ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「な、なんだって全員白衣？」

「あ？なにびびってんだ？お前」。

「いや・・・ちょ・・・ちょっと・・・」。

グレート井上くん、さっそくネタバレ。
「白衣が苦手なんだってさ」。

「ウソ！じゃ、看護婦さんも苦手なわけ？」

「そ・・・そう」。

最たるものです・・・。

「もったいね～～～～～～～～」。

なにが「もったいない」か、よくわかりません。


「で、なんで全員白衣なんだ？」

「今日、美術部に支給されたんだよ」。

「お前ら、美術部じゃないじゃん」。
（森田くんとチャーリー以外、全員、文科系部活は写真部）

「ふっふっふ。これだからおこちゃまは困る」。

「？」

西条くんがこのセリフを言うときは、ろくな話ではないわけですが。

「これをな！明日着るのは誰だ？」

「だから美術部だろ？」

「そう！美術部は9割女子！するとどうなる？」

「どうなる？」

「バカだなぁ、お前は。間接抱擁だろおがぁ！」

ああ・・・しょうもない。
それならまだ女子が着てから持って来たほうがましな気もします。

「女子部員がこの腕の中にぃぃぃぃぃっ！」

「はいはい」。

しかし、

「女子が着るにしてはデカくないか？」

見れば千葉くん以外、ほぼジャストサイズです。

「うん。ぜんぶMなんだ」。
と、説明するチャーリーに

「おおおお・・・美術部はMだらけ・・・」。

はいはい。

「俺はSっ！」

はい。

グレート井上くん。
「しかし、普段、真っ黒なだけに白衣が揃うと、なんか別世界だね」。

「だろ？『白い巨乳』みたいだろ？」

「『白い巨塔』だろ・・・？」

＜白い巨塔＝大病院を舞台とした権力闘争を描いた小説で、何度も映画、テレビドラマ化されている。78年放送の主演であった田宮二郎がドラマ終了とほぼ同時にライフル銃で自殺し、さらに話題になった。最新は2003年唐沢寿明主演＞

「で、『白い巨塔』ゴッコするために白衣？」

「あ？ちがうちがう。実はよ～」。
と、久保くん。

ようやくまっとうな理由が聴けそうです。

「最近、ほら。このへんに泥棒出てるじゃん」。
と、今度は孝昭くん。

「あーー。まだ捕まってないんだってね」。

最近になって、一地域に集中的に盗難事件が発生する、ということがおきていました。
駐在所の管轄からは少しずれているのですが、そのために夜間パトロールが強化されているらしきことは聴いていたのですが。

「でよ。駐在、ほとんど毎晩、夜回りしてんだよな」。

「うん」。

「おかげで駐在は寝不足みたいでよ～～～。昼、駐在所で居眠りしちゃったりしてんだよ」。

「ふうん」。

よく観察していますが、それと白衣との関係がイマイチのみこめません。

「けどほら。昼も交番たずねるやつってのはいるわけで～～～～」。

「だろうね」。

「そこでだ！俺らが駐在に安眠をプレゼントしようと思ってよ！」

「安眠？」

「いいからさっさとお前らも白衣着ろ！」。

無理矢理、僕にも白衣を着せると

「行くぞ！『白い巨乳作戦』開始！」

タイトルだけでもなんとかしろよ・・・。

→ → → → → →

昼下がりの駐在所。

「ほら。寝てる」。
「ほんとだ・・・」。

「ここんとこ毎日なんだ」。

「へぇ・・・・」。

駐在さん。無防備にも椅子に座ったままうたたね。


「では、みなさん、はじめましょ～～～～」。

まずはノッポさん部隊のチャーリーが、駐在所侵入。

わざわざ「人肌」まで暖めた油絵の具と筆を取り出すと、駐在さんの顔をキャンバスに、あやしい発疹を描き始めました。

「わははは！おもしれ！」

「シッ！」


残りのメンバーは、駐在所のパイロンを使って、まわりに黄色い紐を張ります。


そこへ「発疹」を描き終えたチャーリーがこっそりと出て来ました。

「チャーリー、首尾は？」
「バッチリ！」

「どれどれ？」

みんなで発疹の描かれた駐在さんを覗き込みます。
どう見ても「怪しい病気」にかかったような顔になりながら、まだ駐在さんは眠っています。

「クッ・・・・・！」

全員、笑いをこらえるのに必死！


「よーし！消毒部隊！前へ！」
「ラジャー！」

人通りを伺い、今度は、花壇用の消毒ポンプを持った久保くんと河野くんが前に。

「散布開始！」

はたからは、どう見ても保健所職員が消毒しているようにしか見えません。

「な！これならしばらく駐在も安眠できるってもんだろ？」

「ああ・・・。安眠できるだろうけど・・・」

起きたらどうなるか保障はありません。


西条くん。通りの人たちに

「はい！こっち通らないように！伝染病が発生しました！」

通りかかりの人々。

「え！駐在さんがかい？」

僕たちは全員マスクをしているので、誰も「そこの高校生」と気づきません。

「ええ。お気の毒に、こちらのおまわりさんが・・・」。

極めて残念そうな表情。

「うつりたくなかったら近づかないでくださいね？」

「そ・・・それで、駐在さんは助かるのかい？」

「さぁ・・・。なにしろ恐ろしい伝染病ですからねぇ」。

「ああ・・・そうなのかい？くわばらくわばら」。

おばあちゃん。本格的に手を合わせないように。




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