ぼくたちと駐在さんの700日戦争

家にもどると母は上機嫌でした。

「駐在さんにお礼言いにいったらね？」

「うん」。

「まだ歌舞伎ヅラのまんまなのよ～～～～。あははははは」。

あ。いやな予感。

「それで？」

「母ちゃん、また笑い倒しちゃったわ～～～～」。

「お、お礼は？」

「あ・・・。どうだったかしら？」

今さら我にかえられてもなー。遅いって。

「ごめんね・・・母ちゃん、歌舞伎づらに弱くって・・・」。

だからなにシリアスにふざけたこと言ってんだ？

　ああ・・・明日の登校が憂鬱だ。


予感はあたりました・・・。

翌日の駐在所前。

”麻生ーーーーー！こっち来い！ばかやろーーーーっ！”

「あ。チャーリー。あれ、お前の塗った塗料のことだぞ？」
「まいったなぁ～。そんなこと今さら言われても・・・。いいや。無視だ、無視」。

すると駐在所放送

”このミニチン野郎ーーーーーーーっ！”

信じられない・・・。公の放送でミニチン？

チャーリー。当然これに反応。
「な、なんだとーーーーー！駐在の野郎！」

「まぁまぁ。それくらい激怒してんだって。無視しろよ。チャーリー」。

「う・・・うぅ・・・・」。

が、

”麻生のチ○ポはコロボックル～～～～～～!"
な、なんという言い草！

”コロボックルチン○～～～～～～～～！"

「こらえろっ！チャーリー・・・」

しかし時すでに遅く、公の場でコロボックルチン○とまで言われたチャーリーは、全速力で駐在所へと向かったのでした。

僕もしょうがなく、駐在所へ自転車を向けました。
僕たちを守る為にした化粧。それをその守ったやつらのミスで落ちなくなり
なおかつ、その本人の母親に笑い倒されたわけですから。

「まったく・・・母ちゃんも母ちゃんだ・・・」。

が。

「来やがったなぁ？てめーら！」

出て来た駐在さんは

うっすらとジーンシモンズが残っていて、まー、その顔のおもしろいこと！
なんか悪い病気にでもかかっているかのような顔です。

けど、僕まで笑っちゃだめだ・・・僕まで。
そうだ。僕が母に代わって礼をしなくちゃ・・・。だから

「ばはははははははははははははははははははははは」

だめだ。おもしろいもんはおもしろい！

チャーリーは、自分が張本人だと言うのに、すでに地面に伏して、アスファルトをバンバン叩いています。

「あーーーー！おもろーーーーーーー！ひーひー」

「き、き、き、きっさまらーーーーーー！」
駐在さん、わなわなしてます。
当然と言えばあまりに当然。

「いや・・・あはははは。駐在さん、ひーひー、大丈夫ですって。あははははは。ぜんぜん、ぜんぜんわかりません」。

「うそつけっ！」

「あははははははは。もうだめだ～～～～～」。

僕とチャーリーは、すでに呼吸ができません。
これなら殴られたほうがまし、という苦しさ！
横隔膜は限界を超えていました。

「おぼえてろよ・・・。ママチャリぃ、麻生ぉぉぉ・・・」。

結局駐在さんは、笑い倒されるために、僕らを呼んだ結果となりました・・・。

僕とチャーリーは、おかげで授業も身が入らず（もともと入っていないのですが）、駐在さんのうっすらとしたジーンシモンズを思い出しては、吹き出していたのです。


アジト教室。

「楢崎～～～。なんだってお前、毎日毎日ここ来るんだよ？」

「え？なんで？ダメですか？西条先輩」

「ん～～～。ダメってことはないが、お前いるとしゃべりづらいだろ？」

「えーーーー。浪人仲間なのにそんな冷たいことを！」

「そりゃぁ・・・まぁ・・・・浪人仲間・・・だけどよ・・・」。

楢崎は、あの日から毎日毎日、僕たちのアジト教室通い。
僕たちとしては、まだまだ「柳の悪口」が言い足りなかったので、楢崎がいるのはフラストレーションが溜まってくわけで。

「とにかく来んな！1年生はもっとやることあるだろ？」

「ありませんっ」。

そんなにはっきりと・・・。
空しくないのか？楢崎。

ジェミーたち2年生はもっと困っています。
なにしろ後輩のようでいて、後輩ではないわけですから、

「僕らもやりづらいんですが～～～」。

「ええ？ジェミー先輩。そりゃねぇだろ？」

「その先輩ってのがまたやりづらいんですけど。楢崎後輩」。

「てめーだって後輩に敬語使ってんだろうがよー！ジェミー先輩！」

「ん～～～。ここでは敬語使うの慣れちゃってましたからねぇ・・・。楢崎後輩」。

「実質タメなんだからタメ口きけや！ジェミー先輩」。

「あー、そうなんですよね～。タメなんですよねー。楢崎後輩」。



「あ～～～～～！お前らの会話聞いてるとイライラするぅっ！」
孝昭くん。とうとう切れました。

ああ。これ以上はつきあっていられません。

「ジェミー、練習行くぞ？」

僕がジェミーを誘って、コミニュティセンターへと移動しようとした、ちょうどその時でした。

「楢崎くんいる？」

「あれ？ルミちゃん？」
他2名。で、チャーリーズエンジェルです。

「おお。ここは俺の部屋みたいなもんだからな」。

誰がお前の部屋って決めた？楢崎。

「どうした？」

「楢崎くん、知らないの？今日、柳くんが東京に・・・」。

「え？」

「東京に行っちゃうのよ？お別れ言わなくっていいの？」

僕たちは柳という名前に、一斉に眉をひそめましたが、1年生たちの会話を聴くぶんには、どうもそういう雰囲気はありません。

「どこ？」

「A駅！」。

「A駅・・・遠いな・・・」。

A駅は、特急の停まる最も近い駅でしたが、学校からは1時間近くもかかりました。

楢崎はいてもたってもいられないようで、
「というわけで、河野先輩。俺をA駅まで送ってください！」

「んな！な、なんで俺がお前を送るんだよっ！」

「え？だって自転車より速いから・・・」。

「そ、そりゃそうだけどよ・・・」。

しかしみんなが横やり。
「いや。河野のランサーなぁ・・・」
「ああ、自転車より遅いよな」。
「ドレミ真理ちゃんに負けるからな」。

「だから孝昭先輩、あれはドレミアグネスです～～～～」。
「あ。そうか。しまった。わりぃ」。

うーん。ドレミアグネスとドレミ真理ちゃんの性能差がわからない。
「わりぃ」ってあやまるほどのことなのか？

河野くんは、楢崎とそんなに親しくありませんので
「とにかく、お前を送るなんざ、まっぴら・・・」。

言いかけましたが

「先輩～～～。あたしたちもお願いできますかぁ？」
と、チャーリーズエンジェル。

「行くっ！」

ランサー発進！
そんなもんだ。



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