ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「これを・・・どこで？誰から受け取った？」

狼狽というのは、まさしくこういうことを言うのかも知れません。

「えっとーーー。ヤクザの車の中の女の子から～～～」

「や、やくざ？今、ヤクザって言ったか？」

「孝昭。話ややこしくするな！」

僕の注意を受けまして、孝昭くん。
「うーん。モグサって言ったかも～～～」

「いや、間違いなくヤクザ風の男の車に乗ってたんだね？」と、ご主人。

「だからモグサの車・・・・」

もう遅いよ・・・。孝昭。
意味わかんないし。モグサの車。

「君たち、ちょっとそこのテーブルで待っててくれないか？」

「ええ・・・かまいませんけど・・・」

ご主人。女子店員さんに向かって
「君！この子たちに、なんでも好きなケーキさしあげて！」

「ハイ！」

しかし、すでにモナカで胸焼けしていた僕たちは、ゲロゲロです。

「いや・・・そんな・・・・」

奥の事務室へとけたたましく駆け込むご主人。
どうやら思い当たるふしがあるのか、電話をかけに行ったようですが。

「なんだろ？」
「さぁ・・・・やっぱヤクザはまずかったんじゃないか？」
「最初っからモグサって言うんだったな」
「ダメだろ・・・・」
「モグサの情夫」。
「意味わかんないから」

僕たちは、ご主人の電話に耳をかたむけますが、ほとんど聴こえません。

そこへニコやかに女子店員さん
「あ。君たち？どうぞ、お好きなケーキ選んで〜」

「えーーーっと。いや、けっこうです～。僕たち～」

実際、モナカで胸はマグマ沸騰状態。
そんなもん食う気になれません。

なのに
「あら。遠慮しないで？こっちの和風プリンなんかどう？餡が
た～～～～～
～～～～～
～～～～～
～～～～～っぷりで
甘～～～～～～
～～～～～～～
～～～～～～～くっておいしいのよ？」

ぐぅっ・・・・・

なにもそこまで強調しなくても・・・・。

いっせいに胸を押さえる僕たちです。

「いえ・・・僕らアンコはもう・・・・」。

「あら？おきらい？じゃ、こっちのタルトにする？生クリームが
た～～～～～
～～～～～
～～～～～
～～～～～っぷりで
甘～～～～～～
～～～～～～～
～～～～～～～くっておいしいのよ？」

このアマ・・・。悪意があるとしか思えん・・・！

アンコと生クリームの和洋タッグ攻撃に僕たちは気分最悪。

グレート井上くんでさえ、車酔いのような表情をしています。


なのに女店員さんが
「最近の子にしては遠慮ぶかいのね！」

遠慮してません。
遠慮したいんです。

が、

「はい。どうぞ～～～～～♪」

来たのが、

『おぐらケーキ』

「はい。じゃあこれ召し上がれ。餡もクリームも
た～～～～～
～～～～～
～～～～～
～～～～～っぷりで
甘～～～～～～
～～～～～～～
～～～～～～～くっておいしいから！」

ぐわああああああああああ！

た、たまらん！

「あ・・・・ありがとう・・・ございます・・・」

上目使い。恨みたっぷりでお礼を言う僕たち。

「いいのよ～～～。飲み物はマロンシェイクでいいかしら？」

いいわけねーだろっ！
なんで甘いもんに甘い飲み物なんだよっ!!!!!

「いや・・・僕ら、み、水でいいっす・・・・」

と言ってるのに

「はい！マロンシェイクね！マロンクリームが
た～～～～～
～～～～～
～～～～～
～～～～～っぷりで
甘～～～～～～
～～～～～～～
～～～～～～～くっておいしいから！」

ごわあああああああああ！

すでに拷問・・・・。
暑くもないのにいやな汗がタラタラと流れてきます。


僕たちが女店員さんの「甘味攻撃」に苦戦していると、ようやくご主人が出て来られて

「き、君たち。すまない！私はこれからすぐに出かけなくちゃいけないので、失敬するよ！」

電話で何ごとか判ったようです。

「え？ええ・・・そうですか・・・・」

「それからこの水無月。こちらで預かってかまわないかな？」

「ええ。かまいませんが・・・けど・・・・」

まだ渡すべき相手がわかっていません。

「すまない。私の・・・・。私の知人のものかも知れないんだ」

「え？そうなんですか？」

なんという偶然！

「今、電話で確認したら、ほぼ間違いないようなんだ」

「ああ。それなら・・・・」「まぁ・・・・」

「ありがとう。ありがとう」

ご主人は、息子ほどにも歳の離れている僕たちに、丁重にお礼を言いました。
靴もちゃんと履き終えないほどの慌てようです。

店を出る間際、ご主人。女店員さんに、
「君！私は今から空港へ行くから！この子たちにもっともっとケーキさしあげて！」

「はい～～～。社長～。承知しました～～～～～～」

えええええ・・・・・

「というわけでさっさと食べてね！次のマロンケーキ準備するから！」

なんでマロンシェイクにマロンケーキ・・・？

「これはねぇ。ただのマロンケーキじゃないのよ！蜂蜜
た～～～～～
～～～～～
～～～～～
～～～～～っぷりで
甘～～～～～～
～～～～～～～
～～～～～～～くっておいしいんだから！」

もう、かんにんしてください・・・・。



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