ぼくたちと駐在さんの700日戦争

グランドから中庭へと向かう最中

　落ち着け！落ち着け！

考えられる事態は・・・。

1.ケンちゃんが暴れている
2.ケンちゃんがものすごく暴れている
3.ケンちゃんがものごっつう暴れている

ちがう・・・アライグマ。アライグマ。

1.アライグマも暴れている
2.アライグマがものすごく暴れている
3.アライグマがものごっつう・・

だめだ、だめだ。ぜんぜん想像つかない。

それにしても腹がたつのがBJと五十嵐さん！
僕が走っているはるか後ろ、犬談義に花を咲かせて歩いて来ます。
誰が原因だと思ってんだ？


そして道路にたどり着いた時、さらに予測を不能とさせるものがやってきました。

そうです。この男！

　駐在さん。

と、

「メェ～～～～～～」

オセロ。

「駐在さん！なんでオセロつれてきてるんです!?」

「え？熊おびきよせようと思って」。

「え？ホントに熊のエサにするつもりだったの？」

「まさか。パトパトやられる前に俺が撃ち殺してやる！」

　あ。撃ちたいだけだ。この人。

「いや、アライグマって狸みたいなもんで、熊じゃないんですよ？」

「え～～～～？なんだってそんなややこしい名前つけるんだ！ママチャリぃ！」

いや。僕がつけたんじゃないんですけど・・・。

まぁいいや。この人相手にしてるとドリフになっちゃうから。
アライグマ、撃ち殺されたんではシャレになりません。

僕は森田くんに、全員を中庭集合をたのんで、校門をパスしてダイレクトに中庭へ。

「ケ、ケンちゃん！待って！」

「お？てめぇは？」

「ひさしぶりです」。

「ガチャピンの中にいた？」

「ちがいますって・・・」。

なんて覚えの悪い人だ・・・。

対してN定のセイジは、安堵した表情です。土下座のままですが。
見渡すと、うわ・・・20人くらい総土下座。
なんか壮観ではあるものの、

これ全部やっつけたの？ケンちゃん・・・すげ・・・。

「こ、この人たちは僕らのコンサートの応援に来ただけなんですよ」。

「ああん？いや、こいつらからんでくるからよ。たぶん甘いもんが足りねぇんだなと思って」。

「いえ。解放してください。ここ、学校ですよ？」

「ガチャピン、いくら俺だって学校くらいわかるわ」。

それ以前に僕が誰かわかってないのに・・・。

「しかし、ガチャピンに言われちゃしかたねぇ。てめーら、今日だけは勘弁してやる！」

胸をなでおろすN定の生徒たちですが、

「それどころか！これをもれなく差し上げちゃうぜ！」

出ました・・・。メルヘンポイントカード。

しかし、ケンちゃんの天下もここまででした。

「景気いいなぁ。ケン坊ぉ」。

天敵。駐在さんがやってきたのです。

「げ！じゅ、じゅんさ・・・！」

「学生脅してなにやってんだ？んあ？」

「い・・・。いえ。脅してるなんてとんでもないですよ？」

「じゃぁ、なんだって学生土下座してんだ、こら！」

「えっと～～～。こいつらは～～～・・・敬虔なイスラム教徒なんですよ！イスラム教徒！な？な？な？」

「なんだとぉお？」

「ほら！今、メッカのほう向いてお祈りしてるんですって。アラーの神様に」。

と言いつつセイジたちを睨みます。

「な？そうだよなぁああああ？」

＜イスラム教徒のお祈りは1日5回。どんな所にいても聖地(メッカ)を向いてお祈りする。旅先などでメッカの方向がわからないと困るので、メッカの方向を探知する装置まである＞

ビビったN定たちは

「あら～～～～～～～」「あら～～～～～～」「あら～～～～～～」

そのまま意味のわからないお祈り始めました・・・。

「駐在さんも、おねがいだからおさめてくださいよ・・・」。
もう泣きが入る僕です。

上下関係がくずれるとややこしいことこの上ありません。

と、上下関係と言えば

「あれ？そうだ。署長さん、来ませんでした？ケンちゃん」。

「はぁ？しょちょうって？俺はまだ来てないな」。

「いや・・・僕も初潮はまだですけど・・・」。

誰がこのシチュエーションで初潮をたずねる？

なのに

「あっはっは！おっくれてる～～～～～。おこちゃま～～～～」。

てめぇも来てないって言ったばっかだろ？
来なくていいよ。めんどくさいし。痛いらしいし。

「あの・・・アライグマは？」
「笑い熊？」

「えっとー。狸みたいな熊です」。

「狸？見なかったな」。

「ありがとうございます。とにかくその・・・N定・・・えっと、イスラム教徒さんたち、解放してくださいね！」

「おお！礼拝済めば解放すっからよ」。

「なんだと？ケン坊ぉぉおおおおおお！」
「駐在さん！」

僕は駐在さんの背中を押すと

「とにかく駐在さんはオセロ返して来てくださいよ！アライグマのエサにはなんないから」

「メェ～～～～」。

やぎ。

「ケン坊ーーー！おかしなことすんじゃねーぞ!?」

ようやく場がおさまったような、おさまらないような。

あとはアライグマです。

署長さんだけがアライグマの行き先を知っているはず。
というか、それにすがるしかありません。
すでにコンサートの時間は刻々とせまっていました。

中廊下を走っていた僕に

「ママチャリ！署長、いらっしゃったぞ？」
五十嵐さんとBJです。

「ほ、ほんとですか？助かった。熊は？」

「ああ。アライグマも・・・ただなぁ・・・」。

そこは男子トイレでした。

男子トイレ入口で、署長さんが
「おお。未来の大犯罪者！」

警察署長からこうまで言われれば光栄でさえありますが。
ずいぶんなご挨拶です。

「署長さん。あの。ようこそいらっしゃいました。ところでアライグマは・・・」。

署長さんは急に哀しい顔をされると

「そこだ」。

トイレの奥の方にアライグマ。

　うわ～～～。かわいい～～～。

「狸のやつ、差し入れからひとつやったら箱ごとうばってここに来たんだ」。

BJが
「おそらく水の臭いを関知したんでしょうね・・・」。

なるほど。

　ん？水？

　あ！そうだ！

僕は個室の扉をひとつ開けると

　ジャ～～～～～～～

トイレの水を流しました。

するとアライグマ。包みを持って個室へ走ります！

みるみるうちに手にもっていた箱からなにやら取り出して、器用に包みを剥き、洗い始めました。

　便器で。

「おおおおおお！」

しかし包みのものは、なんとモナカ！

署長さん。
「ああ・・・せっかくの差し入れのモナカが・・・溶けていく・・・」。

モナカ・・・。コンサートの差し入れにモナカ・・・。うれしくないけど。
気持ちはいただきました。
（アライグマに、モナカを洗わせると、まったく溶けてなくなってしまうが、それでも洗うのはやめず何度でも繰り返す）

とりあえず個室の扉を閉め、これでアライグマは逃げられなくなりました。
まだ水の流れの音がしています。

BJが、
「じゃ、僕が扉を開けますから。みなさんは出口固めてください」。

「わかりました！」「了解！」「モナカ！」

BJ、そっと扉に近づくと、そーっと開き始めました。

　まだなんか洗ってる・・・。便器で。

「つかまえろ！」

アライグマ捕獲に成功！

「やった！」

しかしモナカはすでに形はなくグジャグジャ。

署長さん。辛うじてアライグマが手にもっていたものを取り返すと

「おお！ヨーカンは無事だ！」

無事？便器で洗ったのに？

しかし、せっかくのお気持ちですので、
「署長さん。ありがとうございます」。
受け取る僕です。

「え？でもこれ、包み、剥いちゃってるし・・・かじられてるし・・・」。

「いえ。せっかく署長さんが持ってきてくださったのに、無駄にはできません」。

「そうか？でも便器で・・・」。

「お気持ちをいただきます」。

僕はアライグマのヨーカンをつまんで受け取りました。


やがてみんなが捜索からもどってきました。僕たちはそのまま家庭科室集合。

遅れて駐在さんもオセロを置いてもどってこられましたので、

「駐在さん～～。お疲れさまでした～。ヨーカン食べません？」

「お！ヨーカン？そりゃありがたいな！」

丁重に切って、皿にのせられたヨーカン。
みんなの笑顔がはじけています。

「ん！うまい！甘過ぎなくていいな！」

でしょうねぇ。

洗ってあるから。


「お前らも喰え！うまいぞ」

え？



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