
父の家に向かう日。
父はわたしを迎えに来ると言いはったが、わたしも橘の家も、これを強く拒んだ。
このため、大おばあさまが代理的に迎えに来た。
「ひと月に1度、京都に帰る」条件であったためか、見送り側も質素なもので、祖父の姿さえなく、弟とわずかばかりの友人、そして男センセがロビーにいるくらいだった。
わたしの東北行きを最も嘆いたのは、案の定、ふたりっきりの姉弟である匠だった。
わたしは匠を嫌っていた期間が長かったが、哀れな弟はそうではなかった。
わたしを正視さえできず、目は赤くはれ上がっている。
「すぐもどってくるから」
腕の中で、コクコクとうなづく弟。
「センセ。弟のこと、お願いします」
「まかせて~~。花ちゃんも元気でね♪」
男センセは、場に不釣り合いなほど元気で、それがわたしにとって大きな救いになった。
弟にとってはさらに。
「じゃ、行きましょ?花ちゃん」
大おばあさまの言葉が、弟との最後の抱擁を解いた。
東北までの2時間。
あの日はキッズの相手をしていたからだが、これほどに長かったのか。
つい数ヶ月前に訪れた東北の空港は、あの日となにも違わぬ表情でわたしを迎えたが、大きな違いがひとつあった。
父が、そこにいること。
「花。花・・・か?」
「お父さん・・・?」
父は、わたしが想像していたよりずっと歳をとって見えた。
もちろんそれは、写真と比較しての話で、わたしの実際の記憶に父の顔はほとんどない。
たまに夢に見たこともあったが、当然だが、夢の中の父は歳をとらなかった。
これが・・・。父・・・。
復讐を誓っていたわたしに、その人は奇妙に映った。
他人のようでもあり。
他人よりさらに遠い人のようでもあり。
「花ちゃん。おかえり!」
妙子叔母さんもそこに来ていた。
「ただいま・・・叔母さん」
同席していてくれたのは、素直にうれしかったが、わたしはあの日のように快活ではなかった。
重い会食。
ひさしぶりに会う親子の食事とは言え、ほとんど初対面のようなものだ。
もともと父は、口数の少ない人だったように思うが、この日に限っては、痛々しいほどに笑顔をつくっていた。
わたしには、それがまた嫌だった。
気を使うのは妙子叔母さん。
「兄さん。花ちゃんね。数ヶ月前に一度来たって言ったでしょ?」
「ああ。・・・うん。来たんだってな」
「水無月食べてみた?」
え?
わたしは耳を疑った。
「ああ。食べたよ」
「あれにバニラエッセンス入ってて。主人もわたしも驚いたのよ」
わたしは大慌てで口を挟んだ。
「なんで・・・。その・・・水無月が・・??」
確か水無月は、井上くんの下僕に渡したはず・・・。
「どこかの高校生がね。持って来てくれたんだ」
「どこかの高校・・・。お父さん、会うたの?名前は?名前は聞きはった?」
「いや・・・それが・・・」
すると妙子叔母さん。
「それ、きっと許嫁でしょ?花ちゃん」
「うん・・・たぶん・・・井上くん・・・」
と、言いかけた時。
父が突然激昂した。
「許嫁?花!お前!許嫁なんかいるのか!」
「え・・・?」
「そうか・・・あの高校生は・・・」
わたしは父の怒りの意味がまったくわからなかった。
「そんなもの従うことはないぞ!いいか!お前は今日からわたしの娘なんだ!」
「兄さん・・・!!こんな席で・・・」
わたしは
井上くんを突然否定されて
それが不愉快だった。
わたしにひとすじの光をくれた少年。
「花の許嫁は、橘の家に頼まれて、わたしが選んだんですよ」
大おばあさまがとりなしたが
すでに遅かった。
「なんや!突然父親面せんといて!! ずっと‥‥‥ずっとほっといとったくせに!!」
わたしのこの言葉が全てを破壊した。
「お母さん・・・お母さんを殺したくせに!」
言ってはならぬこと。
「自分の都合で捨てたりひきとったり!子供をなんだと思うてはるの!?」
それは大きなしこりとなって、わたしと父の間に残り続けた。
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いや~な空気だ~
お昼のドラマでよくあるような空気だな・・・
でもたかが許嫁で怒ることも・・・
春先にやっと追いつき、毎日更新を楽しみにしています。
辛い言葉ですねぇ・・・
心が通じる日が来ることを祈っています。
親子の絆はどうなっちゃうんでしょうか・・・。
これから読みます
花ちゃんの気持ちが痛いですね…。
2人は離れていたぶん、気持ちがすれ違ってしまうんだろうな。
複雑ですね。
仲良くなってくれると嬉しいです
お父さん、頑固な親父さんみたい。
花ちゃんの気持ちを大切にしてあげて~
ずっと一緒に暮らしている父娘でも
なかなか言葉が通じないこともあるっつうのに…
まったく~
花ちゃんの言葉も哀しいな。
いつも楽しく読んでいます
親子の絆がどうなってしまうのか気になります
複雑ですね。。。
長い間、はなればなれだったから
仕方が、ないのかな??
なんかいやな空気になってきたな・・・。
お父さん、花ちゃんに対してそんな言い方しなくても・・・。
花ちゃんも花ちゃんだよな・・・。
二人ともこんな言い方しなくたってええじゃないか・・・。
ほぼ初対面でも娘に許嫁いたら父親はやっぱ怒るんですね。
言ってはならぬこと…
花ちゃん。辛いね。
匠くんの事も未だに夢に見る程悔いて苦しんでいるのに…
でもこの状況じゃあそう思ってても口をついて出ちゃうと思う。
花ちゃんが1日も早く後悔の苦しみから解放される日が来ますように。
ところで乱栗→欄栗はわざとですよね?
お欄さんの…???
これからこの関係はどうなるんでしょうか?
4月から読み出してやっと追いつきました!!
何か嫌な空気になって来ちゃいましたね(泣
ついでに言うと、これが初コメですぅ(*o*)
花ちゃん、時の絆創膏が傷を癒してくれるからね。
だいじょうぶ。だいじょうぶ。
お父さんはひたすら花ちゃんが愛しいんだよ。もちろんタクミくんの事も・・・・・。
春雷の日の奇跡は、花ちゃんを包んでずっと続いていますからね。
明日をめざして向かい風に胸を張れ!!!。
花ちゃんとお父さん。。。。心が通じると良いなぁ~。
続きが
お父さんが身勝手にまえます~
でも花ちゃんもあの言い方はヒドイ
いつ仲直りできるんでしょうか~?
先が気になります~
険悪ですね……
続きが気になります!
お父さんが身勝手に見えます~
でも花ちゃんもあの言い方はヒドイ
いつ仲直りできるんでしょうか~
先が気になります~
花ちゃん……自分でもわかってるけど止められないんでしょうね……
いつか花ちゃんもお父さんも笑える日が来るといいな……
許嫁に対してなぜ激昂?何かあるのでしょうか。
これから”事情”が明らかになっていくのですね。
それにしても、「お前は今日からわたしの娘なんだ!」って、自分のことしか考えていない、人の気持ちを慮ることのない、やな言い方ですよねぇ。花ちゃんでなくてもカチンときちゃいますよ。
自分の両親は亡くなってはいませんが自分か小さい頃離婚しました。
離婚した原因は父が母と自分をほったらかしにしていたからです。
遊んでもらった記憶どころか父の顔の記憶もありません。
なので花ちゃんの気持ちはある程度理解できます。
でもやっぱり花ちゃんには自分の父親なのでちゃんと仲直りして欲しいなぁ。
花ちゃんの気持ち考えると、すごく辛い…。
言っちゃいけないと思ってても、つい出ちゃったんだろうなぁ…。
お父さんと花ちゃんが仲良くなる日が早く来て欲しいですねぇ。
親の心 子知らず。
子の心 親知らず。
花ちゃんの知らない所で きっといろんな大人の事情があったんだと思う。お父さんは花ちゃんを愛してます。いつか想いが伝わる事を信じています
確かお父さんはこれから再婚しちゃうんでしたっけ…。違っていたらすみません。でもそうなったら益々二人の距離が遠くなるんでしょうかo(>_<)o辛いですね…。
重いですね~
色んな人の思いが交錯して、複雑・・・
これは。。私は花ちゃんに同情するなぁ。
お父さんに、水無月をちゃんと評価して欲しかったな。。
どうか仲直りできますように。
そもそも、親子なんて好き嫌いで割り切れる関係じゃないんだから、
思いのたけをぶつけて何が悪いの?
たとえ、どんなにいがみ合おうが、血縁には変わりない。
だから悩むんだよね、花ちゃんw
どんなに結末でも、どんと来い!! って気持ちで続きを待ってます、くろわっ様~~・・・
>Rabiさん
Rabiさんのような境遇にあった方は
決して少なくないはず。
でも、多くの人が経験することだからたいしたことじゃないっていうものでもない。
なんかややこしい文になっちゃたけど、
私もあなたも、これからの人生は幸せになることだけ考えていたいものですね。
シリアスの一言・・・。
許嫁・・・もしや、花ちゃんの母さんとと父さんの時にもそんな障害があったんでわと・・・。
>みつももちゃ~ん
パッピーバースデイ
あう~。親父はみんな子の気持ちまではわからんかぁ……(くろわっ様例外ですね。ごめんちゃ!)わかってるつもりとか。仕方ないけど~。子供だって親の気持ちわかんないもん。わかる方が稀よね。
だからかな?どっちにも反発したくなっちゃう~。共感じゃないのよね~。
本音でガチンコバトルしてよ~って。
それってカップルでも言えるよね。最近気付いた。距離をおいてた彼と今月頭にガチンコバトルした。本音言いまくったよ。初めて本音言った。二人で変な遠慮して、変に無理してたから、疲れちゃったんだよね~。彼氏彼女っても他人だから……。
親子でもそうだよね。わかんないもんはわからん!!離れて暮らしたなら尚更。本音言わないとね~。
父ちゃん…そこで引きさがんなよって言いたいまちゃもんでした。……間違えた……まもちゃんでした!(本気間違い。笑。)
父と娘のエゴのぶつかり合い…。
そして許嫁の存在に対しての激昂。
裏には何か有るんでしょうね~。
父と娘の確執ですね…
花ちゃんがお父さんを受け入れる日は来るのかな?
花ちゃんの明日はどっちだ!?
皆さんの米拝見してたらみつももさんお誕生日なんですね。
おめでとうございます
お父さんの気持ちが
わからない・・
こうなること、わかってる
はずなのにーーー!!!
おひさしぶりです~
期末テスト近いんですよw
んー、高校どうしよう;;
可愛い娘を他の男の人に取られたくない・・・。
これって世の父親が皆思うことですね。
たとえ小さい時に別れていても父親には変わりないから・・・。
言ってはならぬ言葉を言ってしまった花ちゃんの気持ちも分かるなぁ。
二人とも複雑な心境ですね・・・。
お父さんの気持ちがいまいちわかんないです。。
こうくると花ちゃんに同情するしかないんだよなぁ。。
お父さんはいままでの花ちゃんを知らないんですよ。きっと。
それぞれの思いは重いですねぇ。
でも、重いからこそ ぶつかり合うんですよね。
お互い腹を割って話すことができれば、そして、その当時の本当の事情が明らかになって、花ちゃんがしっかりと受け止めることができたときに初めて、親子の絆がしっかりと結ばれることでしょう。
お父さんもやっと娘と暮らせると思った矢先に、許婚の話が出たから、カッとなたんだろうな。
お互いの気持ちが強すぎて、すれ違いになっちゃったんだね。
あぁ・・・
かなしいなぁ・・・
お花ちゃんも、お父さんも、
ホントに言いたかったのはそんなことじゃないのにね・・・
これから二人に、みんなに、
いい風がふいてきますように・・
言ったらあかんてわかってるからこそ、いってしまう言葉ってあるもんね…
多分、最初はボタンを一つ掛け違えただけなのに、、、、
すれ違いがすれ違いを読んで、
大きな確執になってしまったような、、、、
ここまでこじれると、すぐにとは行かないでしょうが、
いつの日か、父娘の気持ちが真っ直ぐ向き合えますように(-人-)
言ってはならぬ人の、言ってはならぬ言葉だけど、渦巻いている心の叫び・・・・。
言った花ちゃんも傷ついているんだろうなぁ~。
生きていると本当にいろんな事が起こります。
成り行きを静観します。
これからの出会いに期待します
言っちまえ、言っちまえ、今まで思ってたこと言いたくても誰にも言えずに平たい胸に秘めていた言葉。
離れていたからこそ思いのたけをぶつけてしまえ、パパもはなちゃんの言葉の重さにきずいてほしい(;_;)
「…今日から俺の娘なんだ。」
じゃあ昨日までは違ったの?
花ちゃんの立場に近かったので、お父さんの言葉に傷ついちゃいます。
言葉を選ぶのって難しいですよね。
わかりあう日が来ますように!!
頑張れ!花ちゃん!!
花ちゃん…(;_;)
頑張って(泣)!!
私は、花ちゃんよく言ったね!って思いました。
どんな理由があろうとも、子供を捨てた事は、花ちゃんの心に大きな傷をつけたと思います。
この傷は、癒える事があるのでしょうか・・・・・
とっても切ないです…。言ってはいけないと思っても言ってしまった花ちゃんの気持ちをお父さんに分かって欲しいです。
花ちゃん頑張って!!
つらい会話ですね。
じっくり話し合う時間も必要だと思う。
お父さんの気持ちもわかるけど、言えた義理ではないような、でも父親だし、ずっと娘を案じ続けていたし。
難しいですね。
難しいですね一度絡まっちゃった糸を解ける様になるのでしょうか。今日、義母さんと小5の娘が京都に遊びに行きます。仕事じゃなかったら私も行きたかった(>_<)
お父さんは橘家・・「旧家の悪しき伝統」に怒ったんじゃないのかな?
「今日からわたしの娘なんだ!」も花ちゃんがお父さんのもとに来たということは橘家から開放されたんだから
許嫁なんて旧家の悪しき伝統に囚われることなく自分の好きな人と恋愛・結婚していいんだぞって事を言いたかったんじゃないのかな?
お父さんにとって盲点だったのは花ちゃんの許嫁=井上くんが花ちゃんに「ひとすじの光をくれた少年」だったと言うことかな。
〉みっきーmama さん
そう思います
親子のすれ違いってそういう事が多いのでしょうね
きっと自身も何かしら旧家の伝統に苦しんだ経験があり、花ちゃんにはそんな思いはさせたくなくて、でも…
無口なお父さん…
誤解を解く術も無く一度狂ってしまった歯車はこれからもすれ違いを決定的なものにしていってしまうのでしょうか…
悲しいですね
花ちゃんもお父さんも辛い。
仲良くなってほしいし幸せになってほしいけど。
そう簡単にはいかないですもんねぇ
娘の人生は娘自身に選ばせてあげたい、
娘の結婚相手を周囲が決めるなんて、と、
お母さんとの結婚を許してもらえなかったお父さんとしては、許せないことだったのでしょうね。
花ちゃんにもお父さんの気持ちはいつかきっと伝わると思う。
いまの時点では、花ちゃん、悲しいよね。
花ちゃん、言っちゃったね。
でも逆に言いたいことを早めに言えてよかったかも。
あとはお父さんが花ちゃんを抱きしめてくれればいいのに。
花ちゃん全部言っちゃえ!!時には、本音でぶつかり合うことも大切なはず!!
自分を苦しめた「家」と言う鎖。娘に同じそれを見つけて愕然としたのでしょうね。父の想い。娘の想い。今はまだ噛み合わなくとも、いつかきっと。
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しかし
妙子さん(ケンちゃんも)
一味の中に許嫁いると知ったらビックリですよね…
でも安心するかな?本当に他人の為に一生懸命になれるいい奴等だから…
言ってはならない・・・けど。
花ちゃんの気持ちわかるなぁ。。
むしろ良く言った!!と思ってしまった。。
乙女心は複雑だよねぇ。。
言ってはならないって分かってても積もる思いはやっぱ口にでるよね
言いたい事を素直に言い合えるようになればいいね。
お互いに少しずつ言葉が足りないというか、最後まで聞かないというか・・・
父娘ですなぁ・・・
お父さんの、許婚の否定は、
かつて、家という大きな力に苦しめられ、最愛の家族を失ってしまったお父さんの、
娘には同じ苦しみを味わわせたくないという、愛情の表れだと思うけどな。
十代の花ちゃんに、理解しろというのは無理な話だろうけど・・・。
次、いきます。
たとえ間違っていても、意図的に操作されていても
わずかな情報の中で
全力で相手の事を思う
だからこそ、出た言葉なんでしょうね
思わず言ってしまった言葉・・・
これからどうなっていくのか楽しみです!
やっぱり馬鹿だ・・・。
馬鹿っていうコメントもう何回したんだろう・・・。
でも何度でも行ってしまう・・・。
駐在からの全員集合ほぼ無理そうですね・・・。