ぼくたちと駐在さんの700日戦争

竹内さんは、ジェミーの声に気づかなかったのか、そのまま逆側の脇道へと消えて行きました。

「ありゃりゃ？」

ジェミー。

「えっと～～。豆腐屋さん、ここで待っててくださいね」。

誰が豆腐屋だ？

晩ご飯を追いかけるジェミー。


僕と和美ちゃんは、動くに動けず、交差点の角でジェミーを待つことになりました。

「あいつにも困ったもんだな・・・」。

つとめて明るく言った僕でしたが、和美ちゃんはまだうつむいていました。

そんなに・・・夕子ちゃんのこと・・・。

和美・・・。


やがてジェミーが赤信号の向こうにもどってきました。

なにを焦っているのか、駆け足ぶみまでしています。

青になったとたんに、ダッシュで僕たちの所まで駆けもどるジェミー。

「おい。なに焦ってるんだ？」

「それが。竹内さん、車に乗せられてったんですが～～～」。

「え？それって連れ去られたってこと？」

「よっくわかりません。でも人相悪いヤツが運転してました！」

「詳しく聴かせろ。どういう車だった？」

「えっと～～～～～。3台くらいいたんですが」。

「3台・・・？」

「1台が～～～～えっと～～～～～」。

「早く言えよ」。

ジェミー。めずらしく顎に手など当てて考え込みまして、

「月曜日の時間割みたいな車でした」。

「時間割？なんだそりゃ？」

「え！知らないんですか？」

「知らない・・・」。

「月曜日の時間割、1時間目から言ってみてください」。

「1時間めが確か古文・・・。次がグラマーで・・・3時間めが歴史・・・」。

ジェミー。
「ボクらとちがう・・・」。

「当たり前だろ？お前2年生だろうが！」

「あはは～～～。それもそうですね」。

馬鹿かこいつは。

なのに。

「先輩も知らないことあるんですね」。

「あるよ！お前らの時間割まで知るかっ！」

「僕らは、英　国　社　なんです」。

「あーあー、そりゃよかったな。それで？」

「やだなぁ。英国車ですよ～～～～～」。

「バ、バカヤローーーー！クイズやってる場合かっ！」

「え！井上先輩なら笑ってくれますっ！」

僕は井上じゃないんだよ！

「けち」。

「うるさいっ！」

あ～～～とんだ時間の無駄だった。

「で、残りの2台は？」

「2台は～～～。火曜日の時間割・・・」。

「まさか国　算　社　って言うつもりじゃないだろうな？」

「あ！当たりです！国産車！」

「ばか。高校に算数はないだろうが！」

「あ・・・そうですね。国数社だ・・・」。

こいつ・・・。

「どうしたらいいでしょう？算数」。

「そこは悩むとこじゃないだろ!?」

ああ・・・頭いて・・・。
井上も井上だ。いちいちこういうのにウケるから、ジェミーもどんどんくだらないことを。

「それでどうした？」

「ん～～～。さっきすぐ行けば見れたかも知れませんが」

「・・・・」

「先輩が、こんなとこでウダウダしてるから。きっともう行っちゃいましたね」。

「お前がくだらねークイズやってるからだろ!!??」

「解けなかった先輩にも責任が～」

「ないっっっ!!!」

断じてないっ!!!


しかし、

「英国車っていうと、ジャガーか、ローバーってとこかな・・・」。

いずれにせよ田舎には珍しい車です。

もしジャガーであるとするならば、当時、十中八九「その筋」ということでした。

「英国車、でかかったか？」

「英語はでっかいですけど、国語の先生はそれほどでもありません」。

「時間割じゃねーよ！」

「さぁ・・・大きさまでは・・・」。

いや。一番最初にわかるだろ？大きさ。車だぞ？車。

「うちの母の車よりはデカかったですね」。

「お前んちの車、なんだっけ？」

「母の車は三菱ミニカです」。

「たいていの車はミニカよりデカいんだよっ！」

ったくもう・・・。
こいつの使えないこと、使えないこと。

「ただ・・・」。

「ただ？」

「ジャガーでした！」

「車種わかってんなら最初っからそう言えよ！」

なんで時間割から話す？

「だって井上先輩なら・・・」。

「井上と僕を一緒にするなっ！」

「あ～～～井上先輩に言いつけますよ！」

「なんとでもしろ！」

「またプレパラートの友情にヒビが～・・・」。

「なんだとぉ？」

「あ。先輩たちはカバーガラスですよね！指でふれただけでパリっと」

こ、こ、こ、こいつーーーーーっ！

「和美も笑ってる場合か？」

「ご、ごめんなさい。だって。あははははははははははは」。


けど・・・。泣いてたカラスがもう笑った。



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