ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「あれ？井上は？」
僕はこっそりとたずねました。

「ん。井上はほら。今日停学とけたばっかだからよ。さすがにまずいだろ？」

「ああ。それもそうだな」。

「どうせ井上いてもなぁ。戦力としてはイマイチだしよ」。
と、孝昭くんは言いますが

　つまり。井上は今、動いてる。

僕はそう確信しました。
戦力として頼りにならなくとも、別働隊としてこれほど頼りになる人間はいません。

　だとすれば。井上を信じて時間をかせぐだけだ。
　けど、どうやって？
　暴力沙汰を起こさず、逃れる？
　至難の技だ・・・。

西条くん。
「ここはしゃぁねぇな・・・」。
と、ひとりごとのように言うと

「首謀者は俺だ。文句のあるやつはかかってこい」。
ひとりで前に出ました。

「西条！」

「さ・・・西条？」
さすがに有名人の西条くん。N定の連中も、うかつには手を出せません。

「俺が首謀者だよ。どうすんだ？ただし、俺に勝ちたきゃ10人以上で来なきゃだめだぜ？たとえ4年でもなぁ」。

楢崎。
「そ、そうだ！西条さんは、浪人してっから実はお前らと同じ歳なんだぞ！」

「ちがうっつってんのになぁ・・・」。
落胆する西条くん。
味方が意気消沈させてどうすんだ・・・。

N定がざわつきます。
「いや。西条なんて名前は出なかったぜ？そいつは確かにママチャリってゲロしたんだ」。

「俺がたのんだんだよ」。

「西条。よせ・・・」。
僕が止めますが

「え？事実は事実だろ？どうせ柳はそこまでゲロしてるさ」。

「へ。西条よー。仲間かばうのはいいが、俺らの仲間はこの数じゃきかないんだぜ？」
「そうだ。大人しくママチャリ出せ！」「てめーにゃ用はねぇ！」

「出せねぇな。俺らぁ仲間だからよ」。

　一触即発・・・。

　井上は・・・？

と、そこに。


「ちがう！ママチャリは首謀者じゃねぇ！」

「ああ？」

あれは？

「洋次じゃねぇか。てめーはすっこんでろ！」

洋次だ・・・。
来てくれたのか・・・。

「ママチャリは、俺が足抜けするの手伝っただけだ！夜桜つぶした首謀者じゃねぇ！」

「すっこんでろっつってんだろ？」
「おい。誰か洋次黙らせろ」。

定時制の群れから数人が洋次のほうへ走ります。

「洋次ぃ。落とし前ってのはつけなきゃなんねぇんだ。もうこいつらの仲間がゲロしたんだよ」。

「ちがう！ママチャリじゃねぇーつってるだろ!?」
洋次は4年生相手に一歩もひきません。

　洋次・・・。

「じゃぁ誰なんだ。言ってみろ！洋次ぃ！」

「そ、それは・・・・」。

洋次は言葉につまったかに思えました。

が。


　「俺だ」。


「え？」「はぁ？」「あれ？」

そこにグレート井上くんの姿。そしてすぐその横にチャーリー！
やはりグレート井上くんは動いていてくれたのです。

そして。チャーリーに連れられて来ている、その声の主は

「ちゅ・・・・・・」。

僕たちをギロリと睨みます。

「ど、土木作業員さん．．．」。
「ほんとだ。土木作業員さんっていうか・・・」。

「えっと・・・ジーンシモンズさんだ・・・」。
「そうだ。ジーンシモンズさん・・・」。
「ジーンさん。こんにちは・・・」。

なにを考えたか、土方姿にジーンシモンズ化粧の駐在さん！

「なんだぁ？あのヘンな野郎は？」
敵ながら無理もない疑問です。

「あいつ、あんときブルドーザー動かしてたやつじゃねぇのか？」
「あーーーー！あんときの土木作業員!?」
「なんで洋次と同じ化粧してるんだ？」

それは僕たちも同じ疑問。

ジーンシモンズさんが、一身に注目を浴びる中、グレート井上くんとチャーリーが僕たちの元へとやってきました。

「遅れてすまない」。
「いや。チャーリー。あれ、駐在さんだろ？なんだってあんなカッコさせてんだ？」

これに答えたのはグレート井上くんでした。
「ほら。駐在さん、昨日やつらをしょっぴいてるだろ？」

　あ。そうか。面われてるんだ？

「それで、警察官で行けば、僕たちばかりじゃなく、相手も全員退学なるぞって、駐在さんが・・・」。

なるほど・・・。それでか・・・。
警察官で来れば確かにその場はおさまりますが、実際はなんの解決にもなりません。
そればかりか、警察沙汰ともなれば、定時制の生徒もタダでは済みません。

「それで俺が急遽、バレない化粧をほどこしてやったんだ！」
と、チャーリーは得意満面！

うん。バレないけど。すごすぎないか？チューザイシモンズ。

だいたいにおいて

「似合わね～～～～～～～」。

味方からも酷評。


いや。ジーンシモンズだけではありませんでした。
その横にはポールスタンレーもいます。

「あの・・・ポールは誰？」

「マスター」。

「ええええええええええ？」

「けっこう気に入ってるみたいだったぞ」。

　ほんとかよ・・・。チャーリー。

確かに土木作業員のランニングシャツ姿にジーンの化粧の駐在さんよりは、革ジャンを着たポールスタンレーはだいぶ堂に入っています。

「あいつら、あったまおかしいんじゃねぇのか？」
N定の連中は、相手が昨日しょっぴいた警察官とも知らず、好き放題。

すると駐・・・ジーンシモンズさん。片手にあった瓶を口にあてると、ぐいぐいと口に含み始めました。
もう一方の手にはライター！

「あ！あれは・・・！」

そうです！ジーンシモンズお得意の

「おお・・・炎を吐くつもりだ！」
「すげ・・・」

敵も味方も、固唾を飲んで見守ります。

すると。

　ゴクッ！


「うめ～～～～～～～～～～！」

飲みこんでしまいました・・・。


「いやぁ。的場ぁ。やっぱうまいなぁ。XO」。

「ちゅ・・・。いや、ジーン。ブランデー無駄にしないでくださいよ。高いんだから」。

「なんか口に含んだら吹くのもったいなくなって」。

貧乏性だな～～～～～。ジーンシモンズ。


全員がずっこけたところに、つかつかとやってくる駐・・・ジーンシモンズさん。

敵が後ずさりします。
無理もありません。誰がどう見ても不気味な大人。

「俺が夜桜解体した超本人だ。お前らも族やってたんなら、スターダストぐらいは知ってるなぁ？え？」

「スターダスト・・・」。

伝説の暴走族「スターダスト」。今でこそ勢力が衰えたものの、走り仲間で知らない者はいません。

「夜桜ぁ、邪魔だったんだよ。文句あるなら受けてたつぞ？どうだ？タイマンはらねぇか？」

と、またブランデーを口に含むと、ライターを口によせて

「おお・・・・」。


　ゴクッ！

「うめ～～～～～～～！」

ただの飲んべえでした・・・。


「やっぱこんな高い酒吹けねーよ。的場ぁ」。

「だったら口にすんなよ・・・」。

マス・・・ポールスタンレーさん。当然の言い分。

「け！こんな酔っぱらいに負けてられっかよ！星屑ビビったとなっちゃぁ夜桜の名がすたるぜ！」
ひとりがズカズカと前に出て来ました。

ジーンさん。まったく動じず
「お？お前が代表か？言っとくが俺は西条より強いぞ？」

「へ！口ではなんとでも言えらー！」

敵には、怒りにまかせた勢いがあります。
それにつられて後ろのN定もいっせいに動き出してしまいました。
「そうだ！まとめてやっちまえ！」
「やれーーーーーー！」

と、そこに向かって

　ブオーーーーーーーーーーーーーー！

なんとマス・・・ポールが火を噴きました！
いえ。吹いたのではなく、手に持っているのは殺虫剤スプレー。
どうやらそれに火をつけたようです。さすが元族。やることがちがう！
足止めの方法をよく心得ています。

が、

「おわっ！あ、あっちーーーー！なにしやがんだ！的場ぁ！」

「あ？少しかかりました？総長」

「少しじゃねーよ！バカヤローーー！てめーと違って肌露出してんだよ！」

するとポールが
「めんどくさいからやっちゃいましょうよ！総長！」

「んあ？そんなことは職務上・・・」。

どうやらポール。昔の血が騒ぎ始めたようです。

「こういう輩は、一度のされないとわかんねぇから」。

ポールは僕たちのほうを向くと

「やれっ！警察は絶対来ないぞっ！」

「おおーーーーーーーーーーっ！」

そりゃそうだ。そこにいるもん。
チューザイシモンズ。


＜のどかにしてましたが障害のおかげでこっちも窮地(笑)。ランクリよろしく～＞

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