ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「おわ～～～～～～～！」

いきなり菓子屋のおばさんに「愛の激白」。
たまらず店を出た僕でしたが

「はい！ただいまの記録～～～、16秒～～～」
「最低～～～」
「千葉の半分じゃん」

「く・・・くそ・・・河野、覚えてろ！」

『恐怖のグルービー』は、報復が報復をよぶ、まさしく恐怖のゲームでした。

ところで、グルービー。
ワイヤレスマイクがついているだけでなく、カセットレコーダーでもありましたので、他にもいろんな悪戯ができました。

次のターゲットは電気屋。

千葉くんと河野くんを除いて、全員が電気屋さんへと入ります。

当時、オーディオブームというのがまきおこりまして、電気屋の店内は、ここに限らずオーディオ製品で溢れかえっておりました。
右見てもステレオ、左見てもステレオ。
これを試聴できるように、やはりたいていの店がFM垂れ流しだったのですが・・・。

潜入した僕たちは、客を装って各オーディオ装置の前へ。

今日の電気屋さんの店番は奥さんのようです。

僕たちは合図を送ると、いっせいにチューナーを78.1MHzへ。
これ。実はグルービーのワイヤレスマイクの周波数なのですが

”は～～い！リスナーのみなさ～～ん。元気で聴いてくれちゃってますかぁ？”

いっせいに鳴り出すオーディオ装置。

音質は同じですが、実はFM放送ではありません。グルービーからの千葉放送。

”はいっ！今日のラジオカーは～～～、○○市をたずねちゃってますよ～～～～、○○市のみなさん聴いてますかぁ？”

ご丁寧にBGM付き。ラジカセ後ろで鳴らしてるだけなわけですが。

「あ。○○市だって。僕たちのとこにラジオカー来てる！」
「ほんとだ！」

聞き耳をたてる僕たち、と、電気屋奥さん。
来てるどこじゃありません。すぐ壁をへだてての放送です。
ワイヤレスマイクの到達距離は、せいぜい見通し80mくらいがせいいっぱいなので、それ以上離れられないのです。
なさけない「ラジオカー」です。

”きょうは～～～、この町の○○電器さんをたずねてみようと思ってます！”

「あれ？○○電器って、ここのことじゃねぇの？」
「うん。そうだそうだ」
「すげっ！」

”えー、お便り来てます。××高校の西条くんから！あ、匿名なのに名前言っちゃった・・・けど、まぁいっかぁ”

芸がこまいぞ！千葉DJサイコー！

店内緊張。特に奥さん。

”ぼくたちの町には～～～、○○電器さんってのがあって～～～、ここの奥さんがとーーーっても美人なんで、ぜひ訪ねてくださいー、ってリクですね”

「え～～～～～～～！」
「すげーーーーーー！」
「美人奥さんだって！」

みんなビックリ！なふり。
奥さんだけほんとにビックリ！

”はいはい～～～。○○市の○○電器さんね！ラジオカー、今むかってま～～～す。待っててくださいね～～～～”

「うそっ!?」
「今来るって！」

”たのしみですね～～～。スタジオの河野さん～～～。美人奥さんですって！”
”ほんとですね～～～”

ほんとですねー。
今、目の前で化粧し直してますからねー。
これだからやめられませんねー。

が

”げっ！あのレオーネ、工藤じゃん！”
”ほんとだ。やべ～～～～”

アホ・・・。そんな放送あるかっ！

”みなさまとともにお楽しみいただきましたNHK-FMリクエストアワーでしたが放送を中断します”

ありゃ・・・

放送中断しちゃったよ・・・。NHKなのに・・・。

こそこそと店を出ると

「ばっきゃやろぉーーー！千葉！なにやってんだ！」

千葉くんたちが放送している建物の壁裏へまわりこみましたが


「きさまらこそなにやってる？」


そこにいたのは・・・

「ありゃ・・・先生・・・」

千葉くんたちをひっとらえた工藤先生でした。

「えっと。せ、先生もリスナーだったんですね？」

「バカヤローーーーーーっ!!草むしりサボってなにやってんだ！」

なにやってるって言われても。

「説明してわかっていただけるかどうか・・・」
「なにしろ公共放送ですので」

「公共放送・・・・」

工藤先生、がっくりと肩を落として、千葉くんの持っていたグルービーのマイクをとりあげました。

「小学生か？おまえら！」

・・・キツい・・・。

が。

「あ、先生。マイク入ってますよ？」

「えっ？ウソ・・・？あーーー、失礼いたしました～～～」

なんで人間ってこうもマイクに弱いんでしょう？
たまらず吹き出す僕たち。

我に返ってさらに激怒する工藤先生。

「ふっざけんなーーーーーーーっ！」

おかげで説教、長引く長引く。

「さっき駅前に行ったらな！麻生と久保だけで草むしりやってたぞ！」

どうやら見回りに行かれたようです。しまった・・・。
麻生くんたちからどういう報告をうけたか、おおよそ想像はつきますが、手柄は「根っこチャンピオン」と「ウンコ男」にすっかり奪われておりました。

「すんません・・・」

一応、謝る僕たち。
謝るぶんには無料なので、馴れちゃってます。

しかし工藤先生。おさまりません。
「お前らは明日もう一度登校しろっ！いいな！」

「えっ。でも明日って、新入生の説明会があるんじゃ・・・」

そうです。毎年、入学式前に新入生への事前説明会があるのですが、それがちょうど明日。

「ああ。ちょうどいい。お前らもいっしょに説明会受けろ」

「え～～～～！うそでしょ？」
「じょ、じょうだんじゃねぇよ！」
「やっと2年になれるのに」

「やかましい！まったく次から次に悪さしやがって！1年からやりなおせ！」

「え～～～～～～〜〜」

と、そこへやってきた電気屋奥さん。

「放送聴いたわよ～～～。あんたら留年なのね～～。あはははは」

え？マイク入ってたの？



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