←1章 目次へ|第2話 俺たちはカメ(2)へ→
←俺たちは風(完結編)へ
警察に捕まったからと言って、逆襲を考えるようなヤツはいません。
そりゃぁちょっと道をふみはずしたお兄さんがたならともかく、我々はまだ「いたいけ」な高校生でした。
しかし。宣戦布告のタネは、すぐそこに落ちていたのです。
第1話 俺たちはカメ
学校創立以来初めて(そして最後)、自転車で停学をくらう、という名誉な事態に陥った我々でしたが、停学はわずか4日で解け、めでたく学校に復帰したのでした。
その日、例によって、ごく普通に自転車通学していた僕たちは、通学路である、駐在所前を通ったのです。
そこには駐在さんが立たれておりました。
朝も早いのにご苦労なことです。
「おはようございます!」
実に高校生らしく、明るく挨拶する僕たち。
ああ、なんてすがすがしいんでしょう。
つい数日前、つまらぬギャグが元で、公務執行妨害罪で逮捕までされているというのに。
「おっ!お前ら!」
お前ら?
いや。僕たちは一般市民ですから「あなたたち」でしょう?
とは思いましたが、多少は迷惑かけた、ということで、会釈でもしようと自転車を停めました。
すると
「停学とけたのか?はえーなぁ」
「はぁ。おかげさまで‥‥‥‥」
そのやりとりは、まるで網走刑務所からシャバに出て、自分を逮捕した刑事と高倉健が、偶然やきとりの屋台で再会した時のような会話でした。
「学校もあまいなぁー」
カッチーン。
と、全員がその言葉に反応した時、その奥から、若い奇麗な女性が現れました。
なんていうか、血気盛んな我々には、シルビアクリステルか竹下景子さんみたいに映りましたが
なんとこの女性がこの駐在の奥さん!
ビックリ!
奥様は僕たちににこやかな笑顔で挨拶してくださいました。
すると駐在(すでに呼び捨て。美人の奥さんってのが気に入らない)、
「ほら。こないだの高校生だよ」
「あー、自転車の?」
クスクス‥
え?奥さんも知ってるわけ?
ベラベラしゃべってくれちゃったの?駐在(呼び捨て)。
この彼女のくったくのない「嘲笑」が、けっこうショックでした。
しかも彼女の口からは、さらに信じがたいショックな言葉が出たのです。
「慶応のボート部って子たちね?」
づが~〜〜ん
よりによって、あんなくだらないギャグまで夫婦円満のネタにされていようとは‥‥‥‥‥!
(ここでこの会話を謎に思われた方は『俺たちは風』を復習してきてください)
すると、ツレが
「早稲田ですよっ!」
いや‥‥‥‥。だから恥の上塗りしてどうする?
「まぁ。それは失礼」
彼女の笑顔とその唇からもれてくる言葉は、おおよそこの爬虫類に毛のはえたような駐在とは、とうてい釣り合わぬものでした。
え~!この美人な奥さんが、この爬虫類とあんなことやこんなこと?
会話こそしませんでしたが、その日、そこにいた4名の仲間は、みんな同じことを考えていたに違いありません。
僕たちは、この奇麗な奥さんと、爬虫類な駐在に挟まれて、半分笑って半分怒っている、なんとも奇妙な表情、言ってみればアシュラ男爵みたいになっておりました。
<あしゅら男爵=
マジンガーZに登場する悪者の中間管理職。
体が左右で人格も性別も違う。
いわばニューハーフの未来型>
が、駐在。
なにやら奥さんとの「楽しみ」が待っていたのか、
「ほら。お前ら、遅刻するぞ!」
と、僕たちに登校をうながすのでした。
「じゃぁ、しつれいしま~す‥‥‥」
奥さんに「だけ」挨拶をして、ペダルをこぎ出す僕たち。
僕たちは、自転車を走らせながら
「許せねぇ!」
この「許せない」半分以上は、美人な奥さんがいることに対してである、ということは、すでに無言で理解しあえている僕たちでした。
しかし、戦争の大義名分の裏側には、たいていこういうしょーもないことが隠れているものです。
第2話へ続きます
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警察に捕まったからと言って、逆襲を考えるようなヤツはいません。
そりゃぁちょっと道をふみはずしたお兄さんがたならともかく、我々はまだ「いたいけ」な高校生でした。
しかし。宣戦布告のタネは、すぐそこに落ちていたのです。
第1話 俺たちはカメ
学校創立以来初めて(そして最後)、自転車で停学をくらう、という名誉な事態に陥った我々でしたが、停学はわずか4日で解け、めでたく学校に復帰したのでした。
その日、例によって、ごく普通に自転車通学していた僕たちは、通学路である、駐在所前を通ったのです。
そこには駐在さんが立たれておりました。
朝も早いのにご苦労なことです。
「おはようございます!」
実に高校生らしく、明るく挨拶する僕たち。
ああ、なんてすがすがしいんでしょう。
つい数日前、つまらぬギャグが元で、公務執行妨害罪で逮捕までされているというのに。
「おっ!お前ら!」
お前ら?
いや。僕たちは一般市民ですから「あなたたち」でしょう?
とは思いましたが、多少は迷惑かけた、ということで、会釈でもしようと自転車を停めました。
すると
「停学とけたのか?はえーなぁ」
「はぁ。おかげさまで‥‥‥‥」
そのやりとりは、まるで網走刑務所からシャバに出て、自分を逮捕した刑事と高倉健が、偶然やきとりの屋台で再会した時のような会話でした。
「学校もあまいなぁー」
カッチーン。
と、全員がその言葉に反応した時、その奥から、若い奇麗な女性が現れました。
なんていうか、血気盛んな我々には、シルビアクリステルか竹下景子さんみたいに映りましたが
なんとこの女性がこの駐在の奥さん!
ビックリ!
奥様は僕たちににこやかな笑顔で挨拶してくださいました。
すると駐在(すでに呼び捨て。美人の奥さんってのが気に入らない)、
「ほら。こないだの高校生だよ」
「あー、自転車の?」
クスクス‥
え?奥さんも知ってるわけ?
ベラベラしゃべってくれちゃったの?駐在(呼び捨て)。
この彼女のくったくのない「嘲笑」が、けっこうショックでした。
しかも彼女の口からは、さらに信じがたいショックな言葉が出たのです。
「慶応のボート部って子たちね?」
づが~〜〜ん
よりによって、あんなくだらないギャグまで夫婦円満のネタにされていようとは‥‥‥‥‥!
(ここでこの会話を謎に思われた方は『俺たちは風』を復習してきてください)
すると、ツレが
「早稲田ですよっ!」
いや‥‥‥‥。だから恥の上塗りしてどうする?
「まぁ。それは失礼」
彼女の笑顔とその唇からもれてくる言葉は、おおよそこの爬虫類に毛のはえたような駐在とは、とうてい釣り合わぬものでした。
え~!この美人な奥さんが、この爬虫類とあんなことやこんなこと?
会話こそしませんでしたが、その日、そこにいた4名の仲間は、みんな同じことを考えていたに違いありません。
僕たちは、この奇麗な奥さんと、爬虫類な駐在に挟まれて、半分笑って半分怒っている、なんとも奇妙な表情、言ってみればアシュラ男爵みたいになっておりました。

マジンガーZに登場する悪者の中間管理職。
体が左右で人格も性別も違う。
いわばニューハーフの未来型>
が、駐在。
なにやら奥さんとの「楽しみ」が待っていたのか、
「ほら。お前ら、遅刻するぞ!」
と、僕たちに登校をうながすのでした。
「じゃぁ、しつれいしま~す‥‥‥」
奥さんに「だけ」挨拶をして、ペダルをこぎ出す僕たち。
僕たちは、自転車を走らせながら
「許せねぇ!」
この「許せない」半分以上は、美人な奥さんがいることに対してである、ということは、すでに無言で理解しあえている僕たちでした。
しかし、戦争の大義名分の裏側には、たいていこういうしょーもないことが隠れているものです。
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