ぼくたちと駐在さんの700日戦争

喰えと言われて喰えるものではありません。

なにしろ便器ヨーカン。
洗ったのはアライグマ。

「いやぁ～～～。僕らもう食べてきました～」。

「ん？そうか？なんかあやしいな。麻生、お前喰え！」

「ええええ？」

チャーリー。しぶしぶヨーカンに手をだすと、
まわりを残して中だけ食べ始めたものですから

「麻生。なんでまわり残す？」

「いやぁ。俺、ヨーカンの皮キライなんス」。

「んんんんんん？皮ぁ？」

あ・・・。ものすごくヤバい・・・。

しかもそこに
「いや～～～～。ご苦労さん、ご苦労さん」。

「あ！署長！」

生き証人登場。

「ん？そのヨーカン・・・？」。



「なにやってたの？間に合わなくなるわよ！」
僕と一緒に走っているのは和美ちゃん。

「ごめんごめん。駐在さんが解放してくれなくってさぁ」。

「当たり前じゃない！そんなもの食べさせて！で、結局みんな食べさせられたの？」

「ああ・・・、署長さん来てバラしたから」。

「バカね～～～～～！しばらくキッスは禁止!!」

「ええ？そう言うなよ」

「いやよ。そんな口！」

そんな口・・・。うう・・・。

しかし腹、だいじょうぶかな？あんなもん喰っちゃって・・・。


音楽室が僕たちの準備室です。

「あれ？チャーリーは？」
と、グレート井上くん。

「ああ。今、トイレで吐いてる。もうすぐ来ると思うよ」。

「今から顔塗って乾くか？」

「あ・・・そうだな。定着はむずかしいかも」。

おくれる事10分。

「あ～～～～、ひでーもん喰わされた」。

「おい！チャーリー、遅いよ！」

「そう言うなよ～～～。井上～～～～。すぐ塗るから」。

「いや、今から塗ったんじゃ汗で落ちるぞ？」

「そっかぁ・・・まずいなぁ・・・」。

一番困るのは洋次です。
僕は決断しました。

「いいよ。洋次。そのまんま出よう」。

「え？いいのか？だって規則で・・・」。

「どうせ最後の文化祭だ。なんとかするよ。それにさぁ・・・」。

「それに？」

「お前のギターは、やっぱりお前だよ。チャーリーじゃない。お前の腕なんだ」。

これを聴いて
「そうだそうだ。洋次、そのまんまいけ！」
「うん。いいよ。洋次」。
「賛成～～～～」。

メンバーも、チャーリーズエンジェルたちも、賛同しました。

「みんなぁ・・・・」。

洋次は。

自分の素顔で出れることがうれしそうでした。
それはそうです。
彼は誰にも負けないテクニックと、誰にも負けない自信と、そして誰にも負けない努力をしていました。

「うん！みんなが言うなら！」

「ああ。やろうぜ！」

僕はチャーリーに次の策を耳打ちしていました。
「な？」
「うんうん、わかった。それでいこう」。

しかしながら
「けど、なんもメイクなしだと、カミシモと合いませんよ～～？先輩」。

「ああ、そう言われてみれば・・・」。

ハデハデメタリックなカミシモが僕たちのコスチューム。
ノーメイクでは、バカみたいです。

「そいじゃぁ、せめてホッペに★でも描いておくか？」

ということになり、それぞれの顔に★マークが書き込まれました。

「うん！なかなか！」

「先輩がた、カッコイイ～～～～～！」
チャーリーズエンジェルにも好評です。

「和美は？どうする？」

「和美はいいよ。『サラダの国からきた娘』が★マークつけてたら出戻りだ」。

「あはははは。言えてるなぁ」。

「よし！行くぞ！みんなーーーー！」

「おお！」


体育館の横に出て、そのまま裏の入口へ。

と、入口前にたむろしている団体さん。

それは

「花ちゃん？」
と、北女スケ番グループ。

　ドスッ！

「・・・・お蝶夫人・・・」。

「へ～～～～。なかなかサマになってんじゃん？」

「ありがと。はな・・・お蝶夫人」。

するとお蝶夫人。

「あ！」

なにかに気づいたようでした。

それは

「あんたカッコイイ～～～～！モロあたしの好み！」

グレート井上くんでした。

「え？ああ」。

そっけなくかわすグレート井上くんでしたが、花ちゃんが必要以上にせまってきます。

「ネェネェ～～～。ウチのガッコの文化祭出ない？」

「僕ひとりじゃ決められないから。ごめん、もう本番なんだ。客席で観てくれる？」

グレート井上くんは、再びそっけなくかわすと、準備室へと入りました。

前のバンドの演奏が響く準備室。

「僕・・・早苗さんもそうなんだけど、ああいうの苦手なんだ」。

「へぇ。僕は平気だけどなぁ」。

「お前は、ほら。いろいろ免疫あるから。僕はどうも不良少女ってのはな・・・」。

優等生の妹、夕子ちゃんと普段接しているグレート井上くんには鼻持ちならないのでしょう。
わかるような気もします。

「あの子、そんな悪い子じゃないんだけどな。一度助けられてるし」。

「お前の好みがどうであろうと、僕は苦手なの！」

「ああ。うん。じゃ、北女の文化祭は断る？」

「そうだね。できればね」。

前のバンドの演奏が終わり、10分間の休憩。

僕たちは緞帳の降りたステージで準備に入ります。

「マイク！マイク足りない！放送部、あと1本追加して！」
「あ。ついでにバスドラに専用マイク入れてくれる？」
「はい！」

僕たちのバンドは、演奏形態が多用であったため、準備がたいへんです。

しかし、緞帳裏の独特の緊迫感は、僕たちをいやおうなく高揚させます。

和美ちゃんの出番は一番後なので、袖に隠れていました。

「ねぇ。和美。美奈子さん、来てるか見てきてくれる？」

すると和美ちゃんは、首を横にふりました。

「来てない・・・。さっき奥さんにも確認したの・・・」。

「そっか・・・・」。

　井上・・・。

そのとき、係から声がかかりました。

「緞帳あげまーーーーーす！準備いいですかーーーー？」

ブザーが鳴り。
会場のざわつきがなくなって、静寂が訪れます。

いよいよだ・・・。

「いくぞ？」
「ああ」「はい！」「うん！」

静かな舞台裏に、ジェミーのリズムをとるスティック音が響きました。




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