ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「というわけで、西条に手伝ってほしいんだってさ」

横でさっき頼んだ女性が、電話のゆくえが気になるのか、受話器に寄って来ます。
女性ではあるものの、どっちかと言えば赤ベコに近い(?)人でしたので、僕は、その都度に向きを変えて身をかがめなくてはなりませんでした。

＜赤べこ=福島県会津地方の郷土玩具＞

おねがいだから肩に鼻息かけないで・・・。

さらに受話器を身体で包み込んで背中を向けます。

「え？だからさ。相手にヤーさんがいるんだって」

「あ？競馬？なんだよ、競馬って。よく聴こえないぞ」

「え～～～～！そんなこと頼めないって！」

「いや。だからさぁ。西条。ほんとにピンチなんだって」

「あ？競馬？わかった・・・。言ってみるけど・・・保証はないぞ」。

電話は切れました。


さて・・・・どうしたものか・・・。


横にいたちとばかり赤ベコな女性。
「どうだった？西条、来てくれるって？」

「えっとー、来てもいいそうですが、条件があると・・・」

「条件？なんだってんだ？」

「えっと・・・まことにうかがいづらいのですが・・・・」

「え？あたい？」

勇気だ・・・。勇気。

「あの～～～、お嬢さん、しょしょしょしょしょ・・・」

「ん？」

「しょしょ、処女ですか？」

「な、な、な、な、な！」

ドスッ！
　ボコッ！

そらそうだ・・・。いきなり処女かはあまりに失礼というもの。

「しょ、処女で悪いかよっ！くらぁーーーー！」

「やっぱり」

ドスッ！
ドスッ！
　ボコッ！
　ボコッ！
　ボコッ！

激しい「照れ」攻撃！
こん棒のような腕がふっとんできます！

「い、いえ。ちち、違うんです。き、聴いてください！」

ようやく攻撃が収まると

「えっと・・・。西条が明後日の日曜に競馬に行くんだそうで・・・」

「それでえ？」

「えっとですねぇ。そのお守りがもらえれば、来てやってもいいと・・・」

「お守り？」

「はい～～～～～」

「それとあたいが未経験なのがどう関係あんだ！くらぁ！」

「はぁ・・・それが・・・・」

さらなる勇気。

「言ってみろ！」

「はい。えっと～～～競馬には処女の毛がお守りになるんだそうで・・・」（←本当）

「処女の・・・・毛？」

「はい。僕は競馬やらないんでよくわかんないんですが・・・」

「毛って？」

「あーーーー、なんていうかホラ～～～～・・・・」。

「髪の毛？」

「いえ。そうじゃなくって・・・ホラ・・・」

僕の人生でもかつてないほどの勇気をふりしぼり

「○毛」。

ドスッ！
ドスッ！
ドスッ！
ドスッ！

ドスッ！
ドスッ！
ドスッ！
ドスッ！

うう・・・・・。

なんで僕がこんなめに・・・。


しかも。


もらえた。


「あ、ありがとうございます・・・・」。

「た、た、大切にしろよ！」

いやぁ・・・大切にっつっても・・・。赤ベコだし・・・。




「い、いちばん、こう、カール具合の奇麗そうなやつ抜いたんだからな！」

カール具合・・・。そんなリアリティのあること言わないで・・・(泣)。

ティッシュにつつまれたそれを、受け取りましたが

「あれ？なんで2つ？1本でいいですよ？」

「えっと・・・一応、お前のぶんも・・・・」

えええええええええ・・・・

「いや・・・僕は・・・」

「なんだぁ？あたしの○毛はいらないとでもぉおおおおお？」

「あ・・・いえ。と、とってもうれしいです！大切に、大切にさせていただきますとも！」。

できれば一生封印したい・・・。

　西条のバカヤローーー ー ー ー - - -


西条くんに「吉報」を電話で伝えると、僕は、一足先にキャロラインの向かった市営グランドへと走りました。

　確かこっち・・・

そこは、何度か高体連で来たことがありました。

　西条が来るまで早くて20分。
　キャロラインを足止めしないと・・・。
　
しかしキャロラインが見つからないまま、時間は過ぎ、

とうとう市営グランド直前までたどり着いた所で

「よーーーー」

バイクに乗った西条くん、到着。

「あ。西条、早かったな」

そして、
「来てやったぜ～」
「あれ？久保も来たのか？」

「ああ。実は西条ん家にいたんだ」
「へぇ〜」

「一緒に読書会してた」

あーーーー・・・・
なんの読書会かは分かります。

「悪いな。こんな夜に」

「ん？相手プロだろ？西条ひとりじゃ勝っても仕返しがやっかいだからな」

なるほど。
武闘派の連携は経験に裏付けられています。
さすがと言えばさすが。

「ところで手に入れたんだろうなぁ？お守り」
と、西条くん。

「ああ。まったく頼むにことかいて。命がけだったぞ。バカヤロー」

「さすがだなー。俺じゃとっても言い出せないぜ。どれどれ？」

財布からティッシュにつつまれた、さきほどの○毛を手渡しますと

「おおおおおお！」

現物確認。

「お前のじゃないだろうな？」

安全確認。

「あ、当たり前だろ！」

赤ベコのだけど・・・。




なのに、
「すげーーー。これが早苗さんの？」

「え？？？い、いや・・・」

なんかすごい誤解してます。西条くん。
おかげで持ち主のことを言いそびれてしまいました。

ま。いいや。名前書いてるわけじゃなし。
そんなに違いがあるわけでもなし。
処女には違いない（だろう）し。

が、当然、久保くんも反応。
「え！早苗姉さんの？」

「あ～～～～。久保。お前にもやるよ。2つ・・2本あるから！」

「ホ、ホントにいいのか？お前っていいヤツだな！」

褒められると胸が傷みます。

「あ、ああ。うん。西条いわく、競馬に勝てるんだってさ」

しみじみ観賞しながら西条くん。
「いやぁ～～～～。まさか孝昭に頼めないしよー」

そりゃそうだろう・・・。

「夕子ちゃんのもいいんだけど、井上とこれっきりになりそうだしな」

いい判断です。
それ以前に入手不可能です。

「しかし、早苗さんって、ほんとお前に甘いよな～」
「ほんとほんと」。

いや・・・。
だからそれは・・・。
誤解が誤解呼んでます。

しかしこれは友情を裏切ることでは？

良心の呵責に耐えかねた僕は、
とうとう、
「あのさー、西条、」

が、ほぼ時を同じく西条くん。

「舐めちゃお」

「あ・・・・・・」

なおさら言えなくなってしまいました・・・。

「よし！これで勇気100倍！ヤクザでもなんでもたたんでやるぜっ！」

効果はあったようで、なによりです・・・。
赤ベコだけど・・・。





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