん？そっか！愛ちゃんだよね！」

ハワイの人さらいの愛人に知り合いはいない。
わたしってばどういう幼少時代だったのだろう？

「はい・・・」。

「お顔見せて！」

よけいなこと言うんじゃないよ・・・。

パピィも
「愛。なに恥ずかしがってんだ？恥ずかしがるような相手じゃないぞ」

「えっと・・・・それがぁ・・・・」

しかたない・・・・。

ようやく顔を上げると・・・

「ああああああ！」

ほら・・・言わんこっちゃない・・・・。

「お嬢ちゃん、どっかで会ったっけ？」

もう忘れてんの？？？

そりゃ同じ道走るわ・・・。

「い・・・いえ～～～。おはつにお目にかかります～～～・・・愛でございます・・・」

「いやぁ・・・なんか見覚えが・・・・・」。

　ブンブンブン！

「あーーー！その首の振り方は！やっぱしーーーーーー！」

バレた・・・・・。



「あはははは。ハワイの人さらいはいいなぁ。ケン坊～」。

「笑いごっちゃないっす。おかげで隣りの県まで探しに行ったんすから」。

「ゴ、ゴメンナサイ・・・」。

謎のケーキ屋が訪ねて来た理由は、実はツレの女性のほうにあった。

「かわいくなったねー。愛ちゃん」。

「え・・・っと・・・」。

「覚えてないよね。無理ないけど」

「ママチャリの・・・お知り合い・・・ですか？」

だって謎のケーキ屋から電話があったのは、BJの直後。
なんらかの連絡があって来たにちがいなかった。

「そうよ。さすがにママチャリは会ってるんだ？」

「いえ・・・電話だけ・・・」

「そう。まぁ。会わないほうがいいとは思うけど」

ママチャリ。評判悪っ！　無理もない。郵便番号で女管理してるようなヤツだから。

うんうん、と、大きく大きくうなづくパピィ。

「夕子先生、来てるでしょ？」

「あ！はい」。

「ウフフ。義妹なの」。

その人は、夕子先生のお兄様の婚約者だった。



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