ぼくたちと駐在さんの700日戦争

 

  
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 第9回ぼくちゅーずデー:相性診断
 Q.ママチャリみたいな口先男は許せない

 YES  NO



第5話 チェイサー(2)


僕たちは駐在さんの側で自転車を降りました。

「ちゅ、駐在さん、大丈夫、です?」

「・・・・」

「す、すいません。まさか、こ、ころんじゃうとは・・・・」





駐在さん、0.5秒くらいでスックと起き上がると、今度は猛ダッシュ。

「お前らぁーーーーーー!」

さらに怒り爆発!!勝手に転んだくせに。

 げげげっ!

「に、にげろっ!」


僕たちも再び自転車に乗ると、大あわてで逃げ出しました。

「くっそ〜〜〜!フェイントかよっ!」

しかし、さすがこっちは自転車。タッチの差で走る駐在さんを引き離すと、いっきに下り坂へ。

「でも、なんか駐在、顔から血い出てなかったか?」

「ああ。なんかあそこの道路工事の看板かなにかにぶつけたらしい」

「・・・もどる?」

「馬鹿言え!今度は便所掃除ツアーになるぞ!」

「そーだそーだ。そのうちあだ名”便所”になっちゃうぞ。あれだけ臭いつけてると」

そんなに何人も『便所』なんて同じアダ名つかないと思いますが。

「まいったなーー」


僕たちは、そのまま近くにあった自転車屋に逃げ込みました。
自転車をかくすならやっぱり自転車、ってわけです。

びっくりしたのは自転車屋のご主人。

「な、なんだ!?お前たち、なんだって店の中まで自転車で・・・・」

「あ?自転車屋なんだから自転車で驚くなよっ!」と、孝昭くん。

「あ・・・あーすいません。なんかパンクしたみたいなんで診てくれませんか?」必死にフォローの僕。

「み、診るのはいいけど、なんだってお前たち、看板にかくれてんだ?」

「と、とにかく。パ、パンク。それからえっとチェーンも切れてるみたいだからそっちも!あとワックス洗車!」

「せ、洗車?」

「いーからさ!俺らお得意様だろ!?診てくれよっ!」
ここで自転車を買い続けている孝昭くん。強引です。

ブツブツ言いながらも、僕たちの自転車を調べる自転車屋のご主人。

「パンクなんかしてないぞ?」

「そ、それがしてんだよっ!さっき、マキビシふんづけたんだから」

どこに落ちてんだ。そんなもん。

「ま、まきびしって?」

「い、伊賀のやつらがまいたんだよっ!」
伊賀市の人が聞いたら激怒します。

勝手に店の奥に入って身を縮める僕たち。もうスリル満点です。

5分ほども身を潜めていたでしょうか。
どうやら駐在さんは追ってこないようでした。

「ふ~。まいったぜ~」

一安心。


「やっぱりどれもパンクなんかしてないぞ?」と、オヤジさん。

「そうでしたか。お手数おかけいたしました。ご主人」

「わ、ワックス洗車はいいのかい?」

「はぁ?>洗車なんてやってねーだろ?この店」
孝昭くん。自分で言っておきながら。


ようやく自転車屋さんを後にした僕たち。

「いやー。あんなに本気で追っかけてくるとはなー」
仕掛人チャーリー。

「うん。驚いた。2人乗りのときの比じゃないな」

「でも大丈夫かな。警察官、怪我させちゃったぞ。俺ら」

「うーーーん」

どんどん人生泥沼です。

「また公務執行妨害?」
「補助輪付けた自転車で走るのって”公務”か?」
「でも犯人追跡は”公務”だよねぇ。乗り物関係ないんじゃねぇ?」

「うーーーーん」

「え~。これ公務執行妨害とられたら、今度はさすがにただじゃすまないぞ。俺ら」

もう高校生というよりは犯罪常習者の会話です。
でもまぁ、いたずら盛りの年頃。きっと全国いたるところで同様の会話がなされていたはず。はず・・。

「ああ・・・この歳でリチャード・キンブル※かよ・・・!」

いやいや。リチャード・キンブル「殺人容疑」だから。自転車に補助輪つけたのとはだいぶ違うぞ。リチャードも怒るぞ。

「まったくとんでもねーおまわりが赴任してきたもんだな~」

「ほんとに・・・」

結局、自分たちの悪事は棚に上げ、赴任そのものに責任を求める僕たち。

駐在所に様子を見に行く、という意見も出ましたが、あのときの駐在さんの血だらけの形相を思い出すと、とてもそんな勇気出ません。
なにしろ花火泥棒・パトカー泥棒の直後ですから。思えば立派な犯罪集団。

僕たちは、結局その日はそのまま帰宅してしまったのでした。


翌日、僕たちは駐在さんの待ち伏せに備えるために、はてしなく遠回りをして登校しなくてはなりませんでした。
あまりに遠回りすぎて遅刻。
とは言え、こんなこといつまで続ければいいのでしょう?

そして。例の修学旅行説明会。「問題起こしたやつはつれていかない」発表です。
実際、昨年は1名が行けなかったらしき噂が、生徒の間では、まことしやかに伝えられていました(後からガセとわかるのですが)。

絶望か?修学旅行。ああ・・・・京都が遠ざかる・・・。補助輪付けて・・・。



※リチャード・キンブル 
 アメリカの大ヒットドラマ「逃亡者」の主人公。日本でも白黒テレビ時代大ヒットしました。
 奥さん殺しの濡れ衣をかけられ逃亡。真犯人を探す物語。現在NHK-BSで放送中です



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第6話 西条!武器をとれ!そして立て(1)


僕たちは、話し合いの末、とうとう駐在さんに「自首」しに行くことに決めました。
駐在さんの怪我も気になります。
分母が多いほうがいいってんで、まったく関連ないやつまで含めて結局12名。実行時の2倍の人数です。

今思えばありがたいことでしたね。まったくやってないのに「自首」につきあうっていうのも。
高校生ならではの友情です。
もっともその80%は駐在さんの奥さん見たさだったにも思えますが。
男子高校生ならではの友情です。

駐在所前で溜息をつく僕たち。

「た、たのもぉ~!」

道場やぶりか?

そして。駐在さんが憮然とした顔で僕たちの前に仁王立ち。

「あ。あの〜・・・」

「入れ」

「はい~・・・」

僕は椅子に座り、残りメンバーは立ったまま。なにしろ狭い駐在所に12名。あふれんばかりです。

ニコリ、ともしない駐在さん。

「これ、なんだと思う?」

額にあてられたガーゼと絆創膏を指差します。

「え、えっとー。こ、恋のおまじない?」

「あ、あーそうそう。ひ、額に好きな子の名前書いて絆創膏で2週間ふたしとくと恋がかなうってやつ!」
「そ、そう言えば、クラスの女子でおおはやりだー」


「ちがうわっ!!」

「・・・・ガラスに3度、こすりつける・・・・だったかな・・・・」

「これはなぁ。怪我したんだよなぁ。怪我。自転車でころんじゃってなー」

「そ、それは災難でしたね・・・・」

「うん。とんでもねー災難だった。なにしろ俺は・・・・」

「はぁ・・・」

「自転車、練習中なものでなぁ。うまく乗れねーんだよなぁ」

く、くそ。
どうにかこの状態を打開しないと・・・。

仮免許まではあるんだがな?」

「さ、さすが駐在さん・・・ですね」


「キサマら!あれが本当に窃盗犯とか追わなきゃいけなかったら、どうなってたと思うんだ!」

「は・・・はい・・・」

「だ、だから詫びに来てんだろ?」
「そうだそうだ」
「バカ駐在・・・」

極めて小声で反論する後ろのメンバーたち。

「んあ?なんだって?」

「いえ。だから、申し訳なかったなぁ・・・って。ところで、その・・・」

「なんだ?」

「あの・・・こ、これってもう学校に言っちゃいました?」

すっごく肝心な質問です。

「あ?なんでそんなこと聞く?めずらしいな。お前らが学校気にするなんて。普段好き放題ないがしろにしてるクセに」

「え、いえ。別に・・・・・・」

「ははーん。なにか学校に伝わると不都合なことがあるんだな?」

げ!薮に蛇です。

「うん。明日あたり言っちゃおうかなぁ〜とか思ってたが」

「ぐっ・・・」

ああ。修学旅行。風前の灯火。京都大原三千人(※京都には大原という名前の人が3000人いた、という栄枯衰勢の歌)。

「まぁ。君らの心がけ次第では言わないでやらないでもない」

「な、なんでしょう?」

「うん。パトカーがだいぶ汚れてきたしなー。今日、洗車しよっかなーって思ってたんだが・・・」

「あ!そ、それ!やります!なんか僕たち、すっごく車洗ってみたい気分だったんですよ~」

「そうか?そりゃ奇遇だなぁ」

「はい~。奇遇ですね~」

便所掃除にくらべりゃ軽いもんです。なにしろ今度は12名。

「それからうちのスターレットも、ここんとこワックスかけてなくてな・・・」

「あー。ワックスですね。はい。ワックス、かけます。かけます」

便所掃除にくらべりゃ軽いもんです。なにしろ今度は12名・・・。

「そうかぁ。悪いなぁ。君たち」

くそ~。調子にのりやがって。こんな警察官ありか?
みてろ!将来ブログにでも書いて全国に報告してやるっ!などとは、当然当時は思いませんでしたが。

「ついでにな」

「はいはい」

和菓子屋さんのカリーナも汚れてたなぁ・・ご主人、洗うひまもないほど忙しいって嘆いてたな」

「はぁ?」

「うん。それからほら。お前らが世話になった本屋さんな。あそこのセドリックも泥かぶったまんまだったな」

「ぇぇえええええ?」

という成り行きで、商店街の車、ほとんどを洗車することになった僕たち・・・。

便所掃除にくらべりゃ・・・。軽くねーじゃん!
気が遠くなりました。
が、修学旅行には代えられません。

「お、奥さんにはワックスかけなくていいですか?」
孝昭のバカです。

「んなっ!?たのむかっ!バカ野郎!

「そうそう。それは駐在さんが毎日かけてますよねっ!」
チャーリーのバカ・・・・。

「バカだなー。蝋燭とワックスはちょっと違うんだぞっ」
西条。さらにバカ。

「なっなななななな・・・・・!」


「キサマら!わかったらさっさとやれーーー!!」


というわけで、僕たちは3人ずつ4班に分かれて今度は洗車。

しかし、すでに西条くん。駐在さんとこのスターレットのドアを開け、なにかしています。

「ああ・・・・この助手席に奥さん・・・♥♥」
助手席のシートにすりすりしていました。
ひたすらにうれしそうです。

「あのなぁ、西条。それ女房の車だから助手席は俺が乗るんだ。もっぱら」

「あ”・・・・?」



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第7話 西条!武器をとれ!そして立て(2)

しかし、現在いい大人になってようやく気づくことですが、駐在さん。町内のどこの車がどれだけ汚れていたかまで把握されているとは、ほんとたいしたもんでした。当時はもちろん「ばかやろー」ってしか思いませんでしたが。


僕は、西条くん、チャーリーといっしょに和菓子屋さんを担当。

「おや、駐在さん。いつもご苦労さまです。どうしたんですか?今日は”家来”つれて」

よくよく「家来」に縁があります。僕たち・・・。

駐在さん、

「いやいや。ご主人、こないだ車洗う暇もないって嘆いてたでしょう?」

「あー。ええ・・・それが?」

「今日はコイツら‥、いえ、この子たちがですねぇ。町の掃除のかわりに、今度は洗車のボランティアしたいってんで」

勝手言いくさりやがって!でも修学旅行、修学旅行・・・。

「ええ?普段店の前掃除してくれるだけでもありがたいのに。町内で評判だぞ。君たち」

そらぁ評判でしょうよ。あれだけしょっちゅう町内掃除してりゃ。

「あの悪ガキたちがどうしたのかってね。なんかの”罰則”でも受けてんじゃないか、なんて冗談でね?」

うーん。ほんとに冗談なんでしょうか?どう考えてもわかられている気がするんですが。
吹き出す駐在さん。

「でもねー。駐在さん、せっかくなんですが、うちのカリーナね。昨日、あんまり汚れたんで洗車したばっかなんですわ」

「え?そうなんですか?」

やった!駐在。目論見ってのはそんなに当たるもんじゃねーんだよっ!

1台マイナスです。

が、

「あー。それより、店のデリカがね。汚れてるから、こっちやってもらっちゃってかまいませんかね?」

デ、デリカ?
あのでかい?
ワンボックス

事態悪化。1.5プラス・・・

「ああ。かまわんですよ。デリカだろうが”ふそう”だろうが」

くっそぉ~!
少しは遠慮しろよっ!和菓子屋!
だいたい和菓子運ぶのに、こんなデカい車いらねーだろ?


ちょうどこんな会話をしている最中、店からOLさんが出て来られました。

「ありがとうございました。それではよろしくおねがいします」
「こちらこそ」

営業まわりでしょうか。和菓子屋さんの奥さんとごく普通のビジネス的会話がかわされていました。

しかし。このOLさんこそが、神様の与えた「偶然」だったのです。


「じゃぁ、ママチャリ、西条、がんばれよ!」

駐在さんが西条くんの肩をたたきました。

「くそ~・・・・」

この時。
さきほどのOLさん風な女性が、この言葉に反応しました。

「さい・・・じょう?」

そして・・・

「さ、西条!西条くん?」

「え?」

振り向く西条くん。


「あ・・・・・・・・・」


西条くんの驚きは相当なものです。
しばらく言葉が後をつかないようでした。


「ゆ、ゆ、ゆき姉?ゆき姉か?」

「やっぱり・・・・。西条なのね!?」

「ゆきねえ!な、なんで・・・・・」

ゆき姉・・・。実在したんだ・・・・。
僕もかなり驚きました。
なぜなら、彼女「ゆき姉」については、西条くんから幾度か聴かされていたからです。

OLさんが西条くんの元へ駆け寄ります。
この話の中では、幾度か繰り返していますが、西条くんは、本当に「美人」に縁のある人物で、このかたも、かなり奇麗なかたでした。例によって、その理由はまったくわかりません。

「ゆき姉!会いたかったよ!」

「あたしも。ずっと会いたかった」

かなり感動の再会のようです。

そしてあの西条くんが!女性と抱擁!

当然ですが、ミカちゃん以外では初めて見ました。
僕も駐在さんもビックリです。


「ゆき姉。なんでここに?」

「うん。いろいろとあって、ここの銀行の支店に配属されたのよ」

「そっかぁ。ゆき姉、銀行つとめてたんだ~。8年・・・。いや9年ぶり?」

「そうね。それくらいになるかもね。おじさまとおばさまは元気?」

「あー。父は、一昨年・・亡くなりました・・・・」

今まで書いておりませんでしたが、西条くんのうちは母子家庭です。5章の西条くんの入院の場面で母親が登場しないのは、ほとんど見舞や世話に来れないほどに忙しかったからなのです。

「え?おじさまが・・・・?そうだったの・・・・・」

「うん。でも母ちゃんは元気。ゆき姉のこと知ったら、きっと喜ぶよ」

「うん、じゃぁ後でおうちにお邪魔するわ」



さて。ゆき姉については、次で詳しく書くとして、僕たちは、2時間ほどの時間を費やして、駐在さんの課題「大洗車」をこなしました。

駐在さん、
「いやー。お前ら、みんな喜んでたぞ!ご苦労だったな」

「いえいえ・・・」

ほんと、苦労しました。

「俺はこれから本署行かなきゃいけないからな。流れ解散でいいぞ」

とか言いながら、僕たちがピッカピッカに磨いたパトカーに上機嫌で乗り込む駐在さん。

くそ~。やられっぱなしか?

しかし、このとき、グレート井上くんが、後ろから僕に手渡したものがありました。

「これ・・・。本屋さんの洗車しててもらったんだ。いらないからって」
小声で耳打ちするグレート井上くん。

「ナイスだ。井上」

そしてパトカー出発の直前。

 パン。

「ん?なんだ今の音は?」

「あー。ワックスの拭き残しがあっただけです」

「そうか。じゃぁな。また洗車させてやるからなー。ご苦労さん!わははは」

駐在さんのパトカーは一路本署に向けて出発しました。

後ろに「初心者マーク」貼って。

そうです。グレート井上くんが手に入れて来たのは、車用の初心者マーク。
やっぱり仮免の後はこれですよね。

いやぁ。これも初めて見ました。初心者マーク貼ったパトカー。


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※これは後から駐在さんに教えられた(怒られた)のですが、初心者ではないものが初心者マークを貼るのは道交法違反になるそうです。お気をつけください



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第8話 西条!武器をとれ!そして立て(3)

重労働を終え、僕たちは、用事で帰った2人をのぞいて、コミニュティセンターのロビーにいました。

「そっか・・・・。ゆき姉に会ったのか」
ふれたのは孝昭くん。

「うん。そうなんだ・・・」

「誰?ゆき姉って?」

西条くんは、メンバーの中でも、ごく親しい数人にしか「ゆき姉」のことは話していないようでした。
残っていた者の大半がその名を知りませんでした。

「西条が強くなった元だよな」

「うん。まぁ、そう・・・かな・・・・」
答えづらそうに西条くん。

「小学校のときのさ。幼なじみって言うか・・・・」

「幼なじみで抱き合うのか?」

「え!西条、抱き合ったのか!?女の人と?」

「う、うーん。あれは感極まってと言うか・・・」

「くっそー!俺と夕子ちゃんより早く!」

「いや。孝昭、生涯ないぞ。それは」

この会話をきっかけに、話は突如小学校時代に流れました。

女性には絶対理解できないことと思いますが、違う小学校出身者が集まって「小学校時代」の話題になると、男子高校生の話というのは、なぜかある1日に向かっていきます。
ほんと、なんでなのかよくわからないのですが。これは「必ず」です。
まるで磁石に吸い付けられるかのように。

その1日とは・・

「ところでさぁ。5年のとき、女子だけ集められた日ってなかった?」
「え?うちは4年だったぞ」
「えー?6年だろ?」

はい。この日のことです。
そしてこれも必ず、突拍子もない理解をしているヤツがひとりはおりまして笑わせてくれるわけです。

「あれさー。女子に聴くとさー。なんか女子だけお茶飲んだんだ、とかなー」
「うんうん。テキトーに騙されてなー」

「え?お茶飲んだんじゃないの?」
はい。まずコイツです。

「えー!?お前、ずっとそう思ってたわけ?今日の今日まで?」

「え?え?違うのか?すっげーうらやんだんだけど・・・」

「バッカで〜〜〜。コイル」
ひとり血祭り。

「じゃ、じゃーなんなんだよっ!」

「え?本当に知らないわけ?」
「これだからお子チャマは困る」
「あれはなー・・・」

「うん」

「ブラジャーのサイズ計ってたんだぜ!」
はい。2人めです。

「中学入るとさ。ブラジャーしなくっちゃいけないわけだよ。それで計ってたんだよ」

「そうだったのかー。なるほどー。ブラジャーねー」

「バカ!ちがうって!ダマされんなよ。お前」

「え?だってうちのクラスじゃ、みんなそう言ってたぞ?」

「そりゃお前のクラス全員バカなんだよっ!」

「えーーーーーーーーー!?ちがったの?」

「じゃ、じゃぁなんだったわけ?なぁ。教えろよ!なぁ!」


「あれはさー。女子だけ映画見たんだよ」
「あ!うちの女子もそう言ってた!」

「な、なんの映画?」

「それがさ・・・・・」

「ウンウン・・・」







「”エマニエル夫人”らしい」





「お前が一番ちがうわ!ぼけっ!」


どこの小学校で、女子児童集めて『エマニエル夫人』ロードショーする!?

この答えはどうでもいいです。なぜなら、日本全国の男子は全員この会話を経験しているからです。
しかも勘違いの仕方もなぜか全国共通です。それぞれ答えを出されたことでしょう。
女子にとっては、本当にどうでもいい、しょーもない会話です。

現代の小学校で、この日があるのかどうかよくわかりません。お読みのかたでわかるかたがいらっしゃったら教えてください。
とにかく、男子にとっては、とっても思い出深い日であることに違いはありませんでした。運動会よりも、学芸会よりも。

さて。西条くんのゆき姉の話にもどります。

「俺さぁー、ちっちゃいときは体弱かったんだよな。父ちゃんでっかくて強かったのに」

「へぇー」「意外だな」

「それでな。親が心配してな。道場に通わせたんだ。道場つったって、ついででやってるようなとこなんだけどな」

そこの道場の師範は、損害保険の代理店をやるかたわら、余った時間でこども達に柔道と空手を教えていたのだそうです。

「けっこうすごい人でな。空手と柔道どっちもインターハイ出ててな。ソロバン合わせると10段越す、ってのが自慢だったんだよ」

ソロバンは武道じゃないと思いますが。
これでソロバン9段だったら笑っちゃいます。

「ゆき姉はな・・・。そこの娘さんだったんだよ。上に兄貴もいたんだけどな」

「ふぅーん・・・」

「ゆき姉が5年生のとき、俺が小学校入ったんだよ。道場にも」

小学1年生の西条少年は、今からは信じがたいほどに泣き虫で弱く、どちらかと言えば「いじめられっこ」に属していたのだそうです。

「それもさぁ。5年にはやなヤツがいたんだ。青柳ってヤツで、いっつも悪ガキであつまっちゃぁ下級生いじめてたんだよ」

「ああ、どこにでもいるよな。そういうヤツ」
孝昭くんです。
そもそもコイツが、そうだと思うのですけど。

「すぐ泣く俺は、いい標的でさ。しょっちゅうやられてたワケ」

「お前がねぇ・・・」

「そういう時にさ。いっつも守ってくれたんだ。ゆき姉」

「女に守られたわけ?めずらしいな」

「いや、それがな。ゆき姉はメチャクチャ強かったんだ。まぁ、もともとそういう家柄だしな。道場でもけっこういいとこいってた」

「ふぅん」「女で・・・」

「男子なんか6年も合わせてゆき姉にかなうやつはいなかったんだ。青柳もな」

「そっか。それで今日の再会ってこと?」

「いや・・・。そんな単純なことじゃないんだよ」


  さて。西条少年のお話。
  次の9話で単独特別編でお送りいたします。


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