ぼくたちと駐在さんの700日戦争

 

  
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第4話 井上くんの恋(3)

やがてクローンな奥さんはレジを済ませ、店を出ました。
レジのおばさんとのにこやかな会話などを垣間みる限り、やはりどう見ても奥さんなのですが・・・。

さっそく僕たちも店を出て、彼女を尾行することにしました。
が、会話は、まださっきの「タンポン」をひきずっておりました。

「お前、なんでタンポンの場所なんか覚えているわけ?」

これに対し、西条くんの答え。
「んー。知識の泉?」
「役にたちそうにない泉だな」

「いやいや。役にたったことだってあるぞ!」
「いつだよ・・・」

「ほら!工藤のやつにさ。チョークの替わりにタンポン置いてあったことあったろ?」
「あー。工藤先生、激怒してたな」

「なにをかくそう、あれがオレ様だ」
ほほぉ。お前「様」だったわけですね?あのとき、みんなが呼び出された原因は・・・・。

「でも。あれ6本も余っちゃってさー。困ったんだよな」
「6本?ハンパだな?」
「ふっふっふっふっふ。これだからお子ちゃまは困る。あーいうのはな。使用回数分で入ってるんだよ」

 おおおおおおおお。

これには全員がうなりました。知識の泉だ・・・・。やっぱり役にたちそうにないけど。

「そうだ。井上、夕子ちゃんにやろうか?」
「いるかっ!」
「そうか?まだ使えるのになぁ」

「どこの兄がタンポンを妹にプレゼントするんだよっ!!」

「え?しないの?」

こいつは女きょうだいをなんだと思っているのでしょう?

「そっか。夕子ちゃん。ナプキン派なんだね!」
「そういう意味じゃねーよっ!」

「しかたないな。またアプリケーターで、近所のガキと遊ぶかな」

アプリケーター・・・。こいつさえいなければ、僕たちは一生縁のない単語なのに・・。
だいたい、ガキとアプリケーターで遊ぶって・・・・。いったい?

と、つまらぬことでもめているうちに、彼女との距離が少し離れました。

「いっそ声をかけて直接聴いてみたらどうかな」
ようやくまともな話し合いになったか、と思いきや

「え?タンポンかナプキンかを?」

「いや・・・。そろそろそこから離れようや。西条」

ほどなくして、女性はやはり駐在所へ。

「やっぱり奥さんのふたご?」
「うーん。だとすればすごいな」
「うん。世界にあれだけの美人がふたりいるってのがすごい」

と、僕たちが駐在所を覗き込んでいると

直後、ドタバタという音に続いて

「どこだ!?」

なんと駐在さん登場! もどってたのか。

さらに、奥さん、いえ、さっきの女性?

「なにかねー。後ろから、タンポンがどうしたとか、ブラジャーがどうしたとか言って追いかけて来たの!」

「よし!すぐ逮捕してやるからな。そういう変態野郎は!」

「5、6人いたわ。高校生みたいだったけど。すっごく気持ち悪いの!」

え?

会話の内容から察するに、それって僕たちのことなのでしょうか?

「よし!絶対とっつかまえてやる!」

やる気満々の駐在さん。

僕たちは、そろそろとその場を立ち去ろうとしました。

が、

「あ!そこの、あの子たちよ!」

やべ~。なにがやばいかもわかんないまま、とにかくやばそうに思えました。

「よーし。コラ!そこの高校・・・・・・・・、って、またお前ら?」

「お、おまわりさん。こんにちはぁ~・・・」「さ、さっきはごちそうさまでした・・・・」

駐在さんは、呆れて声が出ないようでした。

「え?知り合いなの?お義兄さん」

「ああ。この界隈で知らないやつはおらん。夕べ話した悪ガキグループだよ」


「あ!あの変態高校生一味って、この子たちなの?」


初対面で「変態一味」は、ずいぶんな言われようです。

この騒ぎを聞きつけて「本物の奥さん」も登場。フルメンバーです。

「あら・・・アナタたち・・・」

ここで僕たちは、初めて事情を説明しました。

「うふふふ。ビックリした?この子、妹なの。これでも3つ下なのよ?」

「へ───。それにしてもよく似ていらっしゃいますね」

「ほんとほんと。トリプルホックじゃなきゃわかんないとこでした」

「なに?トリプルホックって?」

「い、いえ。そうですかぁ。妹さんでしたかー」

「はじめまして。妹の美奈子です。姉夫婦がいつもお世話になっております」
ようやくまともな挨拶をいただけました。

が、駐在さん。
「バカ言え!世話やいてんのはこっちのほうだ!」


「なんだか知らんが尾行はいかんな。撃たれたいのか?お前ら!」

この程度で撃たれてたまるか。

奥さんのご紹介によりますと、美奈子さんは、東京の理学部に通う大学生さん。
ちょうど今、夏休みで、星の研究をするため姉夫婦のところを訪ねていらっしゃったのだそうです。
それにしても、本当にソックリです。

ここでグレート井上くん。美奈子さんに聴きました。
「あの・・・いつまでこちらにいらっしゃるんですか?」

「お盆まではコッチにいるつもり。ここ、大三角形がよく見えるの。東京じゃこうはいかないから」

「そうですか・・・。お盆まで・・・・」

彼のまなざしを見ていて、どうしてグレート井上くんだけが彼女を見分けられたかわかったような気がしました。

そうです。彼は美奈子さんに「恋」してしまったのです。

西条くんが言いました。

「ところで美奈子さん・・・」

「なぁに?」

「手首見せていただいてもよろしいですか?」

ああ・・・変態一味・・・。



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第6話 御利益(ごりやく)

翌日から、僕たちは、少なくとも駐在所前は2人乗りをしなくなりました。
なにしろ次は、町中掃除しなくてはならない可能性があったからです。

前回の町内掃除でさえ、炎天下かなりきつかったのに、さすがにそれは避けたい。
掃除コリゴリ。
そういう意味では、駐在さんの「懲罰」は、まったくもって的を射ておりました。
もちろん、そのまま負けを認めよう、などといったしおらしいことはまったくありませんでしたが。

そうまでして、駐在所前を通るのには理由があります。

そうです。グレート井上くんが奥さんの妹「美奈子さん」に一目会いたいがため。

彼はなにも言いませんでしたが、僕たちは、すでにそれを理解していました。


偶然的に、その日は前回のお掃除メンバーとまったく同じ面々で帰宅していた僕たち。

駐在所前を過ぎて、商店街が終わったところに神社があります。

神社の鳥居の前で、神主さんと話をしている女性がおられました。
どこかで見たことのある人です。

「あ!ほら!今、話したお兄ちゃんたちだよ!」
「ほほお」と、神主さん。

兄ちゃん、って僕たちのことでしょうか?

「お兄ちゃんたち、こっちこっち!こっち来て!」

「え?」「僕たちですか?」

わけもわからず、おそるおそる近寄る僕たち6人。

女性(といっても、かなり年配なかたでしたが)が、神主さんに言いました。

「このお兄ちゃんたちねぇ。偉いんだよ〜。毎日町内掃除してくれて」

「え?」「あ?」

そうか!掃除させられてたとき、声かけてきたオバさんだぁ。

「ほんとにねぇ。今時の若い人にはめずらしいよ。そこの高校かい?」

「え、ええ。そうですけど・・・・」

とにかくエライエライを連発。褒めちぎるオバさん。
悪い気はしません。

「いやいや。まぁ、市民として当然のことをしてるだけですよぉ。僕たちぃ。なぁ?」
西条くんも有頂天です。なにしろ褒められ馴れていませんから。よほどうれしいのでしょう。
まさか「自転車2人乗りの罰」などと言い出せるわけもありません。

「そうかい?偉いねぇ。それでね、アンタたちに相談なんだけど」

「はい?」

「神主さんがね。もうお年を召しちゃってるんで、その上でこの暑さでしょ?境内と特に階段の掃除がたいへんなんだって!」

「あ?」

「それで今ちょうどアンタたちのこと話したとこだったんだよ」

ええ!?

「それでねぇ。今日はここの神社掃除してもらえないかねぇ?アンタたち」

そこは「心臓破りの階段」と言われる150段を超える階段がありました。
じょ、冗談じゃありません!

「お祭りも近いしねぇ。やっぱり清めておきたいでしょ?市民としては」

「い、いや・・・・」

ところが
「すみませんねぇ・・。ありがとうございますぅ・・・わたしもねぇ・・・しんのぞうが弱いもので・・・」
見るからに丈夫そうな神主さんが、弱々しく「御礼」を言ってしまいました。

当のオバさんは、
「じゃ。がんばってね!ほんっと、今時の若い人にはめずらしいよ。ごリヤクあるよ。きっと!」

加えて
「あ。そうだ!和尚さんにも紹介しなくっちゃね!」

 この無宗教ババァがぁ!



2時間後、

「神社ってこんなに広かったか?」
「なんで・・・僕たち、こんなことやってるわけ?」
「3日連続はきついよなぁ・・・」


「先輩が・・・花火大会だなんて言うから・・・」
これはジェミー。
「お!お前そこまでもどるのか!?ドラゴンばっか買って来たのお前だろうが!」

「だって・・・ドラゴン安くて奇麗なんだもん」

「しかし、ほんっと広いな、ここ。球場みたいの広さだぞ、こりゃ」

確かに。僕たちは、すでにずいぶんと長いこと掃除を続けていました。

「でもさ。ここ神社だろ?儲かってるからな。なんか礼くれるかも」
「あ!それは言えてる!」
「そこの賽銭箱のお金、好きなように分けていいよ、とかな」
うん。それは絶対にないけど。
しかし、全員が全員、横しまな期待があったことは確かです。
なにしろ、この労働量。ハンパじゃありません。

と、そこへ神主さんが「元気そうに」かけてまいりました。
しんのぞうが弱いのに全力疾走していいのか?

「おーい君たち~!」

「はいはい」

「言い忘れてたんだけどねー」

「そこ、隣の人の土地だから」


言い忘れるなよっ!


僕たちは、150段にものぼる階段を掃除したあげく、まったく縁もゆかりもごりやくもない人の土地まで掃除していたのでした。


すでに僕たちはヘトヘトで、喉もカラカラでした。

「そうだそうだ。君たち」
神主さんが言いました。

やった!全員が期待に目を輝かせました。

「今日はありがとう。これ、御礼と言っちゃなんだけど。みんなで分けて持ってって」

と、人数分を渡したのは・・・


 お守り!?


僕たちの落胆は、もはや文章では言い表わせません。


帰り道。

「ご利益、あるといいけど」
「捨てるに捨てられないしなぁ」

「だいたい、あそこの神社さぁ犬の・・・」

   ん?

お守りをよく見ると



  安産


ごりやく・・・。あるようだとすっごく困るんですけど。僕たち・・・。

神様。僕たちは、いっつも悪いことばかりしている本当に悪い子です。
どうかごりやくがございませんように・・・。



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第7話 ドラゴン大会(1)
dragon.jpg

あの神主、お正月の余り物くれやがったな?

しかし。「お守り」の御利益か、少なくともグレート井上くんにはまさしく神様のお恵みがありました。いえ、安産じゃなくって。

それは神社の掃除も終えて、心臓破りの階段を降りていた時のことです。
すでにあたりは暗くなりはじめ、神社の杉木立からはヒグラシの声。

下から、階段を上って来る女性の姿が見えました。

それがなんと!

駐在さんの奥さんの妹さん、つまり美奈子さん!

「あっ!」

「あれ?君たちは昨日の・・・」

「こんにちは~美奈子さん♪」

「変態高校生一味!」

「ちがいますよ・・・・」

掃除の疲れがどっと吹き出す僕たち。

「なにかしてるの?神社

えっと。聞き方、おかしくないですか?
普通「神社」でしょう。
なんなんでしょうか。「神社」って。

「だって君たち、毎日どっかで悪さしてるって、義兄が・・・・」

駐在~!

「ち、違いますよ。今日はボランティアで掃除してきたんですよ。神社

「ふーん。えーっと、それで、それはなんの罰なの?」

この方、どうもよくわかっていない、と言うか、よくわかっていると言うか・・・。


「それより、美奈子さんこそなにしてるんです?こんな夕暮れ時に」
 ♪よびだしたりしてごめんごめん (← わかる方だけわかっていただければけっこうです)

「デートですかぁ?」
西条くんの質問に、うつむいてしまったのはグレート井上くん。

そうです。当時、田舎のデートスポットや待ち合わせ場所としては、けっこうポピュラーな場所でした。神社。

即座に西条くんに対しローキックをくらわす村山くん。

美奈子さん、
「ウフフ。ちがうわよ。こっちに知り合いなんかいないもの。星がよく見えるところを探しているの」
抱えた大きな望遠鏡を指差して言いました。

「あ。そうだ!君たち、どっか星がよく見える場所知らない?」

「あ!俺の部屋、それも布団の上からとってもよく見えます!
と言う西条くんに、激しくエルボーをくらわす村山くん。

「そうですね~。このあたりだったら姫沼あたりがいいと思いますよ」

「姫沼?」

姫沼は、僕と西条くんが駐在さんに置き去りにされかけた、例の「森のくまさん」の沼。
ほとりには広場があり、街の光が遮断される姫沼は、星の観測にはまさに格好の場所でした。
が、なにより、姫沼はグレート井上くんの家が通り道にあったのです。

「そこ、星よく見えるの?」

「ええ。よく見えるなんてもんじゃありません。M78星雲で暮らすウルトラマン一家が肉眼で確認できるんですよ」
「うん。こないだピクニック行ってるのが見えたよな。ウルトラマン一家が」
「そうそう。ウルトラの母が5mくらいあるオニギリ持ってきてた」
「タロウがおいしいおいしいって食べてました」

「ウフフ。声まで聴こえるの?アナタたちってホント面白いのね。姉の言う通りだわ」

「コイツの家、近いから、井上に案内してもらうといいですよ」

「じゃぁ、お言葉に甘えようかしら?」

おお!うまくいった!

「ええ。でも、夜は危ないから、こいつについてってもらうといいですよ。なぁ。井上、いいだろう?」

「え、ええ、もちろん」

「そうです、そうです。危ないから俺もついてきますよ!」
と、余計な茶々を入れる西条くんに、村山くんがアックスボンバーをくらわせながら
「西条、今日、電車、6時が終電なんだってさ。乗り遅れるとたいへんだぞ」

どうやら村山くんも、親友井上くんの「恋心」に気を使っているようです。
しかし、終電6時って、どういう過疎村でしょう?

村山くんの配慮にようやく気づいた西条くんも
「あ。そうだ。俺、そう言えば母ちゃんが重い病に倒れたんだった。帰らなくちゃ」
そりゃ初耳。ですが、この友情にはちょっと胸をうたれました。正直なところ。

が、グレート井上くん、
「うん、でもやっぱり一人じゃぶっそうだから、誰かほかにもつきあってくれよ」

「そうか・・・・。それも言えているな」

姫沼は、その広場と隣の市に近いという立地から、週末ごとに不良がたむろすという噂がありました。
そして今日はその週末。

「じゃぁ、やっぱり西条か孝昭にでも来てもらえば安全かな?」
別な意味で安全じゃないようにも思いますが・・・。

「西条君ってそんなに強いの?」

「強いなんてもんじゃないすよ。こないだなんかキングギドラと渡り合ったくらいですから」と、千葉くん。

当の西条くん、
「ああ、でも、アイツ、首3つもあるんで口喧嘩は強かったな。3つの悪口、同時に言えるんだぜ」

ここでも「ぷっ」と吹き出す美奈子さん。

 か、か、か、かわゆい♪

お姉さん(駐在さんの奥さん)より上かも?

「でも、やっぱり悪いわ・・・。」

「いいえー。僕たち、明日は休みですし。夜遊びは僕たちの課外活動のひとつですから」
「あ!そうだ。こないだ間違って買った花火あるからさ。みんなで姫沼に集まるってのはどうだ?」
そうです。ジェミーが間違えて買ってしまった花火が手つかずで残っています。
「ナイスアイディア!みんな呼ぼう!そうすりゃ安全だし」

「どうです?美奈子さんは」

「ウン。楽しそう♪ うれしいわ」


「花火、いっぱいあるんだろ?ジェミー」

「ええ。あります!線香花火が20本と〜。あとドラゴン40個

なんだそりゃっ?

「だって。ドラゴン好きなんですもん」

みんな・・・・・来るかなぁ・・・・・・。



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第8話 ドラゴン大会(2)

「よーし!じゃぁ、次、ドラゴン、いきま~す♪」
大張り切りのジェミー。

dragon.jpg
「次はお待ちかね!ドラゴンですっ♪」

「さぁ!次はすごいですよ~! ドラゴンでーす♪」

「はい!奇麗でしたね!では次はなんだと思いますか~?みなさん!」


「・・・ドラゴン・・・・・・」

「大当たり!ドラゴンでしたー♪」

「・・・・・」「・・・・・」「・・・・・」「・・・・・」
「・・・・・」「・・・・・」「・・・・・」「・・・・・」

「おい。花火大会って言って呼んどいて、なんでドラゴンばっかなんだよっ」
後から呼ばれた孝昭くんたちは、不満たらたら。呼んだ僕に文句を言います。

「うん・・・深い事情があるんだよ・・・」

これに対してジェミー猛反発。

「えーっ!先輩の言う通りにしてたら、これ全部ロケット花火だったんですよっ」

「だからぁ、ロケット花火は目的があったんだよっ!」

「あんな汚いの花火じゃありません!」

「・・・・・・・」

ひととおり言うと、またジェミーが盛り上がります。

「さぁ!じゃぁ次のドラゴンは、どんなドラゴンかなぁ?」

「・・・おんなじだと思いま~す・・・」と、僕たち。

「違います!」

「お?なにか芸あるのか?」

「次はふたつ一緒ドラゴンでーす」

「はぁ・・・・」

結局ドラゴンかよ・・・。まぁ、それしか買ってないっていうんだから、それしかないわけなんですが。

ますますハイテンションなジェミーに、
「なぁ。あと何個あるわけ?ドラゴン・・・」

「大丈夫です!イッパイあります!」

「いや、大丈夫か聴いているんじゃなくって。いくつ残っているわけ?」

「うーん。あと50個くらいですかね〜。だいぶやりましたから」

「え?お前全部で40個って言ってなかったか?」

「やだなぁ。先輩。僕のポケットマネーで買い足してきたんですよ~」

「え!ドラゴンを?」

「もちろんです。だって足りなくなっちゃったら困るから
誰も困りませんけど・・・。

「お前、ほかの花火をとりそろえようとか、まったく思わなかったわけ?」

「え?あたりまえでしょ?」

なにが「あたりまえ」なのでしょう?
これだけ同じ花火が続くとすでに拷問です。

僕たちのドラゴン大会(すでに花火大会ではない)会場のはるか向こう側で、星の観測をする美奈子さんと、そしてそれにつきそうグレート井上くんの姿がありました。

 まぁ。とりあえず向こうがうまくいってればいいかぁ。

結局、後から来た者を含めて、姫沼には14名のメンバーが集まりました。
口実は「花火大会をやるから来い」です。
もちろん「駐在さんの奥さんの妹がいるから来い」と言えば、まずまちがいなく全員が集まったのでしょうが、そうするとグレート井上くんを優先する、などということはまったくもって不可能になってしまうので「女性」はなるべく伏せておりました。

むろん、到着したメンバーは、美奈子さんにビックリ!
だって、あの憧れの奥さんが、若くて独身になっているわけなのですから、それはたまりません。

それでも西条くんと孝昭くんさえ制止できれば、他の面々が暴走するようなことはないので、この人数は悪くありませんでした。

しかし。この花火大会はもっとビックリでした。
だって、始めてからずーーーーーーーーーーっと、ドラゴンだけ

みなさんはご経験ありますでしょうか?ずっと同じ花火が続く苦痛。
たまに混じる線香花火が、まるで宝石のように美しく見えました。

いいかげんドラゴンに飽きた僕たちは、ヒソヒソとグレート井上くんのことを話していました。

「しかし驚きだな。あの井上がねぇ。奥さんにはさほど興味なさそうだったのにね」

まぁ「奥さん」に興味があるっていうコイツらも困りものではあるのですが・・・・。

「いや。確かによく見ると違うんだよね。なんか奥さんより活発さがあるっていうかさ」

「ふうん。そこにまいっちゃったのかな」

「どうやら。ほとんど一目惚れだったんだよ」

「それでも俺らより2つも上だろ?」

「女子大生だからね」

「井上ってサ。妹の夕子ちゃんがめちゃくちゃカワイイだろ?年下はダメなんだよな。きっと」

孝昭くんにしては、たいへん核心をついた分析でした。

「そりゃさすがの井上君でも実らんだろう?」

そんなこと、グレート井上くんも百も承知に違いありませんでした。
でも、今までもメンバーの「恋」にはいつもみんなが協力しました。そこには「たいていフラれる」という安堵感があったからなのですが。

「先輩!」

この花火を無視したひそひそ話に、ジェミーが激怒。

「先輩、僕にばっかりやらせて、花火見てないでしょ!」
「え?んー。大丈夫。もう暗記したから。ドラゴン

「よーし。先輩がたがそういうつもりなら・・・!」

そう言うなりジェミーは、10本ほどのドラゴンにいっきに火をつけると、それをこちらに投げつけ始めたのです!

「ば、ばか~~~!な、なにする! う、うわっっち、あちぃー!」

危ねーの危なくないの!

「うわぁ!あち!このバカ!あちちちちち!」

もちろん、西条くんや孝昭くんがやられっぱなし、ということはなく、そのドラゴンをひろってジェミーに投げ返します。

が、ジェミーは、次から次にドラゴンに火をつけ、あたりかまわず投げつけます。

阿鼻叫喚!
飛び交う火の粉!
ちょうど雪合戦をドラゴンでやっているようなものです。危ないとかそういうレベルではありません。
まーーーー熱いわ熱いわ!

皮肉なことに、これが本日、一番美しい花火でした。

この騒ぎを見ていた美奈子さんは、おなかをかかえて笑っていました。

その横で、幸せそうなグレート井上くん。

でも、楽しい時間は、花火と同じように一瞬で過ぎて行きます。


「遅くなる前に帰りましょうか」

「そうですね」

「今夜はほんっと楽しかった!ありがとう、井上くん。みんな」

時計は9時半をまわっていました。
僕たちが帰ろうとした際、噂通りバイクに乗った若者が数名現れましたが、これも予想通り、西条くんと孝昭くんがあっけなく追っ払いました。


空には満点の星。

最後に美奈子さんが言いました。

「そうそう。今日はウルトラマン一家、マクドナルドでハンバーガー食べてたわ。8mくらいあったかしら」

僕たちは笑いました。が、当時の田舎者はマクドナルドなど、まったく知らないのでした(哀)。


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