ぼくたちと駐在さんの700日戦争

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＜本日フィナーレ。2話連続です。第112話からどうぞ＞

「なに言ってんの。千晶くんらしくもない」。

ちあ・・・き？

僕たちは一斉に振り向きました。
なぜなら、チャーリーを千晶と名で呼ぶものは僕たちにはいないからです。

「千晶くんなら直せるよ」。

そうです。それは

「わ、わ、わ・・・・わた・・・・・」

「渉！」
「渉くん！」
「渉くんじゃないか！」

「どうしてここに・・・・」。

その答えはすぐにわかりました。
渉くんの、その後ろに。
日産バイオレットが停まっていたからです。

「駐在ぃ！」
「駐在さん！」

「ん。検挙してきてやったぞ。ママチャリ。ありがたく思え」。

「駐在・・・・さん・・・」。

「どうせお前らじゃ道に迷うのが関の山だからな」。

「ケンカはよかったの？止めなくて」

「あ？今頃は、もう坊主の出番だろ？」。

渉くん。
「今日、おまわりさんがたずねて来て。千晶くんが名古屋に来てるからって。それで僕・・・」。

「わ・・・わた・・・わた・・・・・」。
チャーリーはまだ言葉になりません。

やがて

「わたるぅーーーー、わたるぅーーーーーー」。

意味もなく繰り返すチャーリー。
おそらく他の言葉が思い浮かばないのでしょう。
小さな頃から、兄弟のように育った2人。そして最悪の別れ方をした2人。

「千晶くん。完成したんだね。スティングレイ・・・やったんだね」。

こくこく、と、涙も拭けずにうなづくチャーリー。

「チャーリー、よかったなー」。
「ほんと。よかったな。チャーリー」。

「ああ。みんな・・・ありがと。あの・・・駐在・・・ありがと」。

駐在さんは、チャーリーの頭をポンポンとたたくと、再びバイオレットに乗り込み

「今度こそ帰るからな。葬儀に出席しないといかん」。

「はい！ありがとうございました！」
「駐在、さんきゅーなーーー」
「気をつけて帰ってくださいね」。

渉くんも
「おまわりさん。ほんと、ありがとうございました！」

チャーリーは、涙と汗と埃でよごれた顔を拭うと

突然

「渉！すまなかった！この通りだ！」

渉くんに土下座しました。

「千晶くん・・・・」。

「俺。ガキで。なんにもわかんなくって・・・その・・・」。

「・・・千晶くん・・・」。

「お前のこと疑って！そいでそいで、その泥棒扱いまでして。俺・・・俺・・・・」

「すまなかった！」

「いいんだよ・・・千晶くん・・・・」。

「だから、だから俺・・・スティングレイ完成したくって・・・なのに・・・・」。

「いいってば。立ってよ。千晶くん」。

僕たちは
「チャーリー。いいじゃん。とりあえず立てよ」。

首をふって土下座のままのチャーリー。

「いや、チャーリー立たないと・・・」

そうです。

この感動的謝罪の場面を見逃さなかったのが

　サチコ！

サチコは土下座姿勢のチャーリーに敏感に反応。
とたんに馬乗り！

「うわ～～～～井上～～～～サチコなんとかしてくれ～～～～」。

「だから立てって言ったのに」
「うん。バカだな。チャーリー」。
「目に見えてたな」。

「サチコ～～～～セット～～～～セットだ～～～～～」。

チャーリーが見つかってうれしかったのは、どうやら僕たちだけではなさそうです。

「腰ふるな～～～～バカ～～～～～」。


僕たちは、渉くんの誘いで、西尾市の彼の家をたずねることにしました。
渉くんはその後、整備学校へと進み、現在、お父さんの整備工場を手伝っていると言うのです。

「そっかぁ。叔父さん、工場もう一回やれたんだ」。

「うん・・・名古屋の叔父さんが。歳だからやめるっていう工場紹介してくれてね。そこの後を継ぐ形で」。

「よかったぁ。叔父さんも元気？」

「うん。元気。実家の・・・おばあちゃんは亡くなったけど」。

「そうだったか・・・」。

チャーリーは、おそらく750貯金にあった、おばあちゃんの2万円を思い出したのでしょう。
また少し落ち込んだようでした。

その日は休日とあってか、渉くんの工場のシャッターは降りていました。

「あのね。千晶くん、それからみんなにも、見せたいものがあるんだ」。

そう言って渉くんがライトをつけると

そこにあったのは

「ス・・・・・・」

「スス・・・・・・」

「ス、スティング・・・・」

チャーリー。
「これ！スティングレイじゃん！」

それはまぎれもなくスティングレイでした。
いいえ。正式には、

「スティングレイ2だよ」。

「な、な、なんで・・・・・」。

「僕もね。こっち来ても千晶くんとの夢、忘れられなくって・・・」。

そうです。
渉くんも、チャーリーとまったく同じように、
チャーリーとの再会のために、スティングレイ2を

「こんな偶然って・・・」
「すごいな・・・・」。
「ああ。すごすぎる・・・・」。

奇しくも遠く離れた所で、2人は同じ夢をつむいでいたのでした。

渉くん。
「こっちのは・・・250ccだけどね。やっぱすごいや。千晶くん、750積むなんて」。

「渉・・・・・」。

僕たちは、その強い友情と夢に、身震いさえ覚えていました。

チャーリーは渉くんのスティングレイをなでながら、

「すげぇよ。渉・・・すげぇ」。
何度も何度も繰り返します。

西条くんが言いました。
「チャーリー、これでスティングレイ2、2台になっちゃったな」。

すると渉くん。
「ううん。スティングレイ2は、やっぱり千晶くんとこのだよ。ぜったい」。

「そっか」。

「うん。僕、こっちには別の名前つけることにした。もう決めた」。

「なんてつけるの？」

「これはね。チャーリー号」。

チャーリーは照れくさそうに笑いました。

「チャーリー号かぁ」。

「うん。千晶くんのこと、みんなそう呼んでるんでしょ？」

「ああ」「うん」「そう」。

渉くんは満足げでしたが
「でも。なんでチャーリーなの？」

これには誰も答えられない僕たちでした・・・。




この時、チャーリーがスティングレイ2の750エンジンを、渉くんにあげてしまったため、

その後スティングレイ2が走ることは、二度とありませんでしたが

今もあの山奥の小屋の中

もう一度、みんなと、あの東名を走ることを。

夢見ているのかもしれません。



　　　---　12章　『走れ！チャーリー号！』　完結　---



　　　長い間ありがとうございました。


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