ぼくたちと駐在さんの700日戦争

にしても、だ。

なんで乙女の迎えが・・・。

「あの～・・・このヤクザまがいな人たちは？」

「あ？こいつら？」

すると土下座をしていた4人。

「ぁああ？ヤクザまがいだぁ!?」

「あ！か、かんにん！そんなつもりじゃ・・・」

「ヤクザまがいだとぉ!?」

「だ、だからかんにん・・・」

「ヤクザだよな？」
「うん。まがいじゃねぇ」

え・・・・・・・・・・・・・・。

「ほら！これが証拠だ！」

「え～～～っと。証拠って、そのピンクのカード？」

「ああ。このあたりじゃなぁ。このカード何枚持ってるかで、ヤクザのクラスが決まるんだぜ！」

うーん。ヤクザのくせにピンク。
これでヤクザのクラスが決まるとは。京都とは風習も法律も違うようだ。

すると白馬の叔父さま。

「と、とにかく。よく来てくれた。車で送ってくからよ」

「おおきに」

「あ。男センセは？」

わたしは男センセに聴いたのだが、叔父さま。間髪おかずに
「てめぇは来るなっ！」

「え？どうして？ダーリン♪」

「だだ、誰がダーリンだっ！」

「花ちゃん。ボクは次の飛行機で帰るよ♪ダーリンが付いてればだいじょうぶそうだし♪」

「だ、だから誰がダーリンだっ！」

「じゃ、花ちゃんのこと、おねがいね。ダーリン♪」

「テ、テメェ～～～～～～～～～」


「あの。ありがと。男センセ・・・」

「ううん。いいのいいの。気をつけてね♪」

本当は、ずっと男センセについてもらったほうがよかったかも知れない。
が。道場もあるし、やはりそこまでわがままは言えない。


男センセがロビーに消えると、4人のヤクザまがいのヤクザ(?)が、ようやく立ち上がった。

男達は、手に手にわたしの荷物を持ってくれると、
「じゃ、いきやしょうか？ダーリン」
「そうそう。いきやしょう。ダーリン」

「テ、テメェらぁあああああ！」

けっこうおもしろそうだ。みちのく。
来てよかった。


迎えの車は豪華ではあったのだが、

「あ。クラウン！」

「へい。豪華でやしょ？FMもついてんですよ！FM」
（当時は高級車にしかFMラジオはついていなかった）

「うん！すっごーい。で？この車のどこに乗ればいいの？」

「へい？」

こいつら相当なアホだ。
5人乗りの車なのに、5人で迎えに来るとは・・・。
東北には、義務教育制度はないのか？

とうとう苦肉の策で
「おい。ジロ。てめぇトランクに乗れ」

「え？お、俺がですかい？」

「イヤとは言わせねぇ」

「ど、どっかに遺棄されないでしょうね？」

会話はヤクザだった・・・・・。

「つべこべ言わずにとっとと乗れっ！」

「わ、わかりやしたよ。ダーリン」

「殺してやるっ！」

義務教育はないが、血の気は多いらしい。

「いいか！ジロ！お前は荷物だ」

「ヘイヘイ」

トランクから籠った声が返事する。

「荷物はしゃべらない、動かない、泣かない」

「ヘイヘイ」

「なんで返事しやがるっ！ぼけぇっ！」

みちのくは怖い。

しかし、こいつらのアホのおかげで、いくつかの荷物は手に持って乗る羽目になった。


走り出したクラウン。

「しかし、驚きだったな。師匠のお嬢さんがこんなお年頃とは」

「あの・・・父には・・・」

「ああ。女房から口止めされてっからな。黙ったままだが。師匠も会いたかったろうに」

「・・・・・・」

　わたしも。たぶん・・・。

けれど、わたしは意識的に話をそらした。

「妙子叔母さん、今日はなぜ？」

「ああ。わりぃ。今日は、ちと婦人科に行くことになってな」

「婦人科？・・・あ！わかった！おめでた？」

「あ～～～～。いや。その逆だな・・・。真逆だ・・・」

「え・・・・？」

「まぁ、夕方には帰ってくっと思うからよ」

「あ、かん・・・にん・・・」

わたしは聴いてはならないことを言ったようだった。
それはさっきまで賑わっていた家来たちが、急に黙ったことでも理解できた。

「まぁ。いろいろあらぁな。気にすんな」

叔父さまは、きつい顔つきに似合わぬ笑顔を見せようとしてくれたが、無理をしているのがよくわかる。

気まずい空気を察して、運転席の男がFMラジオをつけてくれたが

”は～～い！リスナーのみなさ～～ん。元気で聴いてくれちゃってますかぁ？”

いかにも田舎っぽい放送。

「おい、ラジオうるせぇぞ。消せ」

「ヘイ・・・」

再び静寂が訪れる車中。

「花ちゃん。アンタ、こっちに許嫁いるんだって？」

「ええ」

「いまどき許嫁たぁねぇ。さすが歴史あるとこは違うなぁ」。

歴史・・・。そんなものではない。
祖父母は、ただわたしに母の二の舞にならぬようにとだけ、無理矢理その風習を掘り起こしただけ。

「叔父さまは？妙子叔母さんとは恋愛？」

「あ？おお！ま、お、お、押し掛け女房って言うのかなァ～～～」

とたんに

助手席の男が
「ぷっ」と吹き出し、後部座席の男は笑いをこらえているのか、顔が真っ赤。

おまけで

「ばはははははははははははは」

荷物にも聴こえたらしく、トランクからは鈍い笑い声が聴こえてくる。

「荷物のくせに笑うんじゃねぇ！」

なるほど。
恋愛結婚らしい。

「叔父さまも菓子屋を？」

「ああ。。師匠と伯父さん・・って・・・あ。ほら、あんたの・・・」

「大おばあさまの家？」

「ああ。その人らが金出し合ってくれるって言ってくれてよ。ほんと・・・俺みたいなやつに・・・ありがてえこった」

大おばあちゃんは、こっちの資産家に嫁いだが、この夫となった人物がまたいい人で、将来性のある人間には惜しまず投資をしてくれる人であった。
父は、そのお金を元手に開業し、現在の地位を得たのだという。
その人が投資したがるくらいなのだから、この叔父さまも相当な腕の持ち主なのであろう。
まったく人は見かけによらない。

運転をしていた男が

「こう見えても、兄貴はかなりな職人なんですぜ。お嬢さん」

「へ〜・・・」

「ほ、褒めんなよっ！こら！」
照れているらしい。

「いや。ほんと。兄貴のつくるケーキは最高なんすから。ここいらのヤクザはみんな知ってます」

ヤクザが・・・。
みんな知ってるケーキ屋・・・。
東北ってどういうとこだ・・・？


それにしてもこのクラウン。
傍目からはどううつっているのだろう？
ヤクザにとりかこまれた「可憐な」女子高生。こりゃどうおせじに見ても誘拐だ。

案の定

”はい～～。前の車両。停まって～～～～～”

「げ。やべ！マッポ・・・！」

「あ、あわてんじゃねぇ！」

「だってダーリン・・・。トランクに・・・・」

「あ・・・」

ところが。
停車した車をのぞきこんだおまわりさん。

「お！お前、ケン坊じゃねぇか？」

「あ・・・・じゅ、じゅ、巡査っ!?」

顔見知り？



　マスカレード第31話・BSへ→

▲マスカレードGS/BS目次へ

---

関連記事

• 番外編『マスカレード・BS』第31話 春雷(12)
• 番外編『マスカレード・GS』第30話 春雷(11)
• 番外編『マスカレード・BS』第30話 春雷(10)