ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「和美？」

「あ・・・・」。
ひさしぶりの電話に、和美ちゃんはとまどっているようにも感じました。

「怪我したの、大丈夫だった？」

「うん。だいじょぶ。あのさ・・・・」。

「なぁに？」

「和美ちゃん垂れ乳怖くない？」

って！母っ！

「なんで横から余計なこと言うんだよっ！」

「あははは～～～～」。

「あははじゃねぇよ！あっち行け！しっ、しっ！」

「お前母親に、そんなレッサーパンダみたいな扱いを・・・」。

「レッサーパンダなんてレアな動物飼ったことねーよっ！盗み聞きすんな！」

なんだってそう可愛いとこに走るかな。いい歳して。

「あいかわらず、面白いわね。お母様」。

「あ？はたで聞いてりゃそうだけどね」。

「で。なあに？」

「うん。和美の協力が必要なんだ」。

僕は和美ちゃんに作戦の詳細を話しました。

「井上くんを？騙すの？」

「そ。あいつ正直者だから。それしかないんだ」。

和美ちゃんは少し黙ってから

「知ってる？井上くん、お父様が倒れられたのよ？」

「え？ほんとに？」

あのグレート父さんが？

「そ、それで？」

「よくはわかんないけど。救急車で運ばれたって。知らなかったの？」

「うん。あいつ全然そんなこと言ってなかった・・・。で、大丈夫なの？」

「うん。命には別状ないって話。伯母さんが言ってた。うちの伯母さん看護婦だから」。

「そっか・・・。じゃ、お見舞い行かなきゃ。けどどうして黙ってたのかな・・・あいつ・・・」。

「みんなに心配かけたくなかったんじゃない？」

　そうかも知れない。
　けれどあまりに水臭い・・・。

「でも。それならなおさら成功させなくちゃいけない」。

教育委員会へも影響力を持つグレート父さんが倒れたとなれば、まさしく窮地です。
和美ちゃんも僕の申し出を承知しました。


受話器をおいたとたんに、西条くんから電話が入りました。

「映画館班はバッチリだぜ」。

「そうか。じゃ、チャーリーんとこで製本たのむ」。

連続して孝昭くん。
「クラスの協力者集めたぜ～」。
「何人？」

「今、10人つったとこかな」。
「じゅうぶんだ。西条班と合流してくれ」。

楢崎。
「チャーリーズエンジェル、突貫でやってもらってます！間に合いそうですよ」
「うん。いくらかかりそうだ？」

「だいじょぶ。オヤジのツテで材料ただで手にいれましたから～」。

よし！
あとは・・・駐在さんか・・・。


「な、なんだとぉ？遅刻許可願いを書け～～～？そんなことできるか！」

「昔、S○ファンのときは書いたくせに」。

「あれは、復讐だから当たり前だろー」。

当たり前じゃないと思いますが・・・。なにいばってるんでしょう？

「いえ。駐在さん、もしやってくれたら、顔、元にもどしてさしあげますよ？」

「え！この顔をか？そんな方法あるのか？」

「あります！」

「そりゃ助かる～。こないだも道たずねたババァは逃げるし、本署の集会じゃ笑いもんだし・・・」。

「でしょうねぇ・・・その顔じゃ・・・」。

「バカヤロー！てめーらのせーだ！」

交渉成立？


そしてグレート井上くんとの初対決の日がやってきました。

「遅刻班、おそいな～～～」。
「うん。井上、来ちゃうぞ」。
僕とチャーリーは、いらいらしながら、交差点に立っていました。

「なんだろうな？駐在さんも困る拾得物って・・・」。

「さぁ・・・なんか千葉に考えあったみたいだけど」。
「うん。ニコニコしてたな。千葉」。

この日、僕たちは井上くんを1時限目が始まる時間まで、足止めする必要がありました。
その最中に、校内工作班が準備を整える算段です。
しかし、時間にきっちりしたグレート井上くんは、遅刻などもってのほかで、この前の停学がなければ、ほぼ皆勤賞。
そこで拾得物を駐在所に届け、警察からの遅刻届をもらおう、ということにしたのです。

ようやく。

やって来ました！遅刻班！
千葉くんと久保くんです。

「え・・・千葉・・・拾得物って・・・・」。

「これ」。

「いや・・・これって・・・生き物じゃん・・・」。

「え？駐在困らせるんならこれくらいじゃないとな。久保んとこから借りてきた」。

「いや、そりゃ駐在さんも困るだろうけどさ・・・」。

その千葉くんが借りて来た拾得物が


　やぎ・・・・

「メェ～～～～～～～～～」

鳴くな！拾得物！

「なんでヤギなんだよっ！」

「いやぁ。お前の小学校んときの事件思い出して。それで思いついたんだ」。

「う・・・いやな思い出を・・・」

＜わからない人は、エスティマ日和『野良ヤギ』参照のこと＞

そこに井上くんが、ちょうど通りかかりました。

「井上！井上！」

「なんだ？お前らめずらしいな。こんなとこに集まって・・・」。

「それがさぁ。落とし物ひろっちゃって」。

「落とし物って？」

「この子ヤギ」。

「はぁ？」

「メェ～～～～～～～」。

「そんなもん、どこで拾ったんだ？」

「いや・・・。勝手についてきたんだよ。困っちゃっててさ」。

「ふうん。ごくろうさん」。

「メェ～～～～～～～」。

「それで井上。これ駐在所にでも届けてこうと思うんだけど、つきあってくれないか？」

「え？僕が？ああ。かまわないけど」。

「メェ～～～～～～～」。

「助かるよ。お前、ほら。サチコで動物扱いうまいし」。

「ドーベルマンとヤギじゃだいぶちがうぞ？」

「メェ～～～～～～～」。

どうでもいいけど、うるさい。拾得物！

かくして足止め作戦は成功。

が、驚いたのは駐在さんです。
「しゅ、拾得物って、このヤギか？」

「はい～～～～～～」。

「メェ～～～～～～～」。

「いや・・・こういうもんは駐在所持ってこられても・・・」。

「駐在さん！」
僕はきつい目つきで駐在さんに合図を送りました。

「あ～～～。まぁ、お前らも学校・・・行けない・・・もんな・・・。よ、よし！駐在所で預かろう！」

「助かります！」

駐在さん。僕の耳に口を寄せると
「ママチャリぃ！なんでヤギなんだ！バカヤロー！」
「まぁまぁ。午後にはひきとりますから・・・」。
「ぜったいだぞ！バカ！」

「じゃ、おねがいします・・・」。
と、グレート井上くんが言いかけたところで

「おっと。井上。拾得物届け書いてけ」。

「え？僕がですか？」

「おお。他のやつらの字じゃ読めん。お前、字うまかったろ？」

「まぁ・・・こいつらよりは」。

「学校へは届け出書いてやるから。さっさと書け」

「あ。助かります」。

やりいいいいいいい！
ここまで大成功！

と。思いきや。

「ああああああああ！大事な報告書！ヤギが！ヤギが喰ってるーーーーーーーー！」

「あ！やべ！」「止めろ！」

ヤギ。机の上にあったなんだかわからない書類を食べてます。
そらそうだ。ヤギだから。

僕たちも真っ青ですが、駐在さんはもっと真っ青。

「こ、こら！報告書食うな！あーーーーーーーー！」

おおあわてで書類をとりあげましたが

「て、徹夜で書いた報告書が・・・ああ・・・」。

すでに半分くらいがぐじゃぐじゃ・・・。

「あ～あ・・・」。と、僕たち。

「あーあ、じゃねぇっ！」

「メェ～～～～～～～」。

「ウメェじゃねぇっ！」





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