ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「ほろほろ、猫なんとかしないと、やふぁいかほねー」。

「うんうん。やふぁいよー。はるなひゃん」。

「ぼふ。もらいへさがしてひまふ」。

カリコリとラッキョウをかじる3人。

「春菜ちゃん、なんほめ？」

「16っほ。愛ひゃんは？」

「ひょうど20っほめ」。

「ふっご～～～い」

そんなこと褒められてもうれしくないよ・・・。

放課後は放課後で、一番遅くまで居残りしなくてはならない。


居残りしていると、なにしろ育ち盛りなのでお腹がすく。

そうすると、ついつい手が出ちゃうのだ。ラッキョウに。

「バレンタイン。ラッキョウじゃダメかしらね？」
と、春菜ちゃん。

「いいと思うけど、100パーふられるよね」。

「そっかぁ。なんとかチョコの中に入れるとか・・・」

「ラッキョウチョコお？」

「だってこんなにあるんだよ？」

というほどにあるのだ。ラッキョウ。

部員は増えないのに、猫とラッキョウだけ増えた。


「あ。そう言えばヘンパイ」
と、涼太。

口にふくんだまんまだと「変態」って聞こえるんですけど。

「なに？」

「1年にもうひとりいるんでしょ？部員」。

「あー、いるよ」。

「来まへんね。いいんでふか？」

「あー、姫はね。いいの」

「姫？誰でふか？ほれ」

「1年2組のエリカちゃん。知らない？」

「あ！知ってまぷ！」

「ラッキョウ吹くなよ・・・」。

「すいません・・・」。

涼太がラッキョウをふくのも無理はない。
姫は、1年ではダントツのかわいさを誇るマドンナだ。
そのかわいさゆえに、3年生のシゴキの標的となり、部活に来なくなってしまったのだ。
3年生が卒業すれば、おのずと部活にも来るだろう、と、のどかにかまえていたが

はたしてこの状況で、姫はもどってくるだろうか？

「す、すごい！学校の2大美女が揃ってるんじゃないですか！」

「2大美女って？誰？」

「え。中嶋先輩とエリカさんですけど」。

「え！あたし？」

意外だった。なにしろ男子からは、いつも「ブス」よばわりされてるわたし。
考えてみたら、お母さんは美人なわけで、それに似てるんだから、それなりに自信を持ってもよさそうなもんだったのだが、そういう観点で顔を考えたことなどなかったのだ。

「これで顧問が夕子先生か～～～。すごいな～～～～」。

あ・・・夕子先生・・・そっちも残ってた・・・。

「僕、ラッキョウ部、入れてしあわせです！」

「ラッキョウ部じゃねーよ！」

「あ。ミント倶楽部でした・・・。すいません」。

まぁ。ミント倶楽部も嘘なんだけどね・・・。
この際、ラッキョウ部でもいいか？

「でも、部員増やさないとねー」
と、春菜ちゃん。

「そうそう。このままだと廃部」。

「え？そうなんですか？」

「そうよ。だから男子も入れることにしたんだもん」。

「僕。さそってみましょうか？」

「え！思い当たる人いんの？」

「いませんけど・・・。エリカさんと中嶋先輩がいるなら、集められると思います」。

そっか！
男子ってのは、そういう傾向があるのか！

「だから言ってるじゃない」
と、春菜ちゃん。

わたしはいまさらながら、春菜ちゃんの提案の「根本」に感心したりするのだった。
そっか。男はスコートが好きなだけじゃないんだ・・・。

「ただ・・・・」。
と、涼太。

「なに？」

「ラッキョウ、好きじゃない子でもいいですか？」

「いいんだよ！お前が勝手にもらって来たんだよ！ラッキョはよ！」

ったく。こいつは！

しかし、悪い提案ではない。
となると、わたしたちは「姫」をなんとかしなくてはならない。

「姫。もどってくるかなぁ・・・」
「どうだろ？」

問題山積。


子猫見張りのおかげで、わたしは普段よりずっと遅いバスに乗ることになった。

あまりにラッキョウを食べ過ぎて、バスが揺れるたびに、口からもどってきそうになる。

　涼太のヤツ～～～～～～！

夜のバスは、意外に混んでいて、心なしかみんながこっちを向いている気もする。

そんなにラッキョくさい？

そしてこういう時に限って

「あれ？君」。

え！え！え！

「あ・・・・。南さん・・・・」

駅前バス停から乗ってきたのは、朝、いっしょに走った南先輩だった。


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