ぼくたちと駐在さんの700日戦争

＜はい。花ちゃんと最初に出会うのは～～～～。発表！＞

空港には叔母が迎えに来るはずだったが、姿が見えない。

ロビーを出た空港の入口付近。
わたしは何度も待ち合わせ看板の写真を確認しなくてはならなかった。

間違いはない・・・。ここだ。

男センセは例によってトイレ。
この頃になるとさすがに、少しは申し訳なくなってきた。

しかし東北。風紀の悪いところだ。
わたしの「東北」の印象は、かなり幼いときのものだったが、当時とは比較にならない。
ヤクザみたいなのがゴロゴロいる。なんてとこだ。

ところが

「あの～～～～。斎藤さんですかね？」

そのヤクザグループがなんとわたしに声をかけてきたのだ！

なんで名前知ってはんの!?

あ！そうか！荷物かなにかに名前が？
いやいや。そんなはずは・・・

「そやけど。わたしになにか？」

わたしは身構えた。

「あー、よかった。お～～い、やっぱこのお嬢さんだぜ！」

仲間を呼ぶと、なんとわたしのトランクに手をかけたので

「な、なにしはんの！」

わたしは慌ててトランクを押さえた。

「あー、いえ。わしら怪しいもんじゃなくって」

「怪しい！めっちゃ怪しいて！」

「いやぁ～～～。そうじゃなくって・・・」

4人ほどの男達が寄ってきて、私を取り囲んだ。身を縮めるわたし。

　シュッ！

その後ろから風が走った。
風はわたしの髪をなでるようにすりぬけると、ヤクザ風の男は吹き飛んだ。

「いってーーーーっ！」

「ボクのつれに手を出されちゃ困るなァ♪」

「お、男センセ・・・」

「ね！よかっただろ？ついてきて♪」

さすがハブ男！強い！
コクコクとうなづくわたし。

「な、なんだぁ？てめぇ！」

「花ちゃん！離れて！」

「ハイ‥！」

私は逃げるようにしてロビー内へ。

4人の男たちは、あっという間に男センセの前に倒れた。
さすが我が師範！

が・・・

「ほ～～～。めずらしく骨ありそうなヤツだな」

後ろから余裕ぶっこいて歩いて来た男。
ヤクザの親分？
いや。それにしては若い。わかった！アイツ用心棒だ！
その歩き方に隙がない。間違いなく武道を嗜(たしな)んでいる者の歩き方。

あれは・・・柔道？

と、いきなり

「はっほ～～～～～～～♪」

男は足蹴りから入った。
なんだ？柔道じゃない？空手？

男センセは、これをかわしたが、わたしから見てもいっぱいいっぱいだ。
キックを受けた腕をかばうようにするのは、相当なダメージがあった証拠。

「へぇ・・・。なかなか・・・♪」
　
倒れた男たちが、この隙を縫って立ち上がり始め、また取り囲まれる男センセ。

しかし4人は、やはり男センセの敵ではなかった。

わずか2まわりの動作で、また地面へと吹き飛ぶ。

問題はあの用心棒。

「はっほっほ～～～～～～♪」

男センセがそれなりの達人と知ると、恐れるどころかうれしそうにさえ見える。

次から次に奇声とともに蹴りを繰り出す。その速度はやはり常人のそれではない。

「はほっほ～～～～～♪」

それにしてもなんだろう？あの奇声。
かなりあぶないヤツだ。
見ているぶんには、男センセのほうのぶが悪い。

「やるね～～～～。君♪」

「てめぇこそ。ただもんじゃねぇなぁ。え？」

そう。男センセは、ただもんじゃないぞ！

　オカマだぞ！


用心棒は、蹴りが通じないと読むと、今度はパンチをまじえて攻撃！

速い！速すぎ！とんでもないヤツだ。

それは空手ともちがう・・・。なんだあれ？ボクシング？

が、合気道は、腕での攻撃に対しては強い。
男センセ、腕を揃えてこれをかわすと、用心棒に投げをうった！

「ひゃほ？？？」

用心棒は、この時初めて技にかかった。

素早い受け身はやはり柔道だ。とにかく複合的に武道をたしなんでいることは間違いない。
結局、男センセの押さえははずされていた。

「へへ。合気道かぁ？」

「ま～～～、いろいろと～～～♪」

負けるな！オカマ！

ところが。

「うう・・・」

男センセ。いきなり腹を押さえた。

まずい！まだコーラックが効いているらしい。
恐るべし！コーラック20錠！

この隙を達人の用心棒が見逃してくれるわけもなく、とたんに首に絞め技が入る！

4人の男たちは、警備員に備えてまわりを囲んでしまっていた。

男センセ、絶対絶命！

ここはしかたない。わたしの適う相手ではないが、文字通り背に腹は代えられない！

「とぉーーーーーー！」

わたしは用心棒に襲いかかろうとしたが、4人のうちの男ひとりがこれを阻止！

「じゃませんといてっ！」

必殺キ○蹴り！
さすがにヤクザには初めてだったが、キンタに比べりゃかわいいもんだ。

「ぐぉぉお・・・！」

それにしても。これってよっぽど痛いんやなぁ。

などと感心してる場合やない。

「男センセ！」

圧倒的に劣勢の男センセ。

「はっほっほ～～～～～♪」

が。この2人の達人の戦いは、意外なことで勝負がついた。

締めに入ろうと用心棒が、男センセの首を組みに行った際に

「ス・テ・キ♪」

「はっほ？？？」

「強い男って素敵だわ～～～～♪」

「はほ？？？？」

「ン～～～～～～♪」

「おわ～～～～～！」

男センセのキッス攻撃に、顔を真っ青にして離れた。

「て、て、て、てて、てめぇ！なにふざけたこと言ってやがる！」

「もう一回、し・め・て♪」

「どわぁああああああああ」。

用心棒。逃げる逃げる！

そりゃそうだ。今回ばかりは敵味方を離れて用心棒に同情する。

　いまだ！

逃げて来た用心棒はスキだらけ。わたしは激しく足払いをくらわせた。

予想外の攻撃に倒れた用心棒！そこに覆いかぶさるオカマ！

やれやれ。勝ってよかったけど、すさまじい図だよ。こりゃ。

今度は、男センセの絞め技がはまった。
はまったけど、見たこともない型だ。どっちかっていうと抱き技？

「おわ～～～～～。か、か、かんべんしてくれ～～～～～！」

かつて男センセの絞め技がはずされたことはない。

「女の子襲うなんて趣味わるいよ～～～♪」

「お、お、女の子？お、おそう？」

→ → → → →

「え～～～～～～！じゃ。あなたが、お、叔父さま？」

「あー。うん。女房がちと来れない事情ができて。すまなかった。まさか師匠の娘さんとは・・・」

4人は土下座している。
どうでもいいけど、表でこれは目立つわ。

「白馬に乗ってくりゃよかったな～」

「どうして？」

「ほら。白馬のおじさまがお迎えに？」

つまらんっ！

と、わたしは思ったが

「ほんっと♪白馬のおぢさま♪」

「かんべんしてくれ・・・」



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