ぼくたちと駐在さんの700日戦争

"西条が奈々に触れると、奈々はすでに濡れそぼっていた。奈々は始めこそ拒否していたがやがて・・・"

「なにブツブツ言ってんの!?」
西条くんを睨みます。

「あ。いや。イメトレだよ。イメトレ」。

「イメージすんなーーーーーーーーー！」

西条くん。わずかな移動中ですでに2発目。
うーん。バナナちゃんのお怒りごもっとも。

「ったく。あんたたちどこまでスケベなわけ？」

いや・・・あんたたちって。西条と一緒？

「お前のせいで一緒くただ」。

「え？お前ら考えてなかったの？」

「はぁ？」

「あの”くっきりブラ紐”見て」。

「バカ！口に出したらバレるだろ？」
「黙って観賞しろ！バカ！」

「バカはあんたらだーーーーーーーー！」

3発めは、全員に命中。

「あぁ・・・変態から助けてくれたのが変態高校生だなんて・・・」。

ここでも変態扱い？

「どーもすいませんでした・・・」。

あやまったら認めたことになるだろ!?なぁ？

とうとう
「も～～～！あんたたち、あたしの前歩いて！」

「は～い」「は～い」「は～い」

ほらみろ・・・。

「くそぉ・・・せっかくの”くっきりブラ紐”が・・・・」。
「口に出すからだろ？」
「バカだなぁ。黙って観賞してればいいものを」。
と、再び口に出してグチってますが。

「ふふふ。しかしわたしは心の印画紙に焼き付けてあるのだよ」
「おぉ！出たな？西条！心の印画紙！」

「こうやって目を閉じれば、さっきの"透けブラ"がきっちりと目の前に・・・」。
「おお・・・・」。

とたんに「心の印画紙講座」が始まり、歩きながらも目を閉じる西条くんたち。

「みんな見えるか？雨にうかびあがるあのかわゆいイチゴ柄・・・」
「おお。なんか見えて来た気がするぜ・・・」。

「首元からなだらかな曲線が続いて・・・」
「おおおおおお・・・」。

「胸元にプチフリル！」
「フリル！」
「フリル！」

「山あいに広がるイチゴ畑！あぁ！すとろ～べり～～♪」
「すとろ～べり～～♪」
「すとろ～べり～～♪」

顔を真っ赤にして前にしゃしゃり出るプンプンのバナナちゃん。

目を見開くと西条くん。

「ほら。まるでそこにあるかのようだ！」

あるんだよ・・・。
指差すなよ・・・。

バナナちゃん。キレました。
「全員整列ぅぅぅっ！」

「はい・・・」「はい・・・」「はい・・・」「はい・・・」

4発めは強烈でした。

「うう・・・イチゴ白書をもう一度・・・」。

「まだ言うかっ！」


＜いちご白書をもう一度=バンバンの大ヒット曲。作詞作曲はご存知ユーミン。後に本人によるものもリリースされた＞

しかし僕たちが冗談混じりでいられたのはここまででした。
僕たちが前を歩いていたばかりに、
バナナちゃんよりも先に、目に入ってしまったものがありました。

「な・・・なんだこれ・・・・・」

僕たちがBJの診療所で最初に目にしたもの。
それは驚愕というか、驚きを通り越していました。

『迷惑どーぶつえんはこの町を出ていけ！』
『他人の迷惑を考えろ！』
『騒音異臭動物病院を追い出そう！』

乱暴に貼られたビラの数々。
そこに赤いマジックで書きなぐられた言葉の暴力。

実は僕たちは、こうした手合いのものが初めてではありません。
そうです。坂本家に貼られた金融屋のビラも同じようなものでした。

「あ！いつの間に！」

バナナちゃんがあわてて前に出て、乱暴にビラをはがしました。
それはかなり強固に貼られているようでしたが、この日が雨であったため、ピラピラと剥がれされていきます。

よく見ると、他の壁にも、すでに剥がされた後があって、これがずいぶんと続いた「イヤガラセ」であることが、容易にわかりました。

「やなもの見られちゃった・・・」。

が。久保くんがいち早く
「あ？どってことねぇよ。俺たち見慣れてるもんな」。
「ああ」。
「仲間んちもやられた」。

「え？そうなの？」

実は全員驚いてはいたのですが。
久保くんにしては気の利いたなぐさめでした。

「ありがとう・・・ミッチェルくん・・・」。

「ミッチェルって呼ぶなっつってるだろ!?」

「あら。素敵なのに」。

「るせーーーー！」

「実はうちにもいるのよ。ミッチェル」。

「はぁ？」

「犬。雑種だけどねー」。

「ざっしゅ・・・・」。

僕たちに笑いがもどりました。

そのビラをまるめてしまおうとしたバナナちゃんを僕が止めました。

「それ。もらえる？」

「え？このビラを？」

「ああ。犯人。わかってるのか？」

「え・・・。まぁね。おおよそ・・・・」。

「さっきの襲ったやつらと関係あるんじゃないの？」

「わかんないけど・・・たぶん・・・」。

「じゃ、証拠物件だもん。とっとかなきゃ」。

「いいけど・・・」。

バナナちゃんは、とまどうような素振りで、イヤガラセビラを渡しました。

「ありがと。明日井上あたりに見てもらおう。あと駐在さんと」。

「ちゅうざい、さん？」

「うん。僕たちの地元のね。乱暴者なんだけど」
「そうそう。傍若無人警官」。
「横暴警察官」。
「公務員の恥」。

好き放題。

「だけど、たよりになるんだ。これが」。

バナナちゃんは
「うん。けど、かかわんないほうがいいよ」。

と言うと、柴犬をしまいに行きました。


僕たちが通されたのは診療所のほうでした。

季節的には少し早いものの、服をかわかすために、バナナちゃんがストーブを出してくれました。
なにしろ全員ずぶ濡れです。

診療所の時計だけが、コチコチと音をたて。あとは静寂の時間が流れていきます。

「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」

誰もなにも話そうとしません。

「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」

そこへ、バナナちゃんがコーヒーをいれて運んできてくれました。

「あら？どうしたの？みんな静かになって・・・」。

「いや・・・」。

バナナちゃんは気まずそうに

「やっぱり。さっきの、ショックだった？あたしなんかもう慣れちゃったけどね」

割り切ったように言うバナナちゃん。
しかし耳を澄ますと

「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・すとろ～べり～♪」
「・・・・すとろ～べり～♪」

「あーーー！また妄想してたのかーーーーーっ！」

「いや。人聞きわるいなー。思い出してんだってば」。
「そうそう」。
「いちご畑」。
「そうそう」。

「なおさら悪いっーーーーーー！」

「バナナなのにイチゴ・・・」

「やかましーーーーーーーーー！」



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