ぼくたちと駐在さんの700日戦争

 

  
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「は、花火を~〜〜〜?」

「ぬ、盗めだぁ~〜〜〜?」


僕たちはいっせいに声を上げました。

「西条!お前、正気か?」

「ああ」

もっともコイツつに限って言えば、正気なときとそうでないときとの区別はつきにくいのですが。

「は、花火って・・・あのドカンっていうでかいやつ?店で売ってるやつじゃなくて?」

「ああ。店で売ってるヤツは買えるだろ?」

「ウソだろ?」

「たのむよ。お前らしか頼める相手がいないんだ」

「じょ、じょうだんじゃねぇぞ、俺ら犯罪だけはまだやってねーんだぞ!」
と、孝昭くん。

が、みんなが
「うん。お前の暴力事件を除いてな」
「うん。お前の軽犯罪法違反を除いてな」
「うん。それから道路交通法違反を除いてな」
「うん。それから公務執行妨害を除いてな」
「うん。それから迷惑条例違反を除いてな」
「うん。それからお前のわいせつ物陳列・・・」
「うん。それから郵便物・・・」

「も、もういいから・・・俺がまちがってました・・・はい。やってます。犯罪・・・」


「でも、西条。窃盗はやばいよ。それはできないぜ。さすがに」

「うん・・・よくわかってるって・・・わかってっけど・・・・・」



ぼくたちと駐在さんの700日戦争

5章『花火盗人(はなびぬすびと)』


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第1話 秘密兵器


今日も僕の自転車の後ろには西条くん。

まぁ、僕たちに限らず、電車通学のやつの半数は、自転車通学のやつの後ろに乗っかっていました。
が。それは去年までの話。

今年、あの駐在さんが赴任してからというもの、なかなかそうはいかなくなりました。
とにかく二人乗りにうるさいのです。駐在さん。

駐在所は、駅へつづく道の途中にありましたから、すぐに目撃、注意されてしまいます。

ただし、それは一般の善良な生徒たちの話であって、僕たちはちがいました。いえ、僕たちもとっても善光寺でしたが。
僕たちは、駐在さんが大声を出すけれど、その時はすでにそこを通り過ぎている、ということをよく知っていました。
ですから、どんな大声で怒鳴られても平気だったのです。

が、

とある日。その状況が一変しました。

例によって西条くんを乗せて駅へと向かう僕。と、その一味。

「どうする?西条。駐在所前は、降りる?」
「いや、俺はそういうコソコソしたのはキライだ!強行突破だ!」

「行け~~~~っ」

と、駐在所前を通過。

しかし。

「むぁて~~~~~!!!」

「あ、あれ?」

いつもは駐在所から出て怒鳴る駐在さんですが、なんとその日は後ろから自転車で追いかけて来たのです。

「え?え?え?」

後ろの西条くん
「逃げろっ!」

「いや、逃げろって言ったって、お前、こっちは二人乗りだぞ?」

それに駐在さんは「元陸上部」とかおっしゃってました。(『俺たちはカメ』参照)

「だいじょうぶだ!」
と、西条くん。なんの根拠があって?

「いいか。重力Gが一定のときは、物の重さにかかわらず速度は一定なんだ。だから逃げ切れる!」

馬鹿!それは「振り子の法則」だろうが!
習いたてだからって、難しいヘリクツこねてんじゃねーよ!しかもお前、乗ってるだけだろ?


振り子の法則が自転車にあてはまるわけもなく、僕たちはあえなく捕まりました(この日は2組4人)。

「ふっふっふっふ。お前らー。凝りもせずよくもよくもよくも毎日毎日毎日・・・」

怒りをおさえているのが見え見えの駐在さん。

「だがな。こっちにも秘密兵器があったんだよ」

秘密兵器ってこの自転車のことですか?」

「そうだ!名付けて自転車1号だ!」

名前つけてたのか・・・自転車に・・・。しかも「自転車1号」・・・まんまかよ。
だいたいにして秘密っていうほどのもんじゃありません。みんな知ってます。駐在所に自転車があること

「お前たち」

「はいはい」

「自転車には罰則がないから大丈夫だ、と思ってるだろう?」

「え?え?そ、そんなこと微塵も思ってませんけど・・・」
「そりゃぁもう、反省しっぱなしです。学校のプールより深く!」
が、図星でした。

「ずいぶんと浅いな。お前らの反省・・・」

「え、でも立つと顔うまっちゃうんですよ。プール」

なんの言い合いなんだか・・・。

僕たちのこうした「つまらないギャグ攻撃」には、すでに慣れてしまった駐在さん。
「だがな・・・。俺もいつまでもお前たちを野放しにするつもりはない」

「はぁ」

「普通、1回注意すれば、ほかのガキたちはおさまるもんだが・・・」

「・・・」

「お前らはちょっと違うようだから。罰則考えてきたんだよ」

「えーーーーーっ?」

警察官、それも駐在所が単独で罰則考えるって・・・。

「それでな。君たち、今日は町内の掃除」

「へ?」

「えーっと。聴こえなかったかな?」

「お前ら今日は町内の掃除!」

「えっと。聴こえたかな?」

「ええ。じゅうぶんに・・・・・・」

10分後、商店街の道路に、ほうきとチリトリを持った感心な高校生が4人。せっせと掃除をしておりました。

「あら。あなたたち。かんしんねぇ」

「はい~。街は奇麗にしませんと~」
と、道行くおばさんに笑顔で挨拶しつつ

「くっそ~。みてろ駐在~」



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第2話 秘密兵器(2)

翌日のこと。

西条くんがヘンなものを持って登校しました。いえ、『○Mファン』とかの類いではなく。

「おい。これを見ろ」

「なんだ?これ?」

それは金属でできた、奇妙なダイナモみたいなものでした。

「これはな。俺が小学校のとき、マノックから入手した万能型マッチって言うんだ」
マノック商会。これは当時、ほとんどの少年雑誌に掲載されていた怪しい通信販売です。
怪しいのですが、当時の少年たちにはとても魅力的に映る商品の数々が、それも切手で購入できるというので人気がありました。

西条くん。その不思議なマッチ(マッチには見えないのですが)で火をつけてみせると、
「これはどんな天候でも火をつけることができるんだ。これでな・・・・」
と、駐在さん攻略の作戦を話し始めたのでした。


「え~~~~」

彼の反撃作戦は、突拍子もないものでしたが、反面、彼ならではの面白さがありました。

「よし!やってみよう!駐在、泡喰うぞ」

さっそく速攻で準備にかかる僕たち。


1年坊のジェミー(丹下くん)を呼び出すと、

「いいか。この金でありったけのロケット花火買ってこい」
「え?なにするんですか?」
「んー。大花火大会だよ。大花火大会」
「えー。いいなぁ。僕もやりたいなー」

僕たちは顔を見合わせました。

「うん。いいぞ。お前も入れてやる」
「え!やったー!」

彼はメンバー1小柄だったので、自転車の後ろに乗せるにはたいへん好都合でした。

「じゃぁ、お前、在庫係な。さっさと買って来てくれ」
「わかりましたっ!」

残った僕たちは、10本のパイプを束ね、ロケット花火の発射台をつくりました。
南米の楽器「ケーナ」みたいな形。

そうです。これにロケット花火を一度に仕掛け、自転車で追撃してくる駐在さんに一気に砲撃しよう、という作戦でした。

題して「織田信長も真っ青」作戦。
これはわくわくしましたねー。西条くんにしては、かなり上出来なアイディアでした。
その頃はまだ、ロケット花火の危険性などなにも言われていなかった頃なので、僕たちはいろいろと使いまくっていたのです。


そして僕たちは、村山&千葉(4章で工藤先生の真似したやつ)コンビ、僕&西条コンビ、ジェミーくんを後ろに乗せるためグレート井上くんをひきずりこみ、3組に別れて自転車に分乗。
いざ駐在所前へと向かったのでした。

では例によって作戦を説明いたしましょう。

僕と西条くんの自転車の荷台には、一度に10発のロケット花火を打てるパイプ砲台が仕掛けてあります。これは当時のロケット花火が10本で1袋だったからです。
そしてグレート井上くんたちの自転車は、僕たちと並走してロケット花火を渡す係。これで、連続して何度でもロケット花火を打つことができるわけです。しかも10発ずつ!
村山組は初めに囮として走行。
駐在さんは、最初の二人乗り発見から追撃を開始するはずなので、こうすることで僕たち「砲台」と駐在さんの間を射程距離における、という、もう万全の作戦でした。


さぁ。作戦開始です。

「ジェミー、花火持ったな?」
「はい!もーバッチリです!けど、どこ行くんですか?」
「いいから。お前は俺らにロケット花火渡してくれればいいんだよ」
「わかりました!」

「あー。10本ずつな。袋から出して渡してくれ」
「え?10本ですね。らーじゃーです!先輩!」

村山くんたちが、猛烈なスピードで駐在所前を通りすぎると、駐在さんが飛び出して来ました。作戦通りです。
やがて僕たち4人が駐在所前を通り過ぎたその直後、

「またおまえらかー!」

昨日とまったく同じパターンで、駐在さんの自転車が追いかけて来ました。

「おまえらー、自転車2号をなめるなよぉ!」

いつの間にか2号になっちゃってます。駐在さんの秘密兵器。

が、後ろの西条くん。

 「お、おい、に、2号だってさ」
 「ああ」
 「せ、性能、アップしてるのかなぁ?

なにわけのわかんないとこでビビってんでしょう?こいつ。

だいたい、こっちだって今日は秘密兵器があります。

やがて僕たちは、村山組と別れ、2台並走のまま道路を左折。人通りのない通りへと移動しました。
なにしろロケット花火。どこへ飛んで行くかわかりません。まわりに迷惑をかけたら悪戯の騒ぎではありません。
でも、この道なら大丈夫。
道路が下り坂ではなくなるので、自転車を漕ぐ人間にはかなりきつくなりますが、まぁ、追いつかれることは「ありえない」と言っていいでしょう。
なんてったって秘密兵器!強烈です。

そして駐在さんが僕たちの20mほど後ろに迫って来たとき。
西条くんがセットされていたロケット花火の導火線に次から次へと火をつけました!

「ふぁいあー!!」

 ピューーーーーー
   ピューーーーーー
     ピューーーーーー
       ピューーーーーー
         ピューーーーーー


ロケット花火が次から次へと発射!
もう、駐在さんびっくり!

「う、うわぁ!」

あまりの驚きによろける駐在さん。効果は抜群だ!

「よし!ジェミー、次よこせ!」
「え?は、は、は、はい!」

ところが・・・

ジェミーが渡したものは、
「な、なんだよこれ!線香花火じゃん!ロケット花火よこせよ!」

「えっとぉ・・・。あとロケット花火はありません」

はあ?

「なんでだよ!ありったけ買ってこいって言ったろ!?」

「だって・・・先輩、大花火大会だって言うから・・・ロケット花火だけじゃつまんないじゃないですか・・・。それでいろいろと・・・」

「えーーーーーーーーーーーーっ!!!」

ドラゴンならいっぱいあります」

「ばかーーーーーーーーーーーっ!!!」




10分後、照りつける真夏の日差しのもと、前回よりはるかに広い範囲(町内ぜんぶ)を清掃する高校生4人の姿がありました。

「あらあら。毎日かんしんね~」

「はい~。街はきれいにしませんとね~」



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第3話 井上くんの恋(1)

ようやく炎天下の掃除を終えた僕たち。

「駐在さん、掃除。終わりました~」

なんで小学校の掃除当番みたいなことを、断りに行かなくてはならないのでしょう?
これで学級日誌持ってりゃ班長さんです。

が。僕たちを待ち受けていたものは意外なものでした。

「暑いなかご苦労だったな。中に麦茶いれといたから飲んでけ」

「え・・・・・?」

「どうした?喉かわいてないのか?」

この駐在さんの意外とも言える言葉に、僕たちはちょっと面食らいましたが、実際、喉はカラカラでした。

言われるまま駐在所に入ると、おそらく奥さんが入れてくれていたであろう人数分の麦茶がおいてありました。

「ところでなぁ、おまえら。あのロケット花火な」

「ええ・・・・」

「ありゃマジでおっかない。あれはやめとけ」

「はい・・・」

「条件反射で撃つとこだった」

「条件反射で・・・・あの・・・なにをでしょう?」

横にあるホルスターを指す駐在さん。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
さすがにビビる僕たちでした。


駐在さんはこれだけを伝えると外廻りへ行ってしまいました。
駐在所の中は僕たちだけ。田舎とは言え、まったくのどかなものです。

麦茶を飲み干しながら西条くん、
「うーん。これって”ナワとムチ”ってやつだよな」

「馬鹿。それを言うなら”アメとムチ”だろ?」

「そうか。そうも言うのか」

そうも言う、んじゃなくて、そう言うの!

「でもさぁ・・・・・・・・・」

 ん?

アメでどうやって責めるわけ?」

「いや・・・。責め具じゃないんだよ・・・。アメは」

説明している自分がイヤになります。



「うーん。アメかぁ・・・・。それもアリかな・・・・」
人の話聞けよっ!
西条くん。うなってますが、なにが「アリ」なんでしょう?

「ところでさ。コレって奥さんがいれたんだよな?」

「うん。そうなんじゃない?あの駐在さんが入れるとは思えない」

「うわぁ。コップ舐めちゃお!」
と、コップのまわりについた水滴をなめ出す西条くん。

コップ舐めるのはいいけど、舌をチロチロさせるな!舌を!
なに舌先尖らせてんだよっ!

と、そこに!

奥さんが、今日は入口から入って来られました。

ぱぁ~☆。.:*・゜

「おつかれさま~♡」

「あ!お、お、おくさん!」

「ウフフ。またつかまってるのね♡」

「はい~。ぼ、ぼくたち、今ちょうどナワとムチをいただいてたところなんです~」

ムチ、いただいてないって・・・・。どういう状態だ?

「ムチ?」

「あ。いえ、奥さん。ャいただいてました。ありがとうございます」
と、僕とグレート井上くんが必死にカバー。

「アラ?あのひと、麦茶なんか入れていったのね♡」

「え”!これ奥さんがいれじゃないんですか!?」
ひとしきりコップを舐めてしまった西条くん。しかも舌先尖らせて。

うーん。ナワとムチだな。西条。

「ところでアイス買って来たの。食べてって♡」

「わ~い!」

ほぼ小学生なみの僕たち。

当時、大きな交番はともかく、小さな駐在所などにはクーラーなどありませんでした。
窓も入口も開けっ放しで、時折、夏の風が風鈴を鳴らします。
現代よりも、はるかにゆっくりと時間が流れていました。

が、暑い、ということは、おのずと薄着になる、ということです。
今も昔も、高校生が血気盛んなことに変わりはなく、僕たちは奥さんの薄着が気になってしかたありません。
時折風がふくと、奥さんの袖ぐちが動き、白いブラジャーがちらちらと見えます。

「いい・・・風ですよね」

「ほんと。いい風ね」

実は僕たちの言うところの「いい風」と、奥さんの言っている「いい風」は、まったく意味が違っていることを、奥さんは知るすべもないのでした。



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第4話 井上くんの恋(2)

「ごちそうさまでした~」

僕たちが駐在所から出ると、外では、先発隊の村山くんと千葉くんが待っていました。

「たいへんだったな・・・」と、村山くん。

「いやいや。奥さんからアイスごちそうになったから。そこそこについてたよ」と、僕。

「そうそう。それに奥さん、薄着大サービスだったんだぜ!」と、西条くん。
いや・・・・。別に僕たちのために薄着でいてくれたわけでもなかったのですが。

ところが村山くんと千葉くん、

「奥さん?駐在の?」

不思議そうな顔をしました。

「そりゃおかしいな・・・」

「どうして?」

「だって。僕たち、スーパーで涼んでたんだけど、そこにずっといたぞ?駐在の奥さん」

「またまたぁー。お前ひがんでんだろう。俺らが薄着の奥さん見たからって」
アイスなどより、あくまでもそこに感謝しているらしい西条くんでした。

「いや。買い物してたよなぁ?千葉」「うん。間違いない。こっちも薄着だった」

「えー!こっちのが絶対薄着だぜ!」
西条。薄着競うなよ・・・人妻の・・・。

しかし、僕たちは全員が顔を見合わせました。
あんな美人が、そうそうそこいらに転がっているわけがありません。転がってたら拾っちゃいますから。
ちなみに4章からの新キャラ「千葉くん」は『俺たちは風』で「早稲田のボート部」を名乗った警察官の弟。
彼は、ギャグこそつまりませんでしたが、話には信頼のおける男でした。

 どういうことだろう?

 奥さんが2人?

「まだいるかな?その、奥さんのニセ物」
「ああ。いるかも知れないな。僕たち、まだ出て来たばかりだから」

そんな奇妙なことがあるのでしょうか?
僕たちは6人で徒党を組んでスーパーへ!

はたして・・・・

「げ!ほんとだ!奥さんだ!」

「な。間違いないだろ?」
「な、なんなんだあれ?」
「ふ、ふたごかな。そんな話きいたことないけど・・・」

なにしろ服装も髪型も同じ!
瞬間移動?

というわけで、とりあえず側で観察することに。
とは言え、当時のスーパーは大店法で厳しく規制されておりましたので、そんなに広くはありません。
はたからは、どんなに隠れたつもりでも、というか、隠れれば隠れるほど、かなり怪しい6人組でした。

ほどなく。西条くんと、グレート井上くんがほぼ同時に、

「いや。あれは奥さんじゃない」

「なんでわかる?」

これに対し西条くん、
「あのな。奥さんのブラはダブルルホックだったが、あの人のはトリプルホックだ。つまりあの女の人のほうが胸が大きい、ということだ」

 おおおおおおおお

ブラジャーの話とは言え、その洞察力に驚く僕たち。
しかしいつの間にそこまで確認していたのでしょう?

「西条、すごいな。そこまでいくと感心しちゃうよ」
「ふふふ。褒めるなよ。バカ」
褒めてないから。バカ。

「井上もブラで見分けたのか?」

「バカ言え!西条といっしょにするな!」

ごもっともな憤慨です。

「僕は・・・なんとなく。奥さんとは全然違うように見えるんだけど・・・」

「ふうーん」

「ちなみにな。妹の夕子ちゃんはシングルホックのAカップだ」
西条・・・・また余計なことを・・・・・・。

「お前!中学3年生のなに見てんだよっ!」
グレート井上くんとの静かな小競り合いが始まってしまったのでした。

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「ところで先輩~」

「なんだ?ジェミー」

「ダブルホックとか、トリプルホックとかってなんですかぁ?」

「馬鹿。お前はなんにも知らないんだな」
コイツに言われたくはありません。
だいたい僕たち男子高校生が知らなくても生涯まったく支障がありません。

「そこの一番奥を曲がると棚がある。そこにいっぱいブラジャーがあるから自分で見てこい!」

「西条・・・お前、売り場まで記憶してるわけ?」

「え?い、いや。ここ、よく母ちゃんと来るからさ!だ、だいたいの場所わかってんだよ!」

「ふぅ〜ん。じゃあ、トマトはどこだ?」

「トトトトトト、トマトマトマトマト?トマトはえっとーどこだったかなぁ・・たぶん、あっちのほうだ。あっちのほう!」
きわめてアバウト・・・。

「じゃぁ、タンポンは?」

「隣の通路の棚の2番目、一番下だ!上はナプキンになってる。右は夜用

「テメェーが知ってんのは、そんなんばっかじゃねーかっ!」

メチャクチャ目立つ尾行をしていた僕たちは、このしょーもない騒ぎによってさらに目立ち、奥さんらしき女性にもシッカリ目にとめられているのでした。


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