ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「よ、淀殿！い、家康めが攻めてまいりました！」

「なんと申す！それでは約束がちがうでないか！」

「ですからこの幸村めがあれほど申し上げたではないですか～～～～！」

「よし！ものども～～～であえ～～～！」

八木殿。中村殿。村田殿。佐藤殿。小林殿。石山殿、討ち死に。

「いけ～～～～～～～～～～！」

岡坂殿。林殿。脇田殿。石川殿。加藤殿。浅田殿、討ち死に。

「淀殿～～～城に大砲が～～～～～」

松井殿。田宮殿。山田殿。鈴木殿。畠山殿。向井殿。城ケ平殿、討ち死に。

　→大阪冬の陣　つづく・・・。



それからずっと、わたしにとって「ママチャリ」は忘れていた存在だった。

そんなにアルバムを見たりしないし、パトパトも2代め。
いつ2代めになったのかも、実は記憶にないほどだ。

パピィたちにとっては、忘れがたい存在でも、わたしにとってはすべて「物心つく前」のお話。
それも4つも前の町の話なのだ。

5度目の転勤で、我が家がやって来たのがこの山あいの町。町というか村だね。村。
中学校は里にあって、バスで40分もかけて通っている。

山あいの駐在所の仕事は、里に赴任したときとはまるでちがう。
なにがちがうって、「遭難救助」があることだ。

おかげで、夏休みや冬休み、GWも、親とおちおち遠出なんかできない。

だからクラスの子たちが、連休のレジャー話などで盛り上がっていても、ついていけない。

「ねーねー。愛ちゃんはもう東京ディズニーランド行った？」

「ううん。まだ」。

こっちはねー。
本物のジャングルクルーズしてんのよ。夏山でね。
おかげでつまんないシャレ言うスキッパーもいないし、プーさんは本物だよ。

この村にやってきて2年め。

年が明け、バレンタインの声を聞く頃、担任の文恵先生が、産休をとられたことで、ひさびさに「ママチャリ」に関わることになった。

「というわけで～先生は、赤ちゃんが産まれるまで、しばらくお休みをいただくことになりました～」

「え～～～。なんで～～～～」。
「いやだ～～～～」

クラスに広がるブーイング。

「しかたないでしょ？産休なのよ。サンキュ～～～～」

「つまんね～～～～～」

さっきより上がるブーイング。

「で。わたしがいない間、臨時の先生にこのクラスを見ていただくことになりました」

「寂しいよ～～～」
「先生行かないで～～～」
「教室で赤ちゃん産んでいいから」

無茶言うな。

やっぱりブーイングがあがるが、これが最後だった。

なぜなら

「井上先生。どうぞ」

　ガラ・・・・

入ってこられた代理の先生というのが

「はじめまして。みなさん。みなさんが進級されるまでの間、このクラスを担当する井上夕子です」。

めっちゃくっちゃ奇麗だったからだ。

特に男子だちは、口が閉じられないほどらしい。

「高橋。ヨダレこぼれてるぞ」
「あ・・・ああ・・・・そういうお前も鼻水出てるぞ」
「そう言う伊藤もチン○からなんか出てるぞ」

かくせよ。チン○。伊藤。

というほどすごい。

いや。女のわたしから見てもベラボーにチャーミングだ。
わたしの叔母さんも、かなりチャーミングだけど、いい勝負。

「わずかな間だけど。仲良くしましょうね！」

「は～～い！仲良くしま～～～～～～～す！」

文恵先生。
「というわけで、私がもどるまで、井上先生と仲良くね」。

「あれ？文恵先生、まだいたんですか～？」
「さっさと赤ちゃんでもなんでも産んできてください～」
「お子さんが成人されるまで戻って来なくっていいっすよ～」。

そんなもんだ。

無理もない。とにかく井上先生の可愛いさと言ったら、そのままテレビにいるアイドルそのものなのだ。

しかも、しかも

「あなた。愛ちゃんね？」

「え？あたしのこと知ってるの？」

「うふふ。駐在さんとこの娘さんでしょ？よく知ってるわ」。

「え～～～～～～～～～～～～～」


放課後。さっそく夕子先生を取り囲むクラスメイトたち。
いや。噂を聞きつけて、隣りのクラスからもやって来ている。

「先生、先生。結婚してるんですか～～～？」

「まだよ」。

「恋人いるんですか～～～～～？」

質問攻めだ。

「ウフフ。いるわよ」。

「え～～～～～！」
「なんだ～～～～～！」
「つまんね～の～～～～！」

男子は「無駄に」落胆しているけれど、こうなると俄然女子が勢いを増す。

「どんな人なんですか？」
「きっと素敵な人ですよねー」。

そして

「先生、中学生のとき恋してました？」

「みんなと同じ頃？もちろん。してたわ」。

「え～～～。聞かせてくださ～～い」

バレンタインも近いということもあって、

「バレンタインはあげました？」

当然出てくる質問だったのだが

「そうね。バレンタインはね～」

「うんうん」「うんうん」「うんうん」

「フラれたの」。

「え～～～～！先生が～～～～～～」
「信じらんな～～～～～い」
「ありえな～～～～～い」。

「どこの馬鹿なんです？」

その「馬鹿」というのが

ママチャリだったのだ。



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