ぼくたちと駐在さんの700日戦争

 

  
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俺たちは風(完結編)



警察に捕まったからと言って、逆襲を考えるようなヤツはいません。
そりゃぁちょっと道をふみはずしたお兄さんがたならともかく、我々はまだ「いたいけ」な高校生でした。

しかし。宣戦布告のタネは、すぐそこに落ちていたのです。


ぼくたちと駐在さんの700日戦争

1章『宣戦布告』

ぼくたちと駐在さんの700日戦争

第1話 俺たちはカメ


学校創立以来初めて(そして最後)、自転車で停学をくらう、という名誉な事態に陥った我々でしたが、停学はわずか4日で解け、めでたく学校に復帰したのでした。
その日、例によって、ごく普通に自転車通学していた僕たちは、通学路である、駐在所前を通ったのです。

そこには駐在さんが立たれておりました。
朝も早いのにご苦労なことです。

「おはようございます!」

実に高校生らしく、明るく挨拶する僕たち。
ああ、なんてすがすがしいんでしょう。
つい数日前、つまらぬギャグが元で、公務執行妨害罪で逮捕までされているというのに。

「おっ!お前ら!」

お前ら?

いや。僕たちは一般市民ですから「あなたたち」でしょう?
とは思いましたが、多少は迷惑かけた、ということで、会釈でもしようと自転車を停めました。

すると

「停学とけたのか?はえーなぁ」

「はぁ。おかげさまで‥‥‥‥」

そのやりとりは、まるで網走刑務所からシャバに出て、自分を逮捕した刑事と高倉健が、偶然やきとりの屋台で再会した時のような会話でした。

「学校もあまいなぁー」

 カッチーン。

と、全員がその言葉に反応した時、その奥から、若い奇麗な女性が現れました。
なんていうか、血気盛んな我々には、シルビアクリステルか竹下景子さんみたいに映りましたが

なんとこの女性がこの駐在の奥さん!

ビックリ!

奥様は僕たちににこやかな笑顔で挨拶してくださいました。

すると駐在(すでに呼び捨て。美人の奥さんってのが気に入らない)、

「ほら。こないだの高校生だよ」

「あー、自転車の?」

 クスクス‥


え?奥さんも知ってるわけ?
ベラベラしゃべってくれちゃったの?駐在(呼び捨て)。


この彼女のくったくのない「嘲笑」が、けっこうショックでした。
しかも彼女の口からは、さらに信じがたいショックな言葉が出たのです。

慶応のボート部って子たちね?」

 づが~〜〜ん

よりによって、あんなくだらないギャグまで夫婦円満のネタにされていようとは‥‥‥‥‥!
(ここでこの会話を謎に思われた方は『俺たちは風』を復習してきてください)

すると、ツレが

「早稲田ですよっ!」

いや‥‥‥‥。だから恥の上塗りしてどうする?

「まぁ。それは失礼」

彼女の笑顔とその唇からもれてくる言葉は、おおよそこの爬虫類に毛のはえたような駐在とは、とうてい釣り合わぬものでした。

え~!この美人な奥さんが、この爬虫類とあんなことやこんなこと
会話こそしませんでしたが、その日、そこにいた4名の仲間は、みんな同じことを考えていたに違いありません。

僕たちは、この奇麗な奥さんと、爬虫類な駐在に挟まれて、半分笑って半分怒っている、なんとも奇妙な表情、言ってみればアシュラ男爵みたいになっておりました。

あしゅら男爵<あしゅら男爵=
マジンガーZに登場する悪者の中間管理職。
体が左右で人格も性別も違う。
いわばニューハーフの未来型>




が、駐在。
なにやら奥さんとの「楽しみ」が待っていたのか、

「ほら。お前ら、遅刻するぞ!」

と、僕たちに登校をうながすのでした。

「じゃぁ、しつれいしま~す‥‥‥」
奥さんに「だけ」挨拶をして、ペダルをこぎ出す僕たち。

僕たちは、自転車を走らせながら

「許せねぇ!」

この「許せない」半分以上は、美人な奥さんがいることに対してである、ということは、すでに無言で理解しあえている僕たちでした。
しかし、戦争の大義名分の裏側には、たいていこういうしょーもないことが隠れているものです。


    第2話へ続きます


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1章 目次


第2話 俺たちはカメ(2)


数日ぶりに学校に到着した僕たちは、停学にならなかったメンバーと再会を喜び合いました。

しかし、1名だけ、まだ停学の解けていないヤツがおりました。

『俺たちは風』で、全ての発端となった、原付バイクでスピード違反した野郎「西条くん」です。

公務執行妨害はチャラになりましたが、あきらかな道交法違反をした彼は、我々のオチャメな停学より期間が長かったのでした。

とりあえず我々は、こいつの陣中見舞い(情けない陣中ですが)に行こう、ということになりまして、家庭訪問。
今思えば、20人近くの人数が押し寄せられるご家族も迷惑な話です。が、当時僕たちは、こうしたすべてが「おじゃまします」の一言で解決するものと信じてうたがいませんでした。
ほんとに「じゃま」です。

「おれ、まだ悔しいよ」と、西条くん。

そりゃそうだろう、と同情しながらも、僕たちは駐在さんの超美人な奥さんに会ったことを話してしまい、彼の「怒り」に油を注いだのでした。

彼は、16年ほどの人生でもこれほど怒ったことはないだろう、というほどに激昂いたしまして、駐在さんの暴言と停学をくらったことに対し、なにか復讐はできないか?と持ちかけてまいりました。
逆恨みもはなはだしい、と言うか、美人な奥さんがいることに怒りの70%くらいが向いている、というのは、誰の目にもあきらかでしたが、「復讐」という言葉に、僕たちははてしなく魅了されておりました。

そこでみんなからは様々な「復讐案」が出されたのですが(思えばとんでもねー高校生です)、この速度違反で捕まったヤツが、とにかくどうしても「レーダー測定」にこだわるわけです。気持ちは理解できます。

「じゃぁ、自転車は軽車両でダメなんだから、徒歩ならどうだろう?」

この発想の豊かさ! と言うか貧しさ?

というわけで、我々は、再び、「徒歩」で、レーダー測定に挑むこととなったのでした。
馬鹿だなぁ・・・・・・。

「しかし、人間はレーダーには反射しないだろう?」という、実に高校生らしい、中途半端な知識によりまして、
では、それぞれが「金属」をまとっていてはどうなのか?という短絡的アイディアが出されました。

 おもしろい!

自転車は金属でしたが、前回、自転車で捕まっているため、これは却下。
我々は翌日から、なるべく大きな金属物を学校に用意することで第一回の戦略会議を終了しました。

実は、この会議以前から、我々には大きな疑問がありました。

まず、交通取締に駐在さんがいたことです。これは交通課の仕事では?
この疑問に、件の警察官の弟が答えました。
「ばかだなぁ。都会ならともかく田舎の駐在なんて、なんでもやんなくっちゃいけないんだぜ」。
この答えに、僕たちは少しだけ胸をチクリとさされたのでした。
ただ、僕たちは、この程度の感傷で、行動をやめるほどにはしおらしくなかったのです。


翌日、僕たちは、おおよそ学業とは関係のない金属物を学校に持ち寄りました。
金属物は巨大であるにこしたことはないのですが、なにしろ電車や自転車の通学ですから、そんなに大きなものがありません。

が、一人だけ「家に飾ってあった鎧兜」というのを持って来た画期的な友人がおりまして、こいつは全員から絶賛をあびました。
あびましたが、金属なのは兜と面だけなのでは?

しかし、鎧兜をまとったやつがレーダー前に立ちふさがる、という図は、思い描いただけでもわくわくするものがありましたから、我々は彼の勇気を賞賛しました。


ところが。その日の放課後、予定外のことがおきました。

「今日、レーダーやってるぞ!」

下校からわざわざ学校にもどってきた友人が報告しました。

これは予定外でした。
なにしろ、まだ計画から1日しか経過していないため、持ち寄ったとは言え、金属物が足りなかったのです。

「こいつは想定外だな‥‥‥‥」

そこで僕たちは緊急召集をかけ、学校にある金属物を借りよう、という結論に至ったのです。

しかし、学校は学業の場所ですから「警察のレーダーを妨害できるもの」といった特集はないわけです。
とにかくでかい金属物、ということで、あれこれ知恵をめぐらせ「音楽部」の楽器に着目しました。

僕たちは、真面目で有名だった「音楽部副部長」を説得し(というか騙し)、トロンボーン、スーザホン(でんでん虫のでっかいような楽器です)、シンバルといった、主立った「金属楽器」を借りました。
さらには、運動部の洗濯用の金ダライ、バトミントン部の「ネット用ポール」など、かき集めまして集合いたしました。
それは、どう見てもチンドン屋です。

しかし、とりあえず金属物は集まり、後は決行あるのみ、でした。
思えば、前回の公務執行妨害から1週間ほどしか経っていません。

しかし「ただ歩いている善良な市民」が、捕まるわけがない、という、前回の自転車より、圧倒的な自信を持ってのチャレンジです。

「さぁ、行くぞ!」


   第3話に続く


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第3話 俺たちはカメ(3)



学校からあの手この手で金属物を持ち寄った僕たち。

しかし、今回は、同じレーダーが相手でも、自転車で挑戦した『俺たちは風』のパターンとは決定的な違いがありました。

言うまでもなく、徒歩なので「スピード違反は不可能」という一点です。

したがって、僕たちの狙いは、あきらかな「レーダー探知」の阻止であり、そういう意味では、実験であった前回よりかなり悪質である、とも言えます。

が、これも言うまでもなく、そんな意識は、僕たちにはさらさらなく、これによって起きることへの期待感で胸を膨らませておりました。
若いってすばらしい!(か?)

しかしまた、前回の自転車の失敗が尾を引いていたことも確かで、下校時刻を過ぎていたこともあって、20名も集まった前回よりは数名人数を欠きました。

それでも、制服姿の男子高校生(鎧兜の1名を除く)が、ゴロゴロ集まっているさまは、そうとうにうざったく、よく見ても、庭の石を上げた時にうごめくダンゴムシの群れ、といったところ。
これが女子1人でもいてくれれば、とたんに青春なんですから、女子ってのは偉大でした。もちろん、こんな悪行に加担する女子などいるはずもありませんが。

さて。ここまで読まれてなお我々の趣旨のわからない方に、本作戦を説明いたします。少し顔をよせてください。

僕たちが金属物を持ち寄ったのは、レーダーのマイクロ波を反射させるためです。
当然、徒歩である僕たちを測定するわけがありませんから、根本的には金属で「立ちふさがる」ことが重要なポイントとなります。

つまり、車が走って来ると、警察はレーダーを照射するはずなのですが、このタイミングと絶妙に合わせてレーダー前を、実にまったりと通り過ぎる、できればそこで立ち止まり、ひとつくらいパフォーマンスする、といったものでした。

僕たちは、スピード違反はおろか、善良な歩行者(か?)ですから、捕まえられるわけがない、というのが作戦の主立ったところです。

通り過ぎた歩行者は、今度は裏路地を全速力でもどりまして、再度、レーダー前を歩く、という半永久運動を繰り返す予定でした。

今回は人数も少なめなので、2名ひと組で行くことにいたしました。

はじめはシンバルとトロンボーン。
その後方10mほどあけて、次の2名。鎧兜と鎖帷子(体中に鎖を巻いた野郎です)。
さらにその後ろに、僕のスーザホンとタライ少年。
もうどこから見ても善良な音楽パレードです!(か?)

ゆっくりと歩み始めた2名は、レーダーより少し手前で停止。

そこに後ろから車がやってきました。
ここは30キロ制限。まぁ、普通の車はそんな低速では走りませんから、したがって、こいつが捕まらなければ、我々の狙いは当たったことになります。

僕は、スーザホンの超低音ラッパで車の到来を知らせました。

 ♪ブオ~~~ン

最前列のシンバルたちは、これを察知するととたんに早足でレーダー前にかけよりました!

期待の瞬間!




 ♪ジャラ~~~ン


シンバルのヤツが、いきなりシンバルを高らかにうち鳴らし、露骨にレーダー前で手を広げました。
それはちょうどバンデル星人みたいな状態。
バンデル星人
<バンデル星人 『キャプテンウルトラ』より>

「あ‥‥‥‥!馬鹿が‥‥‥‥‥!」

レーダーに反応しようがしまいが、突然道路でシンバルを鳴らす、というのは、相当珍しい行為です。

誰だ?アイツにシンバル持たせたの?

車は?

捕まりませんでした。
どうやらシンバルはレーダーのマイクロ波を防ぐようです。知ってもなんの足しにもならない知識ですが。

しかし、もはやそんなことはどうでもいいことでした。
なにしろ、待機する警察の目前で、シンバル打ち鳴らして手を広げたんですから、はじめっから狙いはバレバレです。
パレードのさわぎではありません。

「ばか!もどれ!」

僕たちは、先頭のシンバル隊に、小声で騒ぎ立てましたが、当然聴こえません。
しかたがないので、またスーザホンです。
街中でスーザホンの低音だけが鳴り響く、というのも相当に奇妙ですがやむをえません。

 ♪ブオ、ブオ、ブオ~

さすがにこれには気づきました。
手招きで戻ることをうながす後発隊。

作戦は馬鹿ひとりのために急遽中止です。
大慌てで戻って来るシンバルたち・・・・・。

の、向こうから、もうひとり全速力で走って来る人影が見えました。


駐在さんです。


やべ~~〜。


   第4話へつづく・・・・。


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第4話 伏兵(1)

yoroi.jpg

逃げる逃げる僕たち。
追いかける追いかける駐在さん。

思えば、警察官が走っている横、次から次へ車は通り過ぎるわけですが、そりゃ警官が走っていれば飛ばしません。
シンバルよりずっと邪魔になっているのでは?
そんなことはおかまいなしに、とにかく怒りで全速力の駐在さん!

考えてみると、シンバル以外のやつは未遂ですから、逃げる必要などまったくないのですが、人間、追って来るものがあると逃げます。不思議だね。

しかし、逃げる、と言ってもスーザホンを首からまいた僕はたいへんでした。
音楽部副部長をだまして持ち出した時も「それ、100万近くするらしいよ。気をつけて扱えよ」と、釘をさされておりました。

てなわけで、一番最初に追いつかれたのは、シンバル野郎ではなく、僕でした。

駐在さんが言いました。
「このヤロー!元陸上部をなめるなよ!」

いや‥‥‥、陸上部じゃなくても、幼稚園児でもスーザホン持ってるやつには追いつけますから。

「おまえ、そこに待機!」
と言い捨てるなり、駐在さんはさらにダッシュ!

あっという間に鎧兜、シンバル、タライ、トロンボーンと捕まえまして、またしても5人。
残りは逃亡に成功しました。

いやぁ。初めて見ました。『太陽にほえろ』ばりの逮捕劇。
捕まってるヤツがみんな奇妙ないでたちでしたけど。

駐在さんは、僕たちをひとつところに集めまして、またしても尋問。
捕まったうちの3名までが前回と同メンバーってのもやんなりましたが、それはたぶん駐在さんも同じでしょう。


「はぁはぁ。おまえらぁ。そろってなにやってんだ? あ?」

顔を見合わせる僕たち。
とにかく、尋問やら説教やらは、もう馴れきっている僕たちでしたから、駐在さんよりは一枚上でした。

「いや・・・今、友人の葬儀に参列するところです」

「ほぉ。シンバル持ってか?」
宗教上のことですから」

「じゃ、このタライはなんだ?」
ご遺体を洗うんです」

「なんでお前こんな格好してる?」

鎧兜少年に、あまりに当然な質問です。

「いや・・・葬儀の正装ってよくわかんなくて。 それで家で一番立派な服を・・・」

ああ。そりゃ立派ですとも。これ以上はありません。

この画期的な受け答えに、僕たちも思わず吹き出してしまいました。


「ほぉ。 誰が死んだんだ?言ってみろ!」

というか、いいかげんここまでつきあっていただかなくてもよかったんですが

「西条くん(仮名16歳)です。おしいかたを亡くしました」

西条はバイクで停学になったこの争いの超本人(ちょうが違うとつっこまないでください。意味として超なんです)。

「だいたいなぁ。お前らは停学とけたばっかりだろ?」
「ええ。人の生き死にはわからんものです」。

ここまで聞いて駐在さん。

「おまえら。警察にうらみでもあるのか?」

あるに決まってるでしょう。すでに停学くらってるのに。まぁ、しかけたのは僕たちですけどね。
逮捕までしといて、抜けた質問としか言いようがありません。

しかし、鎧兜にスーザホン。尋問する警察官。
まわりからは、どう映っているのでしょう?不思議です。

「おまわりさん!」

「なんだ?」

「こいつ(シンバル男)はともかく、僕たちは、なんにもしていませんけど。スーザホン持って歩いてちゃいけませんか?」
「ぐ・・・」

逆襲開始です。

「やろうとしてただろう?」

「それはおまわりさんの憶測というもんです。想像で人を捕まえないでください」。

「ぐ・・・・」

「こいつ(シンバル男)にしたって、たまたまあそこでああしてみたくなっただけで、ただの歩行者じゃないですか」。
普通 ああしてみたく なりませんけどね。

「ぐ・・・・」

快心の一撃。おまわりさんHP -100ポイント。

ところが!

ここで思わぬ伏兵が現れてしまいました。

それは通行人Aです。
通行人Aは、ちょっと目立っていた僕たちをじろじろと見るなり、突如、思い出したように声をかけてまいりました。

「お。孝昭(仮名16歳)じゃないか?なにやってんだ、お前」

「え?」

それはシンバル男の叔父さんでした。
親族が現れるという想定外の展開に我々はとまどいました。
ああ・・・。これだから小さい町はいやなんだ。


  第5話へ続く・・・・・


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