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←30,000HIT/日&いつの間に150,000HIT 御礼
<おことわり>
6章、長いおつきあい、本当にありがとうございました。
本日、3話1セットです。いっきにフィナーレまでどうぞ。
6章:第28話 小さな太陽(3)
修学旅行を終え、僕たちは駐在所に向かっていました。
なぜって。重箱を返すためです。
よりによって駐在さんは、ぼた餅とヨウカンを、これでもかってほど大きい重箱に入れてよこしたため、旅行の間中、僕と西条くんは、そのかさばる荷物に悩まされ続けました。
それはまるで遺骨を運ぶご遺族。

「くっそぉ〜〜〜〜〜!駐在のヤロウ〜〜〜〜〜〜〜!」
僕はともかくとして、西条くんは、これに+「バス酔い」がありましたので怒り心頭です。
後から考えれば、西条くんが「乗り物に弱い」のも、彼が仲間はずれにされていたことと関係があるのかも知れません。
小中学校時代だって、修学旅行はあります。
ひとり、誰ともしゃべらず、笑いもしないバス旅行など、楽しいはずがありません。
そういう意味で、西条くんにとっては、(バス酔いはしたものの)今回の京都が、彼が「初めて笑った」修学旅行でした。
「駐在ぃーーーー!いるかぁーーーー!」
ほぼ道場破り状態で、駐在所乱入!
しかし、パトカーはあるのに、応対に出て来たのは奥さんでした。
「あら?西条くん、ママチャリくん」
ぱぁ~ ☆。.:*‥゜
「あ~〜。おくさん~〜♥」
さっきの怒りはどこへやら‥‥‥。例によってヘロヘロの西条くん。
僕ですか?
僕は、
「こんにちは〜〜〜おくさん〜〜〜〜♥」
しかたないのです。男は美女に弱いのです。そうできているのです。
「あ、お重箱、返しに来てくれたのね?どう?おいしかったかしら?」
「はい~〜。とってもおいしくいただきました~〜♥」
その95%は吐いてましたが。西条。
「主人がね、西条くんは”ボタ餅”が大好物だって言うもんだから。早起きしてつくったのよ?」
やはり‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
「主人ね、今、幼稚園に交通指導で行ってるの。なにか伝えることある?」
「はい。このお礼は必ずします、と、お伝えください」
(でも、今になって思えば、たとえ「仕返し」であったとしても、町の駐在所が修学旅行に行く高校生にオヤツを作ってくれる、などというのは、本当に暖かい話です。現代ではちょっと考えられません)
「それから、コレ‥‥‥。京都のお土産です」
「アラ。別によかったのに‥‥。でも、アリガト♡西条くん、ママチャリくん」
「「ど〜いたしまして〜〜〜〜〜♥」」
しかたないのです、そうできているのです。
西条くんには、もうひとり、この日、お土産を渡す相手がありました。
そう、ユキ姉です。
人も羨む美人のハシゴ。
しかも、ユキ姉は奥さんとちがって独身ですから(あまり独身の「奥さん」っていませんが‥‥)
西条くんにだって、十分に「可能性」があるわけです!
こないだのデートを見る限りで、ユキ姉も、悪い雰囲気ではありませんでした。
待ち合わせは、町の小さな喫茶店『ポプラ』。
西条くんも意識しているのか、扉の前で躊躇し始めました。
「ほら。行って来いよ、西条。みやげ渡すんだろ?」
「あ、ああ、おお!あ、ネクタイ曲がってない?」
学生服にネクタイしてないだろ‥‥‥。
「いいから、ほら、行けって!」
そして翌日のこと─────────
みんなの屯している所に、西条くんが、1枚の紙を手に持って現れました。
実にうれしそうです。
西条ってば、ひょっとして?ひょっとした?
「おお。みんなぁ!コレ見てくれ!コレ!」
「そんな小っせえエログラビアには興味ねぇ」
「もっとデカイの持って来いや、西条」
そういうもんじゃありません。
それはハガキのようなものでした。
「西条・・・これって・・・・」
「うん!そうだ!ユキ姉、結婚するんだって!」
「‥‥‥‥‥するんだってって、お前」「‥‥‥ナニをうれしそうに‥‥‥‥」
「ったりまえだろ? ユキ姉には、幸せになってもらいたかったからな!」
「そう‥‥‥‥?」「‥‥‥だったのか?」
西条くん、その質問には答えず、
「ユキ姉、こっちの支店に来たのは、結婚することが決まったからなんだってさ」
「するってーと相手は‥‥‥‥?」
「同じ銀行の人らしい」
(現代でも)金融機関である銀行は、夫婦を同じ支店内には置きません。
婚約をした時点、もしくは恋愛時点で、どちから(たいていは女性側)が支店を移動させられます。
(もちろん、不正行為が起きる事を防止するため)
ユキ姉は、このパターンだったのです。
「コレ、披露宴の招待状だ!お前ら、もらったことないだろーーー?」
「ない‥‥‥‥」「オレもない‥‥‥‥」
「高級料理、食い放題!新婦友人とジャレ放題!」
そんな披露宴もないとは思いますが。
「たのしみ〜〜〜♪あ、鶏肉の骨くらいは、土産にもって来てやるぞ?」
「いらねぇって!」「もう少しまともなもん持って来い!」
アハハハハハハ‥
ことさら明るく振る舞う西条くんに合わせるみんなでしたが、気持ちは複雑でした。
西条くんが今でもユキ姉を好きなことは、誰の目にも明らかだったからです。
なにしろ、僕たち全員にバイトさせてでも、預金で協力しようとしたほどですから‥‥‥。
「で?結婚式っていつなんだ?西条」 聞きにくいことを聞いてくれるのは、いつも孝昭くん。
「再来週の土曜日。昼からだ」
「土曜?」「早引けすんの?」
「場所がさ。Y市だからな。3校目終わったら早退だな。もー、早退ってだけで楽しみだ♪」
一見すると、西条くんは、これ以上ないほどに上機嫌で、僕たちの心配は、とんだ勘違いにさえ思えました。
けれども。喫茶店ポプラの前での西条くんは、疑いようもなく「勝負」に出るつもりだったはずで‥‥‥‥‥。
‥‥‥‥‥‥西条?
──────結婚式当日です。
西条くんは、予定通り、3校目で早退し、ゆき姉の結婚式へと向かいました。
昼時間、誰が集めたということもなく、みんなは僕の教室に。
「あー。西条、いまごろうまいもん喰ってやがんだろうなーー」
「アイツは、フルコース。オレは菓子パン‥‥‥‥」
「まぁまぁ、ひがむなって!オレの結婚式で食わせてやるって」
「お前、結婚できるつもりでいるのか?」
「どうかな。西条のヤツ、けっこう涙もりからな。案外、オヤジより泣いてるかも?」
「親父って、あのイ○ポ師範だろ?あんなヤツでも、娘が嫁ぐ日ってのは泣くもんかなぁ」
「それ以前に、娘ができたってことは、イ○ポじゃなかったんだな?」
「わははは!だからショックなんだろうがーー」
ちょうど会話が『イ○ポ』談義になったところで、クラスの女子が声をかけてきて、僕たちは泡をくいました。が‥‥‥‥
「西条君?西条君なら、さっき河原のほうに歩いてってたけど‥‥‥。ネエ?」
「ウン。さっきパン買いに行く時見かけたヨ?」
なんだって!?
「それって何時頃?」
「ついさっきよ。ネエ?」
「ウン」
「ついさっき‥‥‥‥‥‥」
もうとっくに結婚式は始まっているはず‥‥‥‥‥‥。
けれども、みんなにさほどの驚きはありませんでした。
「やっぱり‥‥‥‥‥な‥‥‥‥‥‥・」
「西条、行ってないぞ。結婚式」
西条くんのあの「奇妙なほどの明るさ」に、なにがしか感じ取るものがあったのでしょう。
「どうする?」
「どうするったって‥‥‥‥‥」
「ほっといてやれよ」
「だよな‥‥‥」
ですから、みんなの「答え」も、だいたい決まっていたようです。
けれども、ここで、同じように歳上の女性(美奈子さん)に「失恋したて」のグレート井上くんが、
「いや、ダメだ‥‥‥!」
「あ?」「なにが、だ?」
「それじゃダメだ。西条はいいとしても、披露宴に来てもらえなかったユキさんはどうだ?」
「そりゃぁ‥‥‥‥‥‥」
「西条だってそうだ。アイツをずっと『仲間はずれの負け犬』にする気か?」
実のところみんなは、頭のいいグレート井上くんが言った「負け犬」の意味が分かっていませんでした。
分かってはいませんでしたが、
「僕なら生涯悔やむ」
あの日(5章:花火盗人)最後の10分間にかけたグレート井上くん。
結局、それは破れましたが、「悔やんでいない」井上くんは、そう言いました。
「何時までって書いてあった?披露宴」
「確か‥‥‥午後2時半までだった。それからお披露目があるだろうからー‥‥‥」
僕たちの地方には、披露宴が終わると、新郎新婦が通りを練り歩いてお披露目する風習があります。
(昔は、全国各地にあった)
それから誰ともなく、
「そうだ!西条を送り届けるんだ!」
「送り届けるったって‥‥‥‥どこいんだ?西条は」
実は僕には、心当たりがありました。
「アイツ、堤防にいる!間違いない」
西条くんは凹むことがあると、川沿いの堤防によく行きました。
おそらくは、仲間はずれにされていた頃の名残?
そこで憂さを晴らして、みんなの前では、明るくバカな西条くんなのです。
「見つけたとしたって、もう電車ないだろ」
その通りです‥‥‥‥。
「孝昭!家帰ってバイクで来てくれ!タンデムのメットわすれるな!」
「いいけど、往復で45分はかかんぞ?間に合うか?」
すでに時計は、12時半をまわっています。Y市まで45分。
披露宴は昼食をはさんで終わるのが‥‥‥‥‥
ギリだ‥‥‥‥!
「とにかく急げ!」
「おお!」
「井上、駐在さんとこ行ってくれ!」
「ちゅ、駐在さん?なにするんだ?」
「パトカー借りるんだよ。普通のバスとかじゃもう間に合わない」
パトカーなら、間に合います。
「そ、そんな私用にパトカー出してくれるか?」
そこは、蛇の道は蛇。グレート井上くんなら、美奈子さん救助で貸しがあります。
「わかった。やってみるよ」
「最悪、村山に盗ませちゃえ!」
「いや・・そんな無茶な‥‥‥‥‥」
こないだ(5章)はやったクセに。
「他のみんなは電車で一足先に式場に行って。式、なるべく引き延ばしてくれ!」
「ひきのばすってオマエ‥‥‥‥」「どうやって‥‥‥‥?」
「電源のブレーカー落とすでもなんでもいい!3回も停電すれば電気屋が来る。30分はかせげるから。森田ならわかるだろ?」
(当時のブレーカーボックスは、現在のように鍵がついていなかった)
「あいかわらず無茶言うな〜〜〜〜」
「でも、おもしれ!」
「たのんだぞ!」
「テメェこそ、西条の説得、うまくやれよな?」
「まかせろ!」
と、言ってはみたものの‥‥‥‥‥‥。
考えるまでもなく、僕の役割が一番むずかしいことは間違いなく。
──────そして河川敷。
予想通り。西条くんは、堤防の土手に、ポツンとひとり座りこんでいました。
「西条ーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
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修学旅行を終え、僕たちは駐在所に向かっていました。
なぜって。重箱を返すためです。
よりによって駐在さんは、ぼた餅とヨウカンを、これでもかってほど大きい重箱に入れてよこしたため、旅行の間中、僕と西条くんは、そのかさばる荷物に悩まされ続けました。
それはまるで遺骨を運ぶご遺族。

「くっそぉ〜〜〜〜〜!駐在のヤロウ〜〜〜〜〜〜〜!」
僕はともかくとして、西条くんは、これに+「バス酔い」がありましたので怒り心頭です。
後から考えれば、西条くんが「乗り物に弱い」のも、彼が仲間はずれにされていたことと関係があるのかも知れません。
小中学校時代だって、修学旅行はあります。
ひとり、誰ともしゃべらず、笑いもしないバス旅行など、楽しいはずがありません。
そういう意味で、西条くんにとっては、(バス酔いはしたものの)今回の京都が、彼が「初めて笑った」修学旅行でした。
「駐在ぃーーーー!いるかぁーーーー!」
ほぼ道場破り状態で、駐在所乱入!
しかし、パトカーはあるのに、応対に出て来たのは奥さんでした。
「あら?西条くん、ママチャリくん」
ぱぁ~ ☆。.:*‥゜
「あ~〜。おくさん~〜♥」
さっきの怒りはどこへやら‥‥‥。例によってヘロヘロの西条くん。
僕ですか?
僕は、
「こんにちは〜〜〜おくさん〜〜〜〜♥」
しかたないのです。男は美女に弱いのです。そうできているのです。
「あ、お重箱、返しに来てくれたのね?どう?おいしかったかしら?」
「はい~〜。とってもおいしくいただきました~〜♥」
その95%は吐いてましたが。西条。
「主人がね、西条くんは”ボタ餅”が大好物だって言うもんだから。早起きしてつくったのよ?」
やはり‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
「主人ね、今、幼稚園に交通指導で行ってるの。なにか伝えることある?」
「はい。このお礼は必ずします、と、お伝えください」
(でも、今になって思えば、たとえ「仕返し」であったとしても、町の駐在所が修学旅行に行く高校生にオヤツを作ってくれる、などというのは、本当に暖かい話です。現代ではちょっと考えられません)
「それから、コレ‥‥‥。京都のお土産です」
「アラ。別によかったのに‥‥。でも、アリガト♡西条くん、ママチャリくん」
「「ど〜いたしまして〜〜〜〜〜♥」」
しかたないのです、そうできているのです。
西条くんには、もうひとり、この日、お土産を渡す相手がありました。
そう、ユキ姉です。
人も羨む美人のハシゴ。
しかも、ユキ姉は奥さんとちがって独身ですから(あまり独身の「奥さん」っていませんが‥‥)
西条くんにだって、十分に「可能性」があるわけです!
こないだのデートを見る限りで、ユキ姉も、悪い雰囲気ではありませんでした。
待ち合わせは、町の小さな喫茶店『ポプラ』。
西条くんも意識しているのか、扉の前で躊躇し始めました。
「ほら。行って来いよ、西条。みやげ渡すんだろ?」
「あ、ああ、おお!あ、ネクタイ曲がってない?」
学生服にネクタイしてないだろ‥‥‥。
「いいから、ほら、行けって!」
そして翌日のこと─────────
みんなの屯している所に、西条くんが、1枚の紙を手に持って現れました。
実にうれしそうです。
西条ってば、ひょっとして?ひょっとした?
「おお。みんなぁ!コレ見てくれ!コレ!」
「そんな小っせえエログラビアには興味ねぇ」
「もっとデカイの持って来いや、西条」
そういうもんじゃありません。
それはハガキのようなものでした。
「西条・・・これって・・・・」
「うん!そうだ!ユキ姉、結婚するんだって!」
「‥‥‥‥‥するんだってって、お前」「‥‥‥ナニをうれしそうに‥‥‥‥」
「ったりまえだろ? ユキ姉には、幸せになってもらいたかったからな!」
「そう‥‥‥‥?」「‥‥‥だったのか?」
西条くん、その質問には答えず、
「ユキ姉、こっちの支店に来たのは、結婚することが決まったからなんだってさ」
「するってーと相手は‥‥‥‥?」
「同じ銀行の人らしい」
(現代でも)金融機関である銀行は、夫婦を同じ支店内には置きません。
婚約をした時点、もしくは恋愛時点で、どちから(たいていは女性側)が支店を移動させられます。
(もちろん、不正行為が起きる事を防止するため)
ユキ姉は、このパターンだったのです。
「コレ、披露宴の招待状だ!お前ら、もらったことないだろーーー?」
「ない‥‥‥‥」「オレもない‥‥‥‥」
「高級料理、食い放題!新婦友人とジャレ放題!」
そんな披露宴もないとは思いますが。
「たのしみ〜〜〜♪あ、鶏肉の骨くらいは、土産にもって来てやるぞ?」
「いらねぇって!」「もう少しまともなもん持って来い!」
アハハハハハハ‥
ことさら明るく振る舞う西条くんに合わせるみんなでしたが、気持ちは複雑でした。
西条くんが今でもユキ姉を好きなことは、誰の目にも明らかだったからです。
なにしろ、僕たち全員にバイトさせてでも、預金で協力しようとしたほどですから‥‥‥。
「で?結婚式っていつなんだ?西条」 聞きにくいことを聞いてくれるのは、いつも孝昭くん。
「再来週の土曜日。昼からだ」
「土曜?」「早引けすんの?」
「場所がさ。Y市だからな。3校目終わったら早退だな。もー、早退ってだけで楽しみだ♪」
一見すると、西条くんは、これ以上ないほどに上機嫌で、僕たちの心配は、とんだ勘違いにさえ思えました。
けれども。喫茶店ポプラの前での西条くんは、疑いようもなく「勝負」に出るつもりだったはずで‥‥‥‥‥。
‥‥‥‥‥‥西条?
──────結婚式当日です。
西条くんは、予定通り、3校目で早退し、ゆき姉の結婚式へと向かいました。
昼時間、誰が集めたということもなく、みんなは僕の教室に。
「あー。西条、いまごろうまいもん喰ってやがんだろうなーー」
「アイツは、フルコース。オレは菓子パン‥‥‥‥」
「まぁまぁ、ひがむなって!オレの結婚式で食わせてやるって」
「お前、結婚できるつもりでいるのか?」
「どうかな。西条のヤツ、けっこう涙もりからな。案外、オヤジより泣いてるかも?」
「親父って、あのイ○ポ師範だろ?あんなヤツでも、娘が嫁ぐ日ってのは泣くもんかなぁ」
「それ以前に、娘ができたってことは、イ○ポじゃなかったんだな?」
「わははは!だからショックなんだろうがーー」
ちょうど会話が『イ○ポ』談義になったところで、クラスの女子が声をかけてきて、僕たちは泡をくいました。が‥‥‥‥
「西条君?西条君なら、さっき河原のほうに歩いてってたけど‥‥‥。ネエ?」
「ウン。さっきパン買いに行く時見かけたヨ?」
なんだって!?
「それって何時頃?」
「ついさっきよ。ネエ?」
「ウン」
「ついさっき‥‥‥‥‥‥」
もうとっくに結婚式は始まっているはず‥‥‥‥‥‥。
けれども、みんなにさほどの驚きはありませんでした。
「やっぱり‥‥‥‥‥な‥‥‥‥‥‥・」
「西条、行ってないぞ。結婚式」
西条くんのあの「奇妙なほどの明るさ」に、なにがしか感じ取るものがあったのでしょう。
「どうする?」
「どうするったって‥‥‥‥‥」
「ほっといてやれよ」
「だよな‥‥‥」
ですから、みんなの「答え」も、だいたい決まっていたようです。
けれども、ここで、同じように歳上の女性(美奈子さん)に「失恋したて」のグレート井上くんが、
「いや、ダメだ‥‥‥!」
「あ?」「なにが、だ?」
「それじゃダメだ。西条はいいとしても、披露宴に来てもらえなかったユキさんはどうだ?」
「そりゃぁ‥‥‥‥‥‥」
「西条だってそうだ。アイツをずっと『仲間はずれの負け犬』にする気か?」
実のところみんなは、頭のいいグレート井上くんが言った「負け犬」の意味が分かっていませんでした。
分かってはいませんでしたが、
「僕なら生涯悔やむ」
あの日(5章:花火盗人)最後の10分間にかけたグレート井上くん。
結局、それは破れましたが、「悔やんでいない」井上くんは、そう言いました。
「何時までって書いてあった?披露宴」
「確か‥‥‥午後2時半までだった。それからお披露目があるだろうからー‥‥‥」
僕たちの地方には、披露宴が終わると、新郎新婦が通りを練り歩いてお披露目する風習があります。
(昔は、全国各地にあった)
それから誰ともなく、
「そうだ!西条を送り届けるんだ!」
「送り届けるったって‥‥‥‥どこいんだ?西条は」
実は僕には、心当たりがありました。
「アイツ、堤防にいる!間違いない」
西条くんは凹むことがあると、川沿いの堤防によく行きました。
おそらくは、仲間はずれにされていた頃の名残?
そこで憂さを晴らして、みんなの前では、明るくバカな西条くんなのです。
「見つけたとしたって、もう電車ないだろ」
その通りです‥‥‥‥。
「孝昭!家帰ってバイクで来てくれ!タンデムのメットわすれるな!」
「いいけど、往復で45分はかかんぞ?間に合うか?」
すでに時計は、12時半をまわっています。Y市まで45分。
披露宴は昼食をはさんで終わるのが‥‥‥‥‥
ギリだ‥‥‥‥!
「とにかく急げ!」
「おお!」
「井上、駐在さんとこ行ってくれ!」
「ちゅ、駐在さん?なにするんだ?」
「パトカー借りるんだよ。普通のバスとかじゃもう間に合わない」
パトカーなら、間に合います。
「そ、そんな私用にパトカー出してくれるか?」
そこは、蛇の道は蛇。グレート井上くんなら、美奈子さん救助で貸しがあります。
「わかった。やってみるよ」
「最悪、村山に盗ませちゃえ!」
「いや・・そんな無茶な‥‥‥‥‥」
こないだ(5章)はやったクセに。
「他のみんなは電車で一足先に式場に行って。式、なるべく引き延ばしてくれ!」
「ひきのばすってオマエ‥‥‥‥」「どうやって‥‥‥‥?」
「電源のブレーカー落とすでもなんでもいい!3回も停電すれば電気屋が来る。30分はかせげるから。森田ならわかるだろ?」
(当時のブレーカーボックスは、現在のように鍵がついていなかった)
「あいかわらず無茶言うな〜〜〜〜」
「でも、おもしれ!」
「たのんだぞ!」
「テメェこそ、西条の説得、うまくやれよな?」
「まかせろ!」
と、言ってはみたものの‥‥‥‥‥‥。
考えるまでもなく、僕の役割が一番むずかしいことは間違いなく。
──────そして河川敷。
予想通り。西条くんは、堤防の土手に、ポツンとひとり座りこんでいました。
「西条ーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
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西条く~ん。
今はどうなっているのでしょうか・・・?
男ってつらいネ。
好きな人の結婚式に出席する事になるなんて、相手は年上のゆき姉と知らない銀行員・・・。
西条君マジ好きだったんだネ。
結婚式に出てもつらいし、でも好きな人の幸せの顔を見ておかないと、もっとずーーーっと後悔すると、ママチャリさんは考えたんだネ。
親友(悪友)はやっぱり以心伝心なんだねぇ。
はじめまして
ぼくちゅう大好きで今読み返してます
男って辛いですよね
けど西条くんもママチャリもあつくてかっこいいです
西条さん。
その明るさが、平然振りが、切ないです・・・