ぼくたちと駐在さんの700日戦争

この超通院は、0歳から続いていたので、病院内はすでに庭。
待合室ではすっかりおなじみで、これが僕に意外な才能をさずけてくれます。

それは、「誰とでもわけへだてなくしゃべれる」という特技。

ある夏の日、母がクスリを受け取りに行ってもどってくると、僕がヤクザもんの膝の上に乗っていて、しかもそのヤクザの顔をペチャペチャたたいていて驚いたそうです（←本当）

「おじちゃん～～。腕にも絵描いてるんだね」。

「ああ。そうだよ。絵っつーか、モンモンつーんだ、モンモン」。

「へー、でもうでのモンモンは消しといたほうがいいよ？」
「ぁあ？どうして？」

「ここ、注射へったくそだから、模様はいってると場所はずされて、ものすっごく痛くされるよ？」

「あっはっはっは。そりゃたまらんなぁ」

「そうだ！注射のめじるしのモンモンも描くといいね！」

「注射の目印の？あっはっはっはっは。そりゃいいな！ボウズ！」

「ボクが描いてあげるよ。マジックで」。

「え・・・いや・・・そりゃ遠慮しとくぜ・・・」。

母は目を白黒させたそうですが、実は僕は知っていたのです。
こういうおっちゃんは「気に入るとすぐになにか買ってくれる」ということを。

「ボウズ。アイスでも食うか？」

ほらね。

思えば、こずるいガキでした。

とにかく、足が1本なかろうが、顔中火傷を負ってグチャグチャであろうが、平気で声をかけるので、待合室ではちょっとしたアイドルでした。
病気や怪我の人たちは、少なからず落ち込んでいて、そういう人たちを笑わせると、すごく喜んでくれるのです。
幼いながらも、それは「快感」でした。

もちろん、女の子にも平等です。というか、少しひいきめです。というか、かなりひいきめです。
母が言うには、僕が初めて「女性を口説いた」のは5歳になりたての時だそうで、相手は同い年の女の子。
どういう口説き方をしたか、すでに記憶にありませんが、母の話によると「バナナでつった」らしく、その子を連れだって病院を抜け出し「愛の逃避行」。かけおちです。

　バナナってすごい。

この時は、さすがに母も激怒。
婦長さんは「おまけ」と称して、お尻の注射を1本増やしてくれました(泣)。

それでも、僕の「にぎやかさ」は治りませんでした。
ある時、『待合室は静かに』というビラが張られましたが、そんなもの4歳児が読めるわけがなく、病人相手に「ギョウ虫のポスター」の解説などしてウケまくっていたものです。

入院患者の中には、毎週同じ曜日に現れる僕が来るのを楽しみにする人までいて（たぶん）、僕は、幼くして、大人の事情や知識をたくさん吸収することができました。

「うちの嫁ったらねぇ。一度も見舞いに来もしないんだよ」。

「え？おばあちゃん、お嫁さんもらったの？」
「いや・・・あたしじゃなくってね。うちの息子の嫁だよ・・・」。

「息子の嫁じゃしかたないじゃん」
「そういうもんかね？」

「うん。くやしかったらおばあちゃんも嫁もらえば？」

「あっはっは。あたしがかい？あははは。そりゃいいね」。

「おばあちゃんは、なんの病気で入院してるの？」

「え？まぁ・・・年寄り病さぁ」。

「へー。それって痛いの？」

「痛いよ。もう、あんまり長くないかもねぇ・・・・」。

「いいなぁ。長くなくって」。

「いいって、なにが？」

「だって、ボクなんか、これから何十年もお尻に注射されなきゃいけないんだよ？」

「あはははは。そりゃそうだねぇ。あははははは」

とにかく、母曰く「待合室では天使」でした。とんだ堕天使でしたが。

もちろん、いいことだけではありません。
この病院通いは、僕に思わぬトラウマを残しました。

それは「白衣が苦手」というもの。

幼かった僕は、いつしか、白衣を着た人を見ると、とにかく逃げ回るようになっていました。
当時、写真屋さんが白衣を着ていたのですが、それも「注射される」と思い込んで逃げていたため、小学校入学以前の僕の写真はほとんどありません。

→ → → → →

「たまにあってもね。たいてい泣き顔なんだよ」。

「あはははははははは。おもしろい！」

必要以上にウケまくっているのはグレート井上くんです。

「そんなにおかしいかなぁ・・・」。

　ガラッ！

アジト教室の扉を開けると

「うわぁああああああああ！」

なんとメンバー全員白衣！



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