ぼくたちと駐在さんの700日戦争

飛行機。

ちっちゃい・・・。

びっくりするほどちっちゃい。

京都の観光バスよりちっちゃいのに、飛んでる。
信じられない・・・。

しかも座席が異様に狭い。
2列並びの席。男センセはピッッッタリとくっついているわけで、そりゃぁ、これからおつきあいしましょう、とかいう男女にはいいが、絶対おつきあいしたくない場合には、地獄だ。

なのに

「ふん♪ふん♪ふ～～ん♪」

男センセときたら、この環境下で編み物などしている。
よくこの大揺れの中で編み物などできるものだ。
京本政樹のままで編み物などしないでもらいたい。

「だって～ン。赤ちゃん生まれるまでにはねぇ♪完成させないとン♪」

はいはい。さいですか。

わたしの背中は、ムシズが運動会している。

　さ～～～第1ムシズ、走りました！
　あーーっと、第2ムシズ、追いついたか？追いついたか？
　おっと。第3ムシズも負けていないぞ！
　これはすごいデッドヒートだーーーー！
　
などという楽しいものであるわけもなく。

すでに会話はほとんど途絶えてしまった。
なにしろ「男」の話はできないし、「女」の話は盛り上がらない。

自然、会話は
「ラ、ラッコってかわいいですよね～～～」。
動物とかになってしまうのだが、
このシリーズも
「ハナナガバンディクートってかわいいですよね～～～」。
あたりまでいって途切れた。
ほとんど『猛獣狩り』だよ。こりゃ。
＜猛獣狩り＝「猛獣狩りに行こうよ」集団で行うアーバンゲーム＞

ボキャブラリーが尽き、とうとう話は、動物から怪獣へと推移。

「ジラースってかわいいですよね～～～」。

かわいくないけど。


＜えりまき恐竜ジラース=ウルトラマン第10話に登場。ごらんいただいてわかるように実はゴジラにえりまきをつけただけ。予算が少なかった円谷プロの苦肉の策だった。＞


これが失敗だった。
やがて会話はウルトラマンからマグマ大使へとスライドし、
マモル役の「江木利夫」から

「フォーリーブスでは誰がいいと思う♪」

で、

　第4ムシズがはるか後方から猛烈なダーーーッシュ！


＜フォーリーブス=ジャニーズの元祖アイドルグループ。1967年結成。ステージで初めてバック転をした＞


これ以上の会話は、つらいものがあったので

「センセ。それ貸して」。

「え？花ちゃんも編む？」

「うん。編む！」

もうこの際、なんだっていい。
時間さえ持てば。

と、始めたのはよかったのだが

　げろ～～～～～～～

「ほらぁ。言ったことじゃないんだからぁン♪」

お前のせいだ！


飛行機の小さな窓。やがて奇麗なコバルトの海の中に浮かぶ島々が見えて来た。

奄美諸島。

沖縄にかくれて忘れられがちだが、奄美も実は日本ではなかった。
本土に復帰したのは、昭和28年のクリスマス。
それまで、本土分離政策によって冷遇された奄美諸島では、米軍によって経済効果のもたらされた沖縄よりもはるかに悲惨で、飢餓まで発生したというからすさまじい。
このため、奄美の人々は、ハンガーストライキや小中学生たちによる血判状などで、ようやく自治を獲得したのだ。

江戸時代から、迫害に次ぐ迫害を受けてきた奄美は、苗字さえ一文字しか与えられなかった。
（元ちとせ、の「元」など）
本土での差別や迫害を受けた奄美の人たちは、勝手に2文字の苗字をつけた。金太郎の「鬼瓦」などは、自分たちで勝手につけたものだ。


鹿児島から1時間余り。乙女にそぐわぬゲロゲロのあげくに空港到着。


ひさしぶりに見るキンタが出迎えてくれた。

「キンタ・・・」。

と、わたしより先に、

「金太郎く～～～～～～ん♪」
「お義兄さ～～～～～～～～ん！」

こらこらこら！抱き合うな！

ここでとうとう第5ムシズが、猛烈な追い上げで

　
　げろ～～～～～～ん

「おや。花さん。飛行機酔いですか？」

背筋のレースは、第5ムシズの圧勝に終わった。



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