ぼくたちと駐在さんの700日戦争

こういう日に限って、春菜ちゃんは遅れて来た。
それはある意味、幸いだったとも言える。

「え～～～～！涼太がそんなことを～～～～？」

「そうなのよ。Hちゃん」。

「その呼び方やめて。イニシャル嫌いになっちゃいそうだから」。

「でも、女の子はなんで集まったのかな」。

「あ。それも調べたほうがいいよ～。涼太のことだから」。

言えてる・・・。

アカネちゃんという子もやってきかたも、ちょっとヘンだった。

「あ！あたし、もう帰らないと！」

「え？愛ちゃん、帰っちゃうの？」

「だってほら。猫つれてくから、バス使えないじゃない？」

徒歩だと、駐在所までは2時間ちかくかかる。
今日の帰りは、南先輩は「おあずけ」。

「あ。そうか。ゴメンね。つきあえなくって」。

「ううん。だって誰かは残った猫見てなきゃいけないし。まだ入部希望者来るかも知んないし」。

姫と涼太では不安でしかたない。

「お父さん、迎えに来ないの？パトカーで」。

「パトカー、我が家の車とはちがうもん」。

「へー、お固いんだね。さすが警察官！」

別にお固いわけじゃないけど。猫をパトカーはさすがにまずい気がした。
警察官の娘なんて、ほんっといいことひとつもないよ。

「ねぇ。春菜ちゃん。バレンタインってさーーー」

「なに？」

「ううん。なんでもない」。

わたしは、バレンタインに南先輩にチョコを送るか悩んでいた。
悩むと言ったって、つい昨日あたりからだけど。

それは、1週間ほど前のわたしには想像もつかないことだった。

猫をかかえて歩く道は、思ったよりずっとしんどかった。
わずか3匹。えーっと、寺尾と千代の富士と、あとなんだっけ？
ゆらさないようにかかえていくのは至難の技だ。

途中、ようやく南先輩が降りたバス停付近にさしかかった。

それだけのことなのに、胸がキュンとなった。

　ぜったいやばいよ・・・。これってば・・・。

そこから駅前まで一旦出た。ずいぶんと遠回りになるけど。
もしかしたら南先輩に会える気がして・・・。

駅前のお菓子屋さんのショーウィンドウは
当たり前だけど、もうバレンタイン一色。

これだって。去年は全然関係なかったのに・・・。

　不思議だね。
　恋ってやつ・・・。

南先輩にはやっぱり会えなくて、わたしは遠回りしたことを少し悔やんだ。

「あともう少しでつくからね」。

猫に話しかけながらも、おのずと足の運びが早くなる。

パトパトはホントに大丈夫だったんだろうか？
BJはああは言ってくれたけれど。やっぱり心配。

　落ち込んでいられない！早く帰らなくちゃ！


と、


「あーっと。そこのおじょうちゃん」。

パステルピンクのワゴンが私の横に止まって、声をかけてきた。

「はい？」

見ると

おわぁ！グラサンにアロハ柄の服！
趣味わるっ！
ってか、こわっ！
そうだ！ハワイの人さらいだ！まちがいない！


するとハワイの人さらい。
「このへんの山奥に駐在所あるはずなんだけど～、おじょうちゃん、知らない？」

わたしは、その外見の恐ろしさに、おもわず首をふった。
警察官の娘なんて、いっつもこんなものだ。
誰からうらみを買ってるかわからない。
安易に答えないように、パピィからもきつく言われている。

「そか。しょーがねー。交番ででも聴くかぁ」。

駐在所が交番だってば。
バカだな。ハワイの人さらい。

わたしは、ふと、ワゴンの文字を確認した。

ガトーって・・・。

え！ケーキ屋？

この風体でケーキ屋？

　メルヘン～～～～～？
　メルヘンはないだろ。メルヘンは。
　カンコウヘンみたいな顔して。

ありえね～～～～～～


そうか。これはきっと「偽装」だ。

パピィになんらかの恨み持ってるヤツに違いない。

『ゴッドファーザー』でやってたもん。


「っくしょ～～～！巡査の野郎！こんな山奥来やがって～～～～～！」

ほらぁ！

ン？待てよ？

ケーキ屋？


＜※いよいよ話は佳境に！＞

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