ぼくたちと駐在さんの700日戦争

 

  
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僕たちと駐在さんの700日戦争

3章 公害ブルース


第1話 公害ブルース(1)

中間試験がさんざんな結果で終了した日、僕たちは例によってごろごろと集まっておりました。
この日は、全部活の中止される日でしたので、ほぼフルメンバー。ちなみにフルメンバーですと1年生を含めて20名にも膨れ上がる団体でした。

この日の話題は言うまでもなく「レコード屋さん」の話です。

僕たちが本屋さんで万引き疑惑をこうむった引き金は、とりもなおさず「駐在さんの暴挙」でしたが、それに火をかけたのはレコード屋さんにちがいありませんでした。

「昔からあやしかった、は、ひどいよな」
「うん。あんまりだ」
そうです。このグループだけでも、月にどれほどレコード屋さんにお金を落としているでしょう?

「いっそ不買運動でもおこそうか?学校全体に」
「いやいや。それじゃぁつぶれちゃうかも知れないからな。ここいらで唯一のレコード屋なんだから。それは困るよ」

この市議会にも匹敵するような会議内容!
とても「復讐策」をねっているようには思えません。

「あのさー、こういうのはどうだ?」
持ちかけたのは僕です。

当時『レコードマンスリー』という無料の小冊子がありました。これにはその月に発売されるレコードが全て記載されているのですが、ここから「最も売れないであろうレコード」を見つけることにしたのです。

みんな真剣。
「うーん、『恋のマラリア』あたりはどうだ?」
「うわぁ。すげータイトルって、それ沖田ヒロユキじゃん。だめだよ。ファンがいるもの。もっと真面目に売れないヤツさがせよ」

おそらくかのオリコンでさえ、こんなに真剣にはやってないでしょうね。

そこで見つけたのが忘れもしない

『公害ブルース』。

歌ってるのはアプリコットというグループ。

「うん!これは売れない。絶対!」
僕たちは発見を喜び合いました。
当の「アプリコット」関係者が聞かれたら激怒するような騒ぎです。

次に役割分担です。

まず僕と西条くん(万引きの疑惑をかけられている2名)を除いて、それぞれの役割を分担しました。

はじめはシンバル男の孝昭くんが電話をかけました。

「もしもし~。そちらにアプリコットの『公害ブルース』ってあります~?」
「そうですかぁ。残念だなぁ。いつはいります?」
「1週間かぁ。いいや、いいです。じゃ、よそで探します」

次に僕がクラスの女子をつかまえて頼みました。
「ねぇ。レコード買って来てほしいんだけどさ。うん、アプリコットっていうグループの『公害ブルース』っていうやつなんだけど」
「いいわよ。でもヘンな題名ね」
「いや、今、セイヤングじゃすごいんだよ。この曲。あ、でもなかったらいいから。他所で買うからさ」

翌日には、さらに2名を店に送り込み、
店頭で『公害ブルース』を問い合わせに。当然あるわけありません。

僕たちは、延々とこれをあの手この手で1週間、続けました。

ある日、メンバーが電話で確認すると
「もしもし~。『公害ブルース』ってありますか~?
え!ある?そうですかぁ。じゃぁ買いにいきまーす」

この日のうちに、『公害ブルース』確認の電話を2件して、とりあえず第一次作戦を終了。
翌日からピタッと問い合わせを止めました。

その数日後、レコード屋さんにビラが貼られていました。


◎セイヤングで話題!

  公害ブルース、入荷しました!!





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第2話 公害ブルース(2)




僕と西条くんは、さらにその数日後にレコード屋さんを訪ねました。

「おや。君たち、ひさしぶりだねー」

「おじさん、表の 公害ブルースってなぁに?」

しらじらと僕たち。

「ああ。あれね。あんまり問い合わせが多いんで、いっぱい仕入れたんだけどねー。どういうわけか1枚も売れないんだな。セイヤングとかじゃすごいらしいんだけど・・」

そりゃそうだ。
それにしても「セイヤング」って。口からデマカセなのに、人の噂とは恐ろしいものです。

「ふーん。じゃぁ返品すれば?」
と、なげやりに西条くん。

「いや。返品枠って決まってるからね。あんまり返せないんだよ」

返品枠。僕たちは、この言葉を初めて知りました。
そうだったのか・・・。

「じゃぁ、僕たちが1枚買おうか?」

「え!ほんと?ありがたいなぁ。やっぱり持つべきはお得意さんだね!」

「うん。でも、本屋さんに、あいつらは怪しいって言ったでしょ?」

核心です。
僕たちは、濡れ衣をはらすためだけに400円を投資したのです。

「え?ナニそれ?」

「ほら。こないだ僕たちが駐在さんともめたとき・・・」

「んー。君らはいつも駐在さんともめてるからなー。こないだも護送されてたろ?」

やっぱりそう見えてたか・・・・。護送じゃないっちゅうに!。

「あー。こないだの本屋さんでのこと?」と、レコード屋さん。

強くあいづちをうつ僕たちに向かって、

「あれは違うよ。それを言ったのは電気屋さん


え!で、で、電気屋ぁ???


「だ、だって、本屋さんのご主人が、レコード屋さんがそう言ってたって・・・・」

「え~?本屋さんも年だからなぁ。でも、それを言ったのは電気屋さんだよ」

どうやらこっちが信憑性高です。

「長い付き合いだもの。僕が君らのこと、そんなふうに言うわけないじゃないかー」

「え? そうなの・・・ですか?」
突如へんな敬語に変わる僕と西条くん。

「そう。電気屋さん。それでね。あんたんとこは盗まれるような小物ないじゃないかって、大笑いしたんだよ」

「はぁ・・・・。そうなの・・・ですかぁ」

信憑性は確信に変わりました。

「それがどうかしたの?」

「い、いえ。『公害ブルース』、もう1枚もらえます?



※文化放送さん。あの日から毎日毎日『公害ブルース』をリクエストしたのは僕たちです・・・・。


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第3話 公害ブルース(3)

「電気屋の間違いだったぁあ??」
「なんだよ、それっ!!」


怒りのメンバーたち。

「すまない・・・。本屋さんが間違えてたんだよ・・・・」
平謝りの僕と西条くん。


「じゃぁ、あの1週間はなんだったわけ?」

つっこむつっこむ!
無理もありません。

「申し訳ない。つきましては、お怒りのところ、お願いがあるんだけど・・・」

「なんだよ。いいぞ?電気屋に復讐するのは。望むところだ!」
これは勝ち気な孝昭くん。

「いや・・・。それもそうなんだけど。例の『公害ブルース』なんだけどね・・・・」

「ああ」

「なんかね。レコード屋さん大量に仕入れちゃっててさぁ・・・」

「そりゃそうだろう。そうなるはずだって言ったのオマエじゃん」

「うん。それがね。返品枠とかあって返せないらしいんだ・・・」

「へーー」と、みんな。

「それでー。責任上さぁ・・・」

「ああ」

みんなで買おうかなぁ・・・なんちって・・・・」

「はぁ!?」

「な、なんで自分らで選んだ一番売れないレコードを自分らで買うんだよっ!?」

ごもっともなご意見です。

「お前と西条で買えっ!!」

ごもっともなご意見です。

「うん。俺ら、もう2枚も買っちったから・・・」

「公害ブルースを?」

「うん・・・」

「ハァ・・・・・・・・・・・」

とは言うものの、僕たちは一種の「互助会」みたいな組織でしたので、しかたないのでみんなで『公害ブルース』の在庫を買い取ることに。
こういう時に協力しておかないと、いざ、自分の復讐のときに協力をあおげないからです。

「残り何枚くらいあった?『公害ブルース』」

「あー。8枚だってさ」

「なんだってそんなに仕入れたんだ?あのレコード屋」

問い合わせが10件あったからだって・・・」

「×1かよっ!!」

溜息をつくメンバー。
なにしろ、その10件すべてが我々の出した問い合わせなのですから、無理もありません。

当時の高校生にとって400円はしゃれにならない金額でした。
それでもメンバーの中には、バイトなどをしているお金持ちもいたので、合計2000円を集め、5枚の『公害ブルース』を買いとることにしたのでした。

レコードを買いにいくのは1年坊の仕事です。
1回で、まとめて買いに行くと、それはそれでアヤしいので、5名を3日に分けて送り込みました。
それでも3枚は在庫になりますが、まぁ、それくらいは「返品枠」でどうにかなるだろう、というわけです。

そして5枚、僕と西条くんのものを含めると、合計で7枚もの『公害ブルース』を買い取り、ようやくレコード屋騒ぎは収束・・・・。



・・・・ところが。



それからわずかに数日後、僕たちがレコード屋の前を通ると、信じがたいものが目に入りました。


大ヒット!セイヤングで話題沸騰の

『公害ブルース』大量入荷!




あ??
大ヒット??
大量入荷??
大量・・・・・??

僕たちは、大慌てでレコード屋に飛び込みました!

「お、おじさん!また『公害ブルース』仕入れたの?」

「やぁ、君たちー。そうなんだ。君たちが買った直後にあっと言う間に5枚もはけてねー。こりゃいけるっていうんでね」

「5枚・・・も・・・・」

「でも、どうしてあんな曲が売れるのかね。やっぱりセイヤングって影響力強いね~」

セイヤング・・・・・・。

「何枚仕入れたわけ?」

「ん?追加で10枚だけど?なにか?」



※8章を過ぎたところで、読者さんが『公害ブルース』の音源を見つけてくださいました。
こちらからどうぞ!

Youtubeは、http://youtu.be/7Gu2BIYHvos


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ところでお断りしておかなくはなりませんが、僕たちがこうして誠心誠意(?)レコード屋さんや電気屋さんと戦っている間も、駐在さんの攻撃がなかったわけではありません。
時系列としてまとめているだけなので、電気屋さんとの戦いが終了次第、おっかけ掲載いたします。お待ちください。
chuzai3-4.gif

第4話 仲間われ

と。いうわけで、とうとう電気屋さんにも逆襲を誓った僕たち。

電気屋のオヤジは、以前の本屋さんやレコード屋さんと比べると、実にとっつきにくい人で、正直申し上げて、あまり評判のいい人物ではありませんでした。
なにしろ、僕を含めほとんどのメンバーの家がこの店から家電品を調達している、つまりは「お得意様」のご子息であるにもかかわらず、中高生にはずいぶんと無愛想だったのです。

それだけに今回の「逆襲」には、ほぼ全メンバーが名乗りを上げました。

憎まれてんなぁ。電気屋。

とりあえず僕と西条くんは「あいつらは前から怪しかった」いう台詞の真相を確かめねばなりませんでした。
孝昭くんほか武闘派なメンバーは
「えーっ、電気屋だろ?そんなのどうでもいいから、やっちゃおうよ」
と、すっかり復讐が趣味になっちゃってましたが、そういうわけにもまいりません。

いいよな。お前ら毒ガスとか嗅いでないから。

しかし。

僕と西条くんが確認のため電気屋を訪問すると、店に入った瞬間から雰囲気がちがっていました。
いえ。ここのオヤジは、もともとが無愛想なのですが、それに輪がかかっていました。
僕が店頭のステレオアンプなどをいじっておりますと
「あー。展示品さわんないでくれる?素人がさわって壊れたらどうすんだ?」

これです。

僕も、この店でカセットデッキやらテープレコーダーやらを購入しているので、曲がりなりにもお客さん。それに向かって「さわるな」なんですから、もはやなにをかいわんや、です。
だいたい客ってのはみんな素人なんじゃないのか?
素人じゃなきゃ同業者の視察だろうがぁ!
とにかく「歓迎していない」ことは間違いありませんでした。レコード屋さんの言っていたことはどうやら本当だったようです。

この実態に腹をたてた僕たち。
その日のうちに8人が孝昭宅に集まり、作戦を話し合いました。

「あいかわらずだなぁ。電気屋」
「うん。よくあれで商売やってられるよな」

まったくです。

「うちの家電品なんか、ほとんどあの店なんだぜ」
「うちも」
「うちも」
「うちも」

「あのオヤジ、大人には愛想いいのな」
「まったく」

「うちもさぁ。今度またあそこからテレビ買うらしいんだよね」
とは、『俺たちはカメ』で鎧兜を持って来たグレート井上くん。

「なぜ、あそこで買うんだよ?キャンセルでもすれば?」
「ダメだよ。親父が決めたことだもん」
「お前の親父。おっかないもんな」
「うん。わがままだし。とても口だせない」
「ふ~ん」

グレート井上くんの家は、このあたりでは屈指の旧家で、家も古く大きく、なにやら家訓めいたものまである厳格な家でした。なにしろ鎧兜があるくらいですから。

 ん?

ここでひらめきました。

「それってさぁ、いつ取り付けに来るわけ?」

「さぁ。今度の日曜あたりだったと思うけど?」

チャンス到来です。
電気屋の言った「素人はさわるな!」がヒントになりました。

僕はおおまかな作戦を説明しました。

「うん!それ、おもしれ~~~~!!!」

全員が賛同し、作戦の詳細とメンバーを決めるときになって、孝昭くんが言い出しました。

「西条、お前、今回、この作戦おりろよ」

「な、なんでだよ!」

「今回の作戦、失敗が許されないだろ?」

「そ、それがどういう関係あるんだ?」
当然不服そうに西条くん。

「西条が参加して成功した作戦って、なぜかないんだよな。ジンクスって言うのかな」

「な、なんだって!いっぱいあるぞ!」
ムキになる西条くん。

「言ってみろよ」

「まずなー・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「と、とにかくいっぱいあるんだよっ!」

いや。西条・・・・幼稚園児じゃないんだから・・・・。

「じゃぁ言ってみろよ」

「キャ、キャンプとか・・・」

「それって行事じゃん!それもお前、ただのレクリエーション係だったろ?」

「や!やかましー!」

と、言うか、はっきり言って孝昭くんと西条くんは50歩100歩なんですけどね。
キャラもすっかりかぶりまくって、こうやって字で書くと、どっちがどっちかわかりません。

「まぁまぁ。今から仲間割れしてる時じゃないだろ?」
「そうだよ。だいたいお前も、こないだ取締の本部前でシンバル鳴らしたこと棚に上げて」(1章『俺たちはカメ』参照)

「う・・・あ、あれはパフォーマンスしろって言うから・・・」
と、孝昭くん。

「それに西条が参加して成功した作戦もいっぱいあるぜ。お前はいなかったけど、駐在さんへの大応援とかさ」(2章『大応援団』参照)

「そうだそうだ!」
と、ようやくひとつ見つかったのがうれしくってしかたない西条くん。

「でもさぁ。井上の親父って、西条のこと、嫌ってるじゃん?」

それは確かに言えていました。
どちらかと言えば「不良」に属する西条くんは、PTAにとっては鼻つまみ者ではあったのです。
特に厳粛で頑固者のグレート井上くんの家は顕著でした。

「ふむ・・・」
と、僕たちが納得しかけると
西条くんが言いました。
「あー、俺さ。なんか今回の作戦、参加しないと ”電気屋にちくりたい病” にかかっちゃいそうだなー」

「なにぃ!?」

いやいや。

「とにかくさ。はじめっから仲間割れしてる場合じゃないから」

僕たちも所詮は高校生。チームワークが良さそうに見えて、いつもメンバー選出のあるときは、こうしてもめていました。
みんな他人を蹴落としても、自分が参加したくてしょうがないのです。

「まぁ。いいじゃない。井上の部屋でかいし。なんとかなるだろ?井上」

とりなす僕に、グレート井上くんは、

「うん。まぁ。もめるくらいだったら、それでもいいよ」

「じゃ。8人でやるということで・・・」

落ち着きどころを決めた横で、西条くんと孝昭くんが蹴り合いをしていました・・・。

はぁ・・・。先が思いやられる・・・。



 3章-第5話へつづく いよいよ作戦開始っ!


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