ぼくたちと駐在さんの700日戦争

＜全校登校日。おつかれさまでした～＞

2度目の石段。

「ねぇ。和美ぃ。そろそろ帰らない？」

「ダメ！まだ帰んない！」


田舎のお祭りの最大の長所にして、最大の欠点は、ありとあらゆる顔なじみが集まる、ということです。
それこそ小学校から高校まで。「同窓会のるつぼ」と言っても過言ではありません。

ですから、お祭り中あちこちで
「よー！」
「お！ひさしぶり！」
みたいな挨拶が交わされます。

これが、高校生になってもまだ「縁日に惹かれる理由」のひとつになっているわけですが、彼氏、彼女ができた者には、さらに別な目的がありました。

男子にとっては、たいてい「彼女できたぞ、いいだろー」な自慢の場所であり
女子にとっては、さらに「わたしの彼氏に手出さないでね」な公表の場所でした。
そこには、本当に「意外なカップル」が多数存在し、ヘタな芸能ニュースなどよりずっと面白かったものです。

僕がこの日、縁日に来たのは、駐在さんの「悪意」によるものでしたので、いずれにも該当しません。

が、和美ちゃんと一緒ですから、言うまでもなく、「市中引き回し」にも匹敵するさらし者。


中学校の同級生、後輩、先輩までもが、

「あれ？お前、結局、和美とくっついたの？」
「嘘だろ？」

「よー、どうやって和美手に入れたんだよ？」

ああ・・・うるさい・・・。

「え？ベルマーク集めたんだよ」。

「ええ！和美ってベルマークでもらえるの？」

いちいちまじめにとりあってられるか。

僕としては、こんな人ごみは、さっさと抜け出したいわけですが、和美ちゃんとしては、優柔不断な僕に「余計な虫」を近づけないまたとない機会。
"市中引き回し"は続きます。

「ねぇ。そろそろ出ない？」

「ダメ。あと2往復」。

うう・・・。
まるでなんかの特訓みたい・・・。

「あら。やならいいのよ。また迷子センターに届けて駐在さんに見はってもらうんだから！」

「ごめんなさい・・・」。

なんで謝ってるんでしょう？僕。

こうして、時ならぬ「お百度」を踏むはめに・・・。


しかしそのわずか4度目。鳥居の付近。

「あっ！」

「どうしたの？また"女性のお知り合い"？」

皮肉タップリに和美ちゃん。


お知り合いなんてもんじゃありません。

なぜならそれが

「竹内さん！」

そうです。西条くんと、一時期、かなり熱愛していた1年下の女子なのですが。
42回別れて、西条くんとはそれっきりになっていました。

「竹内さん？それはいつおつきあいした子？」

「ち、ちがうよ」。

うう・・・。和美ちゃん。このときばかりはと手厳しい。

しかし、

一緒にいるのが

「あら？一緒にいるの、久保くんじゃない？」

和美ちゃんに先に言われて

「そ・・・そそそ・・・そそそ・・・」。

「その通りだ！」

「なに慌ててるの？」


これが落ち着いていられましょうか。

なにしろ西条くんは、今、焼きそば屋にいます。

僕たちには、つきあおうがつきあうまいが「好きになった子公表」のルールがありました。
久保くんが、まさかまさかの「西条くんの元カノジョ」とつきあっているなど、聞いたことがありません。

久保くんにすれば、この町のお祭りに、西条くんが来ているとは予想もしていないでしょう。

別れたとは言え、もし2人が一緒に通りかかったら・・・。

「とにかくまずい！」

人ごみをかきわけて、久保くんを追いかけます。

「イテテ！気ぃつけろ！」
「す、すいません」。

「いたぁい！」
「ご、ゴメン！」

「キャ！すけべ！」
「あ、えっと、どうも」。
（なんでお礼を言っているかはナイショ）

どこから湧いたかと思うほどの人ごみに邪魔されて、なかなかたどりつけません。
それでも、和美ちゃんの手をひくのも忘れて、必至に前へ。
前へ。

「久保ぉーーーーー！」

だめだ。聞こえてない。

そうこうしているうちに、久保くん、竹内さんカップルは、西条くんのいる焼きそば屋の方へと流されていきます。

やばい・・・。



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