ぼくたちと駐在さんの700日戦争

孝昭くんは帰宅していませんでした。

僕は覚悟を決めました。

「えっと・・・・。奈々、また外に出したんですね？」

「そりゃーもー」。

にこやかな早苗お姉様です。

「奈々、部屋荒らしましたよね・・・？」

「そりゃーもー」。

にこやかにひくつく早苗お姉様です。

「掃除・・・しますね・・・・？」

「あったりめー・・・」

と、怒鳴りかけた早苗お姉様でしたが、

思わぬことが僕を助けました。

「くっさーーーーーーーっっ!!」

「え？」

「お前！臭い！」

「いや～～～それが・・・・」

「敷居またいだら殺すっ！」

　ピシャ！

扉は閉じられました。


「先輩。よかったですね～～～。ウンコ顔で」
と、ジェミー。

「やかましい！」

しかし。

外でさえ臭いものが、車などという狭い場所で臭くないわけもなく、

「鼻曲がる～～～～～～～」

「お前が言うな！」

でも、ほんっと臭い・・・・。
当人でさえ臭いのですから、

「お前、顔洗って来い」。
村山くんまで・・・。

「さんざん雪で洗ったって」。

「石鹸つけて洗って来い！」

「石鹸なんてないよ」。

現代と違い、コンビニがあるわけでもありません。

「お欄さんとこならありますよ？」
と、ジェミー。

「え～～～～～～！また行くのか？」

しかしもはや深夜。確実におきているのは、お欄さんしかいないわけで・・・。

　クゥンクゥンクゥン

またもメス犬奈々の大歓迎を受けて

　♪ピンポ～～～ン

「また来やがったのかっ！あたしゃ朝から仕事なんだぞ？」

「すいません・・・石鹸、貸していただけないでしょうか？」

扉越しの会話。

「ったくーーーーー！」

怒りまくりながらも、早苗お姉さんは、洗顔石鹸を貸してくれました。

さらに

「ほらよ！」

大きめの洗面器いっぱいのお湯を、玄関のタタキに置きました。

それは見ようによっては、犬の餌のごとき与えられ方でしたが、実に彼女らしいやさしさでした。

「あ・・・ありがとうございます」。

やはり閉じたままの扉越し。

「洗ったらもどせ」。

「はい・・・」。

今もそうかも知れませんが、男子高校生の僕たちにとって「洗顔石けん」は、未知のものでした。
しかも、早苗お姉さんの貸してくれた洗顔石けんは、かなりいい物らしく、その香りの甘く高貴なこと。
犬のウンコの匂いを落とすには、もったいないくらいでした。

それはとりもなおさず、お欄さんの匂いそのもので・・・・。

　あ・・・・。

僕は気づきました。

花ちゃんが僕のベッドに残した残り香。
和美ちゃんのシュシュの匂い。
そしてお欄さんの洗顔石鹸。

「なぁ。村山」

「ん？」

「女の子って・・・いい匂いだな」。

「なんだ？今更。犬のウンコで頭おかしくなったのか？」

ちがいます。

確かに今更だけど。

　女の子って。
　いい匂い。

それは、
どこかやさしくって。
どこか懐かしい。

きっとそれは、赤ん坊のときに、母の胸の中で嗅いでいた匂いなんだと。

女の子って。

いい匂い。

しばらくしてから村山くんも

「うん。いい匂いだな・・・・」。

村山くんはきっと、夕子ちゃんの匂いを思い出して言ったのかも知れません。

→ → → → →

トレノは、深夜の国道を走り続け、

やがて福島県との県境にさしかかった頃、

「やばい。ガソリンがない・・・・」

「え？ほんとか？」

「ああ・・・まずいな」。

「開いてるスタンドあるかな？」

「スタンド以前に、お前、金あるか？」

「それは確かジェミーが・・・」

そのための同行させたわけですから。

「え？お金なんかありませんよ？」

「え！1円も？」

「1円も」

「え～～～～～～～～～～～～～」

「だって先輩、持って来なくっていいって」。

「そりゃ土鍋の話だろ？」

「やだなぁ。病院に土鍋持って来てるヤツなんかいませんよ～」

く・・・・・！

しまった・・・熱ボケしてたままだったんだ・・・。

結局、ジェミーは、「ウンコ氷嚢」を作っただけ。


「まいったな・・・引き返すにも足りない・・・・」。
と、村山くん。

思わぬ絶体絶命です。


※ランキング小説部門下位がアダルトだらけになったので、「お笑い部門」1本に切り替えました。
　例のインチキサイトと直接対決です。

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