ぼくたちと駐在さんの700日戦争

しかし10月はまだ枯木のシーズンには早く、なかなか見つかりません。
そこで僕たちは、持っていたプリントなどを燃やしてしまうことにしました。
丸めて入れると、新聞紙1枚分で薪1本分の火力があります。
アウトドアが好きだった僕たちは、こういう知識には長けていたのです。が・・
そんなにプリントあるわけないのであって、それでなくとも勉強嫌いですから、たいした量が集まりません。

「いっそ古文の教科書、燃やしちゃおうか？」
西条。いくら嫌いだからって。

結局、千葉くんが戻って来るまでにたいした火力を得ることができませんでした。

「いやーー。千葉ー。悪い悪い。まだ火がさ・・・・げ！」

！！！！！！

池から上がった千葉くんを見て一同びっくり。

体中、ヒルだらけ・・・・！！！

「う、うわ～～～～～！！！ひ、ひる男っ！！！！」

僕たちは、まるで化け物を見るかのように逃げ出しました。

もちろん一番びっくりしたのは本人です。

が、そんなもんかまっていられません。
とにかく、おっかねーおっかねー。
みなさんにお見せしたいくらいです。体に100匹からのヒル！

「お、おい！こら！お前ら！待て！待てって！なんとかしてくれよ！」

なんとかしろったって・・・。
僕たちはザリガニ池から自転車のあるところまで逃げました。

「あーーー。気味ワリーーー。耐えらんないぜ」。

「うん。友達やめよっかな。俺」。
なんて薄い友情でしょう？

ところが、なんと靴の持ち主であるのぶひこ君も一緒に逃げていました。

「な、なんだ。お前も一緒に逃げて来たのか？」

「だ、だって・・。僕、怖くって・・・」。

「あー。そうだな。ああいうお兄ちゃん初めて見ただろうからな」。

「うん。俺らでさえおっかないんだから、小学生にはもっと怖いよな。わははは」。

「ところでチャーリー、お前持ってるのそれ・・・」。

「うん。千葉の服だけど」。

「え！千葉の服って！じゃ、千葉、裸のままじゃん！」

「ああああああーーーーー！」

「馬鹿！千葉凍え死ぬぞ！たき火たけてねーんだから！」

そこへ突如飛び出して来た男がいました！
言うまでもありません。「裸の千葉くん」。

「おまえらーーーー！人、泳がせといてなんて薄情なやつらなんだーーー」

僕たちは、多数の経験から、追いかけられると逃げる、という習性がついておりましたので

「うわああああああ！」

いっせいにヒル男から逃げようとしました。
しかし怒りの千葉くん。かたっぱしから僕たちを捕まえると、体についた「ヒル」をはがしては、僕たちの顔にくっつけていきます！
これはたまりませんっ！
もうこれは5章でやった「ドラゴン合戦」の比ではありません。その恐怖！

やがてしっちゃかめっちゃかに「ヒルの付け合い」になり、それはもう大騒ぎ。
ヒルってねー。丈夫なんです。あらゆる生命体の中でも、ダントツの生命力。
なにしたってくっついちゃうんですから。
もう修羅場修羅場。阿鼻叫喚は町中にとどきそうな大騒ぎでした。

と、そこへ

この騒ぎを聞きつけ一人の男性がやってきました。

「なに騒いでんだ？おまえたち」。

それは坂の上にある写真屋さんのご主人でした。

「あーーー！君たちは！」。

そうです。僕たちは幾度かふれているように、心霊研究などを行っていたものですから（心霊写真の）現像をする写真屋さんとは顔なじみ。

「あ！おじさん、こんばんは～」。
普通なふりして挨拶する僕たち。顔にヒルくっつけて。
どう見たって普通じゃありません。

「な、なにやってんの？こんなとこで？」
もっともなご質問です。

「あ！そうだ！ちょうどいいや。写真屋さん、駐在さんに電話してくれません？」
「駐在さんに？なんて？」
「探してる子供、見つかりましたって」。

その探している子供の顔にヒル1匹。いつ誰がつけたんでしょう？

「い、いいけど・・。なんだって千葉くん、裸なんだ？」

「あ・・えーっと・・」

「やだなぁ。おじさん。千葉裸じゃないですよ？」
と、僕。
「え・・だって・・」。

「千葉が着てる服は、馬鹿には見えない特殊な繊維でつくられてるんですよー。おじさん見えないんですか？」

「はぁ？」

「服、着てるよなぁ？みんな！」
「うん。立派な服だ」。
「ほんとほんと。見た事もないほど立派」。
「ほんとに見えないんですかぁ？」

「うん。見えない。ただし・・」

「ただし？」


「全員馬鹿には見える」。


くっそー。お得意様をっ！裸の王様作戦失敗。

「そうだ！俺裸のままだった！」
思い出したように千葉くん。ほんとだ・・・馬鹿だ・・・。
見ると千葉くんの体からはすでに湯気がたっていました。

すでに通りに飛び出していた僕たちは、実はかなりの人がまわりを通っていたことに気づいていませんでした。
この寒空の下、パンツ一丁で騒いでいるヤツが目につかないわけはないのであって、別に写真屋さんが連絡しなくとも、警察は来たかも知れません。

この馬鹿騒ぎに、のぶひこ君の涙もすっかりかわいていました。
って言うか、顔にヒルくっついてますから、事態は悪化してるようにも思いますが。

「と、とにかくさ、千葉、服着ろよ！」
「着ろったって、まだヒルいっぱいだぜ。誰か引き受けてくれる？」

「いやーー。僕、遠慮します」。
「俺も」。

しかし、はがさないわけにいきません。

そこで僕たちは、一旦、荷物をおいてきてしまったザリガニ池にもどり、西条くんの古文の教科書を使って、かたっぱしからヒルを落としました。

「あー。そうそう。のぶ君、これ、君の靴」。

「うん。お兄ちゃん、ありがと・・」。

お礼を言うのぶ君の顔には、まだヒルがくっついてました。どうやら当人、気づいていなかったようです。
はがしてあげないと・・・

「でもバカだね。お兄ちゃんたち」。

・・・とうぶんくっつけとこ。


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　　　　7章-第10話へつづく


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