ぼくたちと駐在さんの700日戦争

2時間歩き通しは、さすがにきついぃぃぃぃ。

でも、あとわずかで家、というところで

「せんぱ～～～～～～～い！」

後ろから走って来たのは

「涼太!?」

「は～～～・・・やっとおっついた～～～～」。

「なにしに来た？」

「いえ・・・だって今日、猫運ぶって言ってたから・・・・」

「それで・・・わざわざ追っかけて来たの？走って？」

「いえ。駅前まではバスで来ました」

そう言うと、肩で息をしたまま、猫の箱をさくっととりあげた。

「べつによかったのに～・・・」

「いえ。元は僕が原因の猫ですし～」

「そりゃそうだけどろうけどさ」。

1年生でこの責任感はたいしたもんだ。

「それに先輩んとこ、ヤギいるんですよね？」

「いるよ。パトパトって言うの」。

「パトパト？かわいい名前ですねー。」

「そ、そうか？」

わたしは自分がちっちゃい頃につけた名前が褒められたのが、素直にうれしかった。

「僕、ヤギも好きなんです！見せてもらっていいですか？」

「いいけど・・・・でも、今、病気なんだ」

「あ。そうなんですか～。じゃ、今度にします」

わたしの速度に合わせて、となりを歩く涼太。
男の子だけど、やっぱり南先輩と歩いたときとはまるで違う。
弟がいたら、こんな感じ？

「それにしても、よくわかったねー。駐在所」。
大の大人も迷い続けてるのに。

「長谷川のばっちゃんちが、このあたりなんですよ」

「え！そうなの？」

「はい。ここの手前の交差点、右にいったずっと奥」

「じゃ、この距離、猫を運んだわけ？あの早朝から？歩いて？」

「いえ～。バスですよ～。こんな距離歩くバカいませ・・・」

「悪かったね。バカで」。

「すいません・・・」

「だいたい、バス乗れるの？猫」

「運転手さんを説得しました！そしたら、朝早いしいいだろって」

おおお。なんてすごい！
バカだけど口はたつんだ？

「ラッキョウが逆にダメでした・・・」

わかるような気がする・・・。

「だったらなんで早く教えてくんないの？ずっと歩いて来ちゃったじゃん！」

「いや・・・だから追いかけたんですけど・・・」

あ。そうか。
チラシ回収に行ってたんだ。『愛 ＆ H』の。

「あの～～～～～。チラシ、すいませんでした～～～」。

「え？もういいよ」。

「いえ・・・ほんとに。春菜先輩にもしこたま怒られて・・・」。

「いいってば。それより涼太。女子はどうやって集めたの？やっぱあのチラシ？」

「あー、あれはですねー・・・・」



「チョコレート教室ぅ？」

「はい。第一弾として手作りチョコ教室をやるって書いたんですよ」

「それで・・・あんなに集まったの？」

「ほら。ミントチョコってあるじゃないですかー」

「なるほど・・・ね。ミント倶楽部だもんね」

ミントチョコなんて、田舎じゃ縁のないもので、売っているオシャレな店もなかったけど
レベッカの歌の歌詞に出て来てから、いっきにポピュラーになった。
それはそのまま「都会っぽいあこがれ」だったのだ。

＜レベッカ=キュートな女性ボーカリストNOKKOを中心としたロックグルプ。1984年デビュー。85年の『フレンズ』で大ブレイクした→『フレンズ』動画＞

「女子と男子のニーズはちがいますからね～～～」。

なるほど～。
女子と男子のニーズのちがいね～。うまいとこつくなぁ。
案外策士だ。涼太ってば。

「ん？アカネちゃんって子は？」

「ああ。アカネちゃんは、純粋に先輩が好きみたいですよ？」

わたしは驚いた。いや。アカネちゃんのことそのものではなく
そういうことを平然と語る涼太に。
普通、年頃の男の子なら、そういうことにいろんな偏見やイタズラな興味を持つものなのだが、彼にはそうしたところが一切ないように見えたからだ。

そして涼太は

「僕も、先輩、大っ好きです！」

これも平然と言いのけた。

わたしは

「バ、バカヤロー！」

こう答えるのが、せいいっぱいだった。


涼太は、家の直前で、猫の箱を渡すと、

「そいじゃ！先輩！今度パトパト見せてくださいね」
「うん。じゃね～」

涼太を見送ると、わたしはパトパトの小屋に直行した。

　パトパト・・・

　生きてる・・・！

生き物が生きてることって・・・こんなに感動的なことなんだ・・・。

さすが名医BJ。パトパトの震えは止まっていて、わたしを見て立とうとさえした。

「あ。いいよ。パトパト。まだ休んでて」。

それでも、わたしがいると繰り返し立とうとするので、パトパトを抱きしめた後、小屋を出た。

「おかえり。愛。パトパトだいじょうぶだったでしょ？」

「うん。ところでお母さん、へんなワゴン車来なかった？」

「ワゴン車？来ないわよ？」

そうか・・・どこ走ってんだろ・・・。ハワイの人さらい。
わたしはちょっと胸が痛んだ。

「あ、そうそう。パピィは？」

「お父さんは山に捜索行ったわ」

「また・・・遭難？」

「そうみたいね・・・・」。

人に迷惑かけるなら、山なんか登んなきゃいいのに。
わたしはパピィが捜索に出るたびに、同じことを考える。

猫のことをパピィにたのむのは、ちょっとの間おあずけになった。


ワゴン車が実際に到着したのは、その日もとっぷりと暮れてから。

「ふえ～～～～～やっとついたぜ～～～～～～～～」
「となりの県の駐在所行ってどうすんの！」
「やかましい！寝てたヤツがなに言いやがる！」

もめながらやって来た。

そして、パトカーがないと知るや

「けっ！巡査！いやがんねぇのかよっ！わざわざ来たってのによ！ったくぅ！」

すさまじく怒っていて

「土下座で迎えろ、土下座でぇ！」

駐在所の扉をけった。

が。

「ここにいるがどうした？ケン坊」。
パピィがちょうど捜索から帰ってきた。

すると

「あ～～～。どうも～～～～。巡査さん～～～～～。ただ今のおかえりで～～～～」

「お前、今、扉、蹴んなかったか？」

「いえ～～～～。あの、ワールドカップの練習をちょっと～～～～～～」

土下座で迎えた。


＜本日ギャラリーやります＞

人気ブログランキング｜ブログ村ランキング

バースデーギャラリーへへ→
MINT倶楽部 第23話へ→

▲MINT倶楽部 目次へ

→めおチャはこちらから。

関連記事

• MINT倶楽部 第23話
• MINT倶楽部 第22話
• MINT倶楽部 第21話