ぼくたちと駐在さんの700日戦争

 

  
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第5話 バミューダトライアングル(1)

電気屋復讐作戦。決行日は、グレート井上くんの報告より1日早く、土曜日だったのでたいへんでした。
なにしろ現代と違って、土曜日は半ドンの授業があります。

僕たちは、授業を終えると、とるものもとらず、もちろん部活などサボりまくってグレート井上くんの家へいちもくさん。

そして、この作戦には、もうひとつの大きな問題がありました。

それはグレート井上くんの家の構造です。

当時の古い家は、テレビケーブルは壁の外に露出しておりました。建った当時はテレビなどないので、当然と言えば当然です。
このこと自体は、僕たちの作戦にたいへん都合よかったのですが

作戦決行前日のこと。

グレート井上くんの報告です。

「あのねー。調べたら、分配機は妹の部屋にあったんだよ」
分配機とは、アンテナのケーブルを複数のテレビに分けるための小さな機械です。

「妹って、夕子ちゃんの部屋?」
夕子ちゃん、とはグレート井上くんの2つ年下の中学3年生。けっこうかわゆいので評判でした。
僕たちは、駐在さんの奥さん発見以前は、よくこの夕子ちゃん見たさにグレート井上くんの家を訪ねたものでした。って、つまり行動パターンは、まったく進歩がない、ということです。

「そう。僕の部屋にはテレビないから」

「う~ん。そいつは大問題だぞ」
「でもなんとかしないと・・・」

「じゃぁさぁ。村山。お前、夕子ちゃん誘い出せ」

「え!」

「だって夕子ちゃん、村山のこと、お気に入りじゃん」

しかし、これに孝昭くんが猛烈に反発。
「ああ?作戦決行のために純真な乙女の気持ちをもてあそぶわけ!?」

「う~ん・・・そう言われると・・・」

「俺は許せねーな。いくら作戦のためとは言え、女の子の気持ちを利用するなんて!お前ら全員が許しても、俺の正義感が許さねー!」

「じゃぁ、孝昭。お前が誘い出す?」

「え? んーと。それならいいかな・・・・?」

お前の「正義感」ってなんなんだ?

つまりは、孝昭くんの正義感は、実に安っぽい嫉妬であることが判明し、結局、夕子ちゃんは村山くんが誘い出すことに。

グレート井上くん、
「村山~。妹にヘンなことするんじゃないぞ」

「井上・・・。僕をなんだと思ってるわけ?」

「うん。そういうヤツだと思ってる」

僕たちは仲間同士では、実はまったく信用がありませんでした。


話はもどって、決行日当日。
『vs電気屋決戦』の日です。

僕たちは、揃いも揃って8人。グレート井上くんの家を訪ねました。

「お父さん、電気屋さんもう来た?」

「いや、まだだぞ。おや。またそろいもそろって悪ガキが来たな」

「お父さん、こんにちは~」

「どうしたんだ?お前たち、テレビがめずらしいのか?昭和初期だな。わっはっは」

さすがに新しいテレビがやってくる、というので井上父さんも機嫌がいいようでした。
当時、新しいテレビを買うというのは、それほどの出来事であったとも言えます。

その後方に妹夕子ちゃんの姿がありました。夕子ちゃんは、メンバーに村山くんがいることを確認すると、少し照れたように、井上父さんの後ろに隠れました。
う~ん。カワユイ!駐在さんの奥さんも大人の魅力でいいけど、夕子ちゃんも捨てがたい!

「おじゃましま~す」

僕たちは、グレート井上くんの部屋に一旦集合し、最終的な作戦をつめました。

さぁ。作戦開始です。
僕たちは大きく3つの班に分かれることが決まっていました。

部屋班、居間班、庭班の3つです。
まるで建築のような話ですが、まったく違います。

さて、その前に、夕子ちゃんに分配機のある部屋から出てもらわなくてはなりません。

「行け!村山!」

「え?あ・・・うん・・・」
あんまり乗り気じゃない村山くんに
「くれぐれも妹にヘンなことするなよ!」
釘をさすグレート井上くん。


夕子ちゃんの部屋の扉をノックする村山くん。

「あ・・・村山先輩・・・・」

顔を赤らめる夕子ちゃん。
夕子ちゃんと村山くんは、中学のバレーボール部で先輩後輩の間柄です。

「えっと・・・えっとさー」

「はい。なんですか?」

「ちょっと、学校まで一緒に行かない?」

「え?いっしょに高校へですか?」

「うん・・・あの・・・高校のバレー部紹介するからさ。見といてそんはないと思うんだ・・・・」

うん!いいムードだ!
そのまま2時間帰ってくるな!
なにしちゃってもいいから!

「だめだよ」

グレート井上くん。テレパシーでもあるのでしょうか?



   3章-第6話へつづく 西条くん暴走

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第6話 バミューダトライアングル(2)


やがて、めいっぱいのオシャレをして部屋を出て来た夕子ちゃん!
その姿に、さすがに僕たちもちょっと胸を傷めました。でもカワイイ♪

西条くんが言いました。
「いいなぁ〜、井上。あんなかわいい妹がいて・・・」

「そうか?」

「だって、下着とかもらいたい放題だろ?」

「はぁ?」

「どっ、どこの世界に妹の下着収集してる兄がいるっ!?」

「えー。俺が井上の立場なら、宝箱つくっちゃうけどなー」
「うん。つくる!絶対つくる!」
と、変態同士、同調しているのは孝明くん。
そんなことに「絶対」とかいう自信を持ってどうする?

「お前らねぇ・・・」

「孝明、お前には姉ちゃんがいるだろ?」
と、鉾先を変えて西条くん。女ならなんでもいいのか?

「どっ、どこの世界に姉の下着収集してる弟がいるっ!?」
これには激怒する孝昭くん。この微妙な違いがわかりません・・・。

「理解できない・・・」と、グレート井上くん。

「いいよな〜。女きょうだいのいるヤツは」

いや・・・お前に女きょうだいがいないのは神様のおぼしめしだよ、西条。

「僕、村山と妹おくってくるから。たのむから西条と孝明、見張っててくれ」
他の「比較的正常」なメンバーに頼むグレート井上くん。

「ああ。こいつらが夕子ちゃんの下着盗まないようにすればいいんだろ?」

「うん。と言うか、こいつら1mmたりとも動かないようにしといて」

これに対し、
「いや、お義兄さん。さすがに友人の妹の下着盗まないぜ。俺ら」

いつから井上の義弟になった?

っていうか、友人の妹でなければ盗むのか?

「うん。まったく信じてないから」

「お義兄さん。俺らをどういう変態と思ってるわけですか?」

うーん。「宝箱」とか言っておきながら・・・・。
どの口つかってしゃべってるんでしょ?西条。


夕子ちゃんと無理矢理デートすることになった村山くんは、どちらかと言えば奥手なのであまりうきうきしている雰囲気はありませんでした。
が、さすがにオシャレしてきた夕子ちゃんを見て、照れているようでもありました。

夕子ちゃんが玄関を出る際、井上母さんが声をかけました。

「あら?夕子、どこか出かけるの?」
「ウン。村山先輩たちとちょっと高校まで行ってくる」

「そう。遅くならないでね」
「ウン。だいじょーぶ、すぐもどる」

いえいえ。2時間もどりません。そういう使命ですから。

なにしろ厳格な家柄なので、ここが最大の難関と言えないこともありません。
しかし、村山くんは、メンバーの中でもけっこう信頼の厚い好青年でしたので、父母祖父母そろっている中、比較的簡単に抜けだせました。
これが西条くんやらでは、こうはいきません。

それでも、

「村山ぁ。くれぐれも。わかってるよな?」

念には念を入れるグレート井上くん。

「ああ・・・わかってるよ、井上。それより西条たちはいいのか?他のメンバーはあてになるのか?

ハッとして、大あわてで部屋へともどるグレート井上くんでした。


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第7話 バミューダトライアングル(3)

ufo.gif
夕子ちゃんと村山くんが、臨時の策略デートに出かけたのと入れ替わるように、1台の軽トラックが庭にすべりこんできました。
横に『National』の文字。
そうです。電気屋です。

「よし!配置につけ!」

命令一下、残った7名は一斉に動き出しました!
なんて統制がとれているんでしょう!

まず、僕とグレート井上くんが、分配機のある夕子ちゃんの部屋へ!
その後ろに西条くんが続き、さらに孝昭くん、そしてその後ろにさらに3名が続いて・・・・

って、なんで全員夕子ちゃんの部屋に集まってんだよっ!!

「お前ら、こっちじゃねーだろーがっ!?」

「いやぁ~。女の子の部屋っていいねぇ~~♪」

「バカ! さっさと配置につけ!」

「俺、ここが配置でいいや
「オレも~~~」
「おいらも~~~」

統制はとんだ妄想でした。
現実とはこんなもんです。

気の休まらないのはグレート井上くん。
「コラ!お前ら、妹のクマにすりすりするなぁっ!」



 うぅ・・・なさけない。


その間にも、電気屋が中に入ってきて、挨拶などしているようです。

 「こんにちはぁ。テレビ配達にあがりました」
 「おや。電気屋さん、待っていましたよ」
グレート父さんのうれしそうな声も聴こえます。

なのに夕子ちゃんの部屋で、まだもめている僕たち・・・・

「さっさと配置につけよっ」

「え〜〜?もうちょっと深呼吸させろよ」

呼吸だけですっかり興奮している西条、孝昭コンビ。
呼吸で陶酔できるとは安上がりなやつらです。

「いやぁ。この匂いだけで3日はいけますね~。西条さん」
「いやいや。10日はいけます。孝昭さん」

なにが10日いけるって!?

「さっさと出てけーっ!」

井上爆発。

未練たらたらで出て行く5名。


本来は1名がグレート井上くんの部屋。
残り4名は庭。
僕とグレート井上くんは、作業を終え居間に分かれる予定でした。

つまらぬ性欲のおかげで、すっかり手間取った僕たちでしたが、分配機を分解し、そこから2本のケーブルを延長しました。
窓ごしに隣の部屋の孝昭くんにそのケーブルの一端を渡すと、夕子ちゃんの部屋を後にしました。
う~ん。スパイ大作戦みたい。かっこいい。ただのワルサだけど。

そして僕とグレート井上くんは、予定通りテレビ取り付けがされている居間へ。
僕は不測の事態に備えてどこへども動ける位置に構えました。

居間では、電気屋がすでに新しいテレビを運び始めていました。

と、そこに僕がいることに電気屋のオヤジが少し驚きました。

「おや・・・。友達だったのかい?」
バツが悪そうにオヤジ。

「ええ」

「ふぅ~ん・・・・・」

さっきの井上父さんへの挨拶とは、うって変わったこの態度。
だから嫌われるんだよっ!

この当時、テレビはロータリー式のチャンネルから、タッチチャンネルへと代わる変換期でした。
くるくる回るチャンネルこそが「チャンネルをまわす」語源だったわけですが、この時からチャンネルはタッチ式に換わっていったのです。

タッチ式チャンネルは、現代のテレビと同様、ひとつのチャンネルごとに設定が必要でした。
設定をしないと、1のチャンネルは1チャンネル、2のチャンネルは2チャンネルといった具合に、ナンバーそのものがデフォルトになっていて、そのまま1~12チャンネルまで。UHFチャンネルは映りません。
田舎は、VHFだけでは全チャンネルを見ることはできませんでしたから、当然この設定が必要になります。
僕たちは、ここに着目したのです。

電気屋は、やがてテレビの設置も終わり、いよいよこのチャンネル設定に入りました。

居間でこれを確認したグレート井上くんは、腰に手をあてました。
これが合図です。

庭班4名は、自分たちの自転車のところで雑談などしているようにしていましたが、これを確認するとベルを鳴らしました。
今度は、このベルを確認した部屋の孝昭くんが、分配機から延長されたコードを切り離します。

つまり。この時点で、テレビはアンテナから切り離されるのです。

当然テレビは映りません。

「あれ?おかしいな・・・・」

電気屋のオヤジが、どんなにチャンネル設定しようとしても、まったく画像が映りません。

「あれ?アンテナがつながってないのかな?」

さすが電気屋。

オヤジは、確認のために、古いテレビにアンテナケーブルをつなごうとしました。

これを見てグレート井上くんは、頭に手を乗せます。
これを確認した庭班は、今度はベルを何度も鳴らします。
そして孝昭くんがコードをつなぎます。

テレビは映ります。

「うん・・・アンテナはつながってるなぁ・・・」

はい。つながっています。今だけ、ね。

そして新しいテレビにまたアンテナ線をつなぐと、

グレート井上くんが腰に手をあて → ベルが一度鳴り → コードは切れ → テレビは映りません。

「ありゃぁ・・・・?」

何度やってもこの繰り返し。
そりゃそうです。そこだけテレビが映らない魔の三角地帯。

僕は、不測の自体に備えて、孝昭のいる部屋と居間をいったりきたり移動していました。
電気屋が分配機の確認に来ることに備えたのです。

アンテナ線を切り離すたびに、孝昭くんはアンテナコードに向かってベロベロバーなどしていました。
そんなことしたって顔映んないから。
こいつ、根本的にテレビがどうやって映っているかわかってないようです。

居間では、グレート父さんがイライラしはじめていました。



 3章-第8話へつづく いよいよ仕上げ!電気屋感謝感激。

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第8話 ハーメルンのホラ吹き(1)

「なんだ。電気屋さん、不良品持って来たのか?」

期待と歓びが大きかっただけに、井上父さんはすっかり不機嫌になってしまいました。
家族も同様です。

「いや・・・そんなはずは・・・」

しかし、いくらやってもテレビは映りません。あたりまえです。
上では、孝昭くんが切断されたアンテナケーブルにベロベロバーしてるんですから。ベロベロバーも映りませんけどね。

井上父さんは、怖いばかりではなく、ちょっと常識を逸脱したところのある人でした。世間的には偉い人なんですが。
偉い人に多いですよね。こういう無謀な人。

グレート井上くんの話を信じれば、今回テレビを買い替えた理由のひとつに

「巨人があんまり負けるので」

というのがあるらしいのですが、それが本当だとすると、たいへんな親父です。


今回は万全を期して、不測の事態に備えていた僕ですが、不測の事態は思わぬところで不測に起きました。
グレート井上くんが、なんの合図も送っていないのに、外でベルが勝手に鳴っているのです!

な、なんで?

僕とグレート井上くんはあせりました。これではテレビが映ってしまいます。

僕が外を見てみると・・・

なんと!

道路でガキどもが自転車遊びをしています。小学校1、2年生といったところでしょうか。
ベルはこいつらが鳴らしまくっているのでした。

「げ!」

「西条!」
僕は、庭班の西条くんに、めくばせしました。

 なんとかしろ!西条!

西条くんは、やはり目で「了解!」と合図を返すと、ガキどものほうにかけよりました。

「あー。おまえらー、あつまれーー!」
ガキはガキにまかせるに限ります。
わらわらと、3、4人の子供たちが西条くんの前へ。

西条くんが言いました。
「お前ら、このあたりにUFOが来た跡があるの知ってるか?」

「えー!知らな~い」
「ウソばっかり~」

「俺がいままでお前らにウソついたことがあるか?」
と、西条くん。

「えー、だってお兄ちゃん、初めて会ったもん。あるわけないじゃん~」
幼な子の言う正論に

「バカヤロー!」本気で怒る西条くん。
「そういう問題じゃないんだ。いままでお前たちをだましたことあるか?ということだよ!」

「ない・・・・」
「ウン・・・ない・・・」
知能程度が同じということは、便利なことです。

「だろう?あっち側にあるんだよ。UFOの降りた跡が」

「へ~」

「よし!じゃぁ、俺といっしょに探検に行ってみよう!びっくりするぞ。お前ら」

「ホントに~?」

「ああ、本当だ。よし!お前、そこの鼻の赤いの!お前、副隊長だ!」
「ハイ!」

「え?僕は僕は?」
「お前は、キャプテン!いいな?」
「ハイ!」

「で、そこのちっこいお前。お前が大佐な」
「ハイ!」

あっと言うまに手なづけました。

「よし!出動だ!副隊長、キャプテン、大佐の順で続け!」

すごいなぁ。西条。それって才能だぞ。すでに。
でも気のせいか、お前が一番楽しそうだけどな。
しかし、このあたりにUFOが飛来した跡なんてあったでしょうか?聴いたことありません。


変わって居間では、井上父さんが極限に達していました。
「映らんテレビなぞいらん!持って帰れ!」

「いえ・・・だんなさん・・そんなはずでは・・・」
憔悴しきった電気屋オヤジ。

当時は現代の巨大家電店とは違い、すぐに替わりのテレビの在庫がある、というわけではありません。
つまり、持って帰ったら、替わりをすぐに持って来るというわけにはいかないのです。

「ちょっとアンテナ確認してきます・・・」

そこですかさずグレート井上くん、
「古いテレビは映るんだから、アンテナじゃないでしょ?」

「あ・・ああ。そうなんだけどね・・・」

「そうだ!古いテレビは、さっき映ってたじゃないか!!」

電気屋にすれば時間稼ぎのつもりだったのが、井上父さん。すっかりご機嫌ななめです。

「もういい!」

と、ここからがシナリオ。「僕」登場です。

「父さん。こいつ、無線とかやってて電気に詳しいんだけどさ。不良品じゃないって言うんだよ」

「え?あ~~、タカさんとこの。君、テレビなんかわかるのかい?」

タカさん、は、『俺たちはカメ』で再三説明した僕の母です。
僕は、母が有名であったおかげで、この年代のかたには、奇妙な信頼がありました。
持つべきものは優秀な親です。

「えー。少しは」

続けて僕。
「これはね。新しいテレビにありがちなんです。故障じゃないと思いますよ。まして不良品じゃありません」

「電気屋さん、ちょっとこいつにさわらせてみてよ」
グレート井上くんの棒読み台詞。

「いや・・・素人にはわからんよ。最新型だから」

とは言うものの返品は困りますから
「いえ。30秒もあればいいですよ」
という僕の申し出をしぶしぶ受けました。

ええ、実際は10秒もあればいいんですけどね。

僕は一旦テレビの裏側にまわり、今度は前の調整パネルを開けました。

ここで井上くんに目配せ。井上くんは頭で手を組み → ベルが鳴り → アンテナつながり

「映った!」

「映った!母さん、映ったよ!」

うーん。テレビが映ることをこんなに喜んでもらえるなんて。

電気屋はもっと驚きです。

「え?君、どうやって・・・」

「いや、これはですねー。固定チャンネルでなくなってから・・・・」
ここから延々と、横文字を羅列した意味のわからない説明をしましたが、なにしろ意味がわからないので当人も覚えておりません。


「へぇーーーーー」
と、まわりじゅうをうならせたのは間違いありませんでした。

真実を知るグレート井上くんだけが「よく言うよ。こいつ、信頼ならないなー」という顔してましたが。

その後、僕は手早くUHFのチャンネルを設定し、電気屋をうならせました。

「さすがタカさんの息子さんだねぇ」
と、井上父さん。

よろこびもひとしおで、

「これで巨人が勝つのを見れる!」

本当だったんだ・・・・・。



   3章-第9話へつづく その頃の西条?

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