ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「い、井上・・・」

みんなが呆然とするグレート井上くんを気遣って・・

「てめぇっ！ひとりいい思いしやがって！」
「なーに災難な顔してやがるっ！」
「いやなら代われ！ぼけぇっ！」

殴るわ蹴るわ。

性欲の前にはまったく無力な友情でした・・・。
今さらながら友達は選ばなくてはなりません。



花ちゃんがようやく「意識をもどした」のは、それから約1時間半後。

電車組は自分にも奇跡がおきないか？と待ちましたが、そんなうまいことがおきるはずもなく、「うらやましい」を連発しながらすでに帰宅。

「じゃぁ、あと頼んだぞ～～～」。

いや・・・あと頼むつっても・・・。

「んじゃ、姐御おねがいしま～～～す」。

「こらこら！お前らの姐御だろっ!?」

「だって～～～。あたいたち、お裁縫の実習が～～～～」。

うそつけぇっ！

スケ番グループまで半分帰宅。
なんて薄情なやつら・・・。

和美ちゃんも門限があるため先に帰ることになりましたが、

「またへんなふうになるんじゃないわよ？」

おどし？
へんなふうって？

グレート井上くんはというと

「じゃ・・・。今晩・・・。待ってるからな・・・」。

ゾンビのような表情のまま、やはり門限を気にして帰りました。




残されたのは、僕と店員でもある洋次。そして6人ほどの「お蝶夫人の手下」。

「う・・・・う～～～～～～ん・・・・・」。

花ちゃんがソファで横にされたまま、うごめきます。

お？おきるか？

「花ちゃん！はな・・・・」。

覗き込むと。

グレート井上くんとのキッスでとれた口紅の中に、小さな「本物の唇」が。

　う、うわ・・・ちっちゃい！

まるで桜の花びらみたいなかわいい唇。

どうやら花ちゃん。口紅でわざわざ唇を大きく描いているようです。

　なんで？
　なんで？

不思議いっぱいの少女、花ちゃんは

突如、ガバッとおきあがると

「あああああ！」

にぎやかな人だな・・・。

「あれ？」

キョロキョロしています。

「あ。おきた。花ちゃん。大丈夫？」

「んあ？てめーは・・・・」。

「てめーは、じゃないよ。たいへんだったんだよ？花・・・お蝶夫人」。

「たいへん？たいへんって・・・。あ！そうだ！あたしキッス・・・・・」。

指を唇にあてました。
どうやら記憶はあるようです。

が

「キッスうばわれたんだ～～～～～～！どうしよ～～～～～！」

大間違いしています。

「あ～～～～～ん！ファーストキッスが～～～～～～！」

「いや・・・お蝶夫人・・・。うばわれたんじゃないってば・・・」。

「だいじにだいじにとっといたのに～～～～～～～～！」

聞く耳ありません。

「うわ～～～～～～～～～～～～～ん！」

なんか。椅子にふせってしまいましたが。

なんて勝手なヤツ・・・・。

「だからぁ。お蝶夫人が井上からうばったの！無理矢理！」

「え？あたしが？」

「そっ！むーりーやーりー！ちゅう～～～～って！」

しかも、ぷは～～～～って！

「あ・・・。そう言えば、そんな記憶も・・・・」。

あ。ようやく我に返ったか？よかった。

と、思ったら

「ばかやろー！なら、なんで止めねーんだよっ！」

「はぁ？」

「おまえなー！乙女にとってはとっっても大事なんだぞ！ファーストキッス！」

「はぁ・・・乙女・・・」。

「それを・・・それを・・・あ～～～～～～～～～～～ん！」

「いや・・・花ちゃん・・・」。

すると残った手下どもも

「そうだ！なんで止めねーんだ！」
「姐御の大事な大事なファーストキッスだぞ？」
「お前、乙女心をなんだと思ってんだ！」

「え？い、いや・・・・」。

止められる状態じゃなかったと思うのですが

「あやまれ！」
「そうだ！あやまれ！」

「は？」

「姐御にあやまれよっ！」

「えええええええええ？」

なんで？なんで？

花ちゃん。僕をキッと睨むと

「あ～～～～～～～～～～～～～～ん！」

再び大泣き！

「真向かいにいながら止めなかった～～～～～～！」

「い・・・いや・・・」。

手下。
「ほら！さっさとあやまんねぇから！」
「とっととあやまっちまいな？」
「楽になるぞ！」

6人で責め立てます。

「え・・・・と・・・・」。

また花ちゃんのほうをチラリとのぞくと

「わ～～～～～～～～ん！18年もとっといたのに～～～～～～」

泣き出します。

「おらぁっ！」
「あやまんねーかっ！」

「あ・・・お蝶夫人・・・その・・・大事なファーストキッス・・・止めなくってごめんなさい・・・」。

なんで謝ってるんだろ？
僕が・・・。

「姐御～。しかたないっすよ。今回は犬に噛まれたとでも思って・・・・」。
「そそ。事故っすよ。事故！」

「ひっく・・・ひっく・・・そうね・・・ひくっ」。

なーにが犬に噛まれただ！
なーにが事故だ！

とは思いましたが、スケ番の手下がまだ僕を睨んでいるので

「そ・・・そうだねぇ・・・。じ、事故・・・かも」。

加害事故だけど。

なのに。
「うぅ・・・井上くんと結婚するしかないわ・・・・」。

こらこらこらこら！

「いやぁ。キッスくらいで・・・」。
と、僕が言うと

「キッスくらいぃぃぃいいいいいい？」

あ・・・、まずったか？

「乙女には命より重いものなのに～～～～～～～！」

「い、いや・・・」。

手下
「てめぇ！キッスくらいたぁ、どういう了見だぁ？」
「これだから男ってのは！」
「ったく身勝手だぜ！」

「キッスくらい・・・くらいって言った～～～～～～！わ～～～～ん！」

「えっと・・・。いや。花ちゃん。すいません」。

再び謝っている僕です。

しかし、それでもいっこうに泣き止まない花ちゃん。

「うぇっ・・・うぇっ・・・ひくっ」

女の泣き顔には、だいたいの男は弱いものです。
僕とて例外ではなく、こうやっているとまるで加害者に思えてくるから不思議。

が、僕が
「えっと・・・なんて言っていいかわかんないけど・・・」。

肩に手をかけようとすると

「てめぇ！気軽にさわんじゃねーっ！」

ここは正気なんだな？不思議だ。

「えっと・・・。どうしたら機嫌・・・直してくれるかな？」

「ん～～～～。文化祭、出てくれたら」。

「はぁ？それとこれとは別問題・・・」

「うわ～～～～～～～ん！男はいっつもこうなのよ～～～～～！」


て、手に負えない・・・。



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