ぼくたちと駐在さんの700日戦争

翌日。薬屋さんにて。

「えー。もうケロちゃんはさすがにないなぁ」。
薬屋のご主人です。

「玄関先にあるじゃないですか」。

「バカ言え。あれは現役だからやれないよ」。

「そっかぁ。残念だなぁ」。

僕たちは交機への復讐として、どうしてももう一体、ケロちゃんか、サトちゃんか、ピョンちゃんが欲しかったのですが。

するとご主人。思いついたように
「あ！そうだそうだ。あれなら持ってってもらっていい」。

と、店の裏側からなにやらデカイのを持って来ました。

「げ！これ気味悪いんですけど」。

それは。なんだか知らないけど、筋肉だけがむき出しにされた人体模型。しかも首から上がありません。
まー。理科室にだってこんなのはないぞ、ってくらい気味悪い。

「だろう？これね。シップ会社が持って来たんだけど、店頭に置くにも店内に置くにも気味悪くってねぇ」。

「シップ会社・・・。ああ。それで頭がないのか・・・」。

「じゃ。今日はこれ持ってって」。
平然とご主人。

「いや。持ってってって言われても・・・」。

「え？廃品回収だろ？」

そっか。そう思われてたわけか・・・。
それであんなに簡単にケロちゃんもくれてよこしたんだ・・・。

というわけですさまじく気味悪い首無し人体モデルをあずけられた僕たち。
街中を持って歩いているというだけでも、みんながぞっとした目で見ています。

「どうしよ？こんなものもらっちゃって・・・」。
「ケロちゃんならともかく、これ後部座席に突然載ってたら、心臓止まるぞ」。

僕たちの「パトカーにケロちゃん搭載計画」は、すっかり勝手がちがってしまいました。

これではあまりに怖すぎる、というので、のっぽさん部隊総動員で「ケロちゃんの頭だけ」つくり、この人体像にくっつけてみることにしました。
少しでもショックをやわらげよう、という心遣いです。

が・・・

「おわ～～～～。もっと不気味じゃん」。
「ほんとだ・・・こんなの転がってたら事件だって」。

なにしろ筋肉ズリむきだしの人体に、頭だけケロちゃん！
シュールなんてもんじゃありません。見れば見るほどに不気味。

「うーん。五十嵐さんって心臓ちっちゃそうだからなぁ」。

これで心臓マヒ等おこされては困る、
というので出した結論が

「とりあえず心臓の強そうなヤツで試そう」。

でした。

僕たちは不気味この上ない人体模型を毛布にくるむと、町で一番心臓の強そうな男のところに向かいました。

そうです。駐在さんです。

まずはシビックパトカーのドアを開けなくてはなりません。

「駐在さ～ん。シビックパトカーのメーター直しに来ましたよ～」。

「おお。さっさと直せ！バカ野郎」。

「はいはい。すぐに！」

鍵を預かると僕たち。メーター直しはそっちのけで、ケロちゃん頭の人体模型を横倒しにして後部座席に積み込みます。

「足。おさまなんないぞ」。
「折っちゃえ！そんなもん」

どんどん不気味さをましていく人体模型。

「重しはこんなもんかなぁ」。
「ルームミラーにうつる？」
「あー、もうちょい上まで起きるようにして」。

さらに下部におもりを付け、それを後部座席に少しだけ乗せ、走り出す衝撃でクルっとななめに起き上がるように設定。
細工は上々です。


僕たちは駐在さんがパトロールに出かけるのを待ちました。
タイムテーブルでは午後4時には必ず見回りに出かけるはず。

「お。きたきた」。

予定通りです。

シビックパトカーに乗り込む駐在さん。
身を潜める僕たち。

　ブルルルン

エンジンがかかって

　ゴト

っと人体モデルが起き上がった音。

「おわああああああああああああああああああああああああああああ」


「ダメだな」。
「うん。五十嵐さんじゃ耐えられないや」。

よかった。試して。






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