ぼくたちと駐在さんの700日戦争

スケ番お欄。

孝昭くんの姉でありながら、ずいぶんと長い事、僕たちには恐れられる存在でした。

が。

「なにニヤニヤ人のこと見てやがんだ？」

ま～～～～～お蝶夫人に比べて可愛いこと！

「じじじ、じっと見るんじゃねーーー！」

　ドスッ！

なんつったってみぞおちですよ、みぞおち。
みぞおちパンチがこれほどありがたいとは。
自分がすさまじいマゾヒストになっていくようで、少々不安ではありましたが。
でも、落ちても「男のマゾヒスト」で済みます。済みますってのもヘンですが。
お蝶夫人ではこうはいきません。マゾヒストのあげく、玉無しです。
生きてく希望がほとんどありません。

北女の文化祭に来ていたお欄さんと、偶然再会。
ここぞとばかりに「お蝶夫人」のことを探る僕です。

「で？お蝶夫人はどうして跡目継いだんです？」

「あ？花か？」

「ええ」。

「ああ。スケ番は実力社会だからな。強い上で人望なきゃいけねー」。

強いはわかるとして、人望ってのが・・・。

「でも去年まではグループにいらっしゃらなかったですよね？」

「あいつはもともと転校生だ。元は京都かどっかだな」。

転校生・・・。
北女は私立。理解できない話ではありません。

「たしか京都の和菓子屋の娘だが、息子夫婦、つまりは花の親が洋菓子に手ぇ出して勘当されたんだ」。

「勘当・・・ですか？いまどき？」

「どういう事情か知らねぇが、花は実家、つまり祖父母に育てられたらしいんだな。これが」。

「へぇ・・・・。そのことか・・・」。

「なんだ？お前、今度は花にも手ぇ出すつもりか？」

「な、なに言ってんですか！ありえませんって！」

「どうかなー。お前、今だから言えるけど、アタシにも惚れてたろ？」

「まさかぁ。めっそうもない」。

「いいんだぞ？ん？今なら白状しても。ん？」

「まさかぁ。めっそうもない」。

　ドスッ！

「そのへんで妥協するもんなんだよ！デリカシーねーなぁ。お前は」。

「ほ・・・。ほれてました・・・」。

「ほらみろ～～～。色目使いやがってたもんな～～～」。

「まさかぁ。めっそうもない」。

　ドスッ！

「い、色目・・・つかってました・・・・」。

なんという告白でしょう・・・。

　ドスッ！

「い、いまの一発は・・・な、なんでしょうか？」

「ん？今のは和美の分だ。あたしゃあいつに同情するよ」。

これまで色んな人たちと戦ったりしましたが、最も僕を殴っているのは間違いなく早苗さんです。


花ちゃんが、僕たちを本当に翻弄するのは、実はこの2ヶ月後。
大晦日を待たなくてはなりませんでした。

その間、お蝶夫人=花ちゃん　を知っているのは、今のところ僕だけ・・・。

と、思っていたのに。

実は違っていました。

ジェミーです。

ジェミーは、素顔の花ちゃんを瞬く間に見破ったのです。

しかもこの日。北女文化祭当日に！

「先輩～～～。北女の文化祭実行委員長、もう会いましたかぁ？」

「えっとー、前に会ったというか、会ってないっていうか・・・」。

会ってはいる。
急所を蹴られてもいる。

「さっき、楽屋に挨拶来たんですけど。今日はノーメイクでしたよ？お蝶夫人」。


　　おっ・・・・・・と・・・・・・・


さすがメイキャップアーティストの息子です。ジェミー！あなどりがたし！

「そ・・・それで？」

「えっと～～～。今日、和美先輩来てないじゃないですか」。

「うん」。

「それで。『サラダの国からきた娘』、歌わせてくんないかって」。

ええええええええ！

まずい！それはまずい！

「で？」

「もちろん～～～～～」

「ことわった？」

「ふたつ返事で引き受けました！」

やっぱし・・・・。

「ぜひお願いしますって！」

ぜひ・・・。

ジェミーだもんなぁ。お蝶夫人、人選がするどいっ！

「お前、それ井上にも話しちゃった？」

「えっと～～～、さすがにそれは～～～～」

ほっ・・・・。

「話しましたともさ！」

ジェミー・・・・・・(泣)

なにをうれしそうに・・・。

砂上の楼閣は、思いもよらぬところから崩れ始めたのでした。




a href="http://blog.with2.net/link.php?316154" target="_blank">人気ブログランキング｜ブログ村ランキング

　バースデーギャラリーへ→
　14章-第80話へ→

　▲14章後編-目次へ｜△14章前編-目次へ

関連記事

• 14章-第80話 インディアンサマーの奇跡(2)
• 14章-第79話 インディアンサマーの奇跡
• 14章-第78話 通りゃんせ(7)