ぼくたちと駐在さんの700日戦争

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すでにまわりには十数台のトラックの群れ。
映画『トラック野郎』が流行ったこともあり、ハデハデなデコトラ(デコレーショントラック)もたくさんいました。

こうして、前にトラック4台。後ろに10台以上のトラックにはさまれ、僕たちは出発しました。

スティングレイには、当然チャーリーが乗り込みました。
この時点で、スティングレイの前輪は、ダブルキャブのリフターに乗ったままです。

僕の考えた対策は、実は「牽引」でした。
牽引されている「故障車」には、ナンバーがいりません。
途中、リフターから前輪を降ろし、今度はロープで引いて牽引します。
故障車牽引の場合、牽引ロープ真ん中と、車両の後ろに赤い布をつけることが義務づけられています。これを初荷の旗をやぶって作りました。

荷台には怪力千葉くんが、スティングレイのロックをはずすために待機していました。

こうして牽引を続け、ある程度のところでロックをはずして自走させよう、というもの。
これには前輪に負担をかけない、という目的もありました。いくら農道を走って無事だったとは言え、故障がおきれば命さえ危ういからです。


走り始めた僕たちのハンディ無線機に、明星さんから連絡が入ります。

”こちら～～明けの明星～～～兄ちゃんたち～～～。聴こえますか～～～どうぞ？”

これに調子を合わせて西条くん。
「あ～～～。こちら兄ちゃん～～～。聴こえます～～～。どうぞ？」

どうでもいいけど「兄ちゃん」がハンドルか？

”後続～～～。来なくなったら後ろ車線ふさぎます～～～。そしたら走ってください～～～。どうぞ”

ありがたい！

CB無線には、後ろの状況がちゃくちゃくと入って来ます。
すでに2時をすぎた高速は、かなり空き始めていました。

"あ～～～。いま～～～追い越し車線を行くファミリアが最後尾～～～～～"
"りょうかい～～～。ファミリアすぎたら～～～。車線ふさぎます～～～～"
”こちら明けの明星～～～。了解～～～～～。兄ちゃん、聴こえましたか？どうぞ～～～"

「こちら兄ちゃん～～～。聴こえました～～～～。どうぞ」。

西条。だから「兄ちゃん」ってハンドルはおかしいぞ。

そして最後のファミリア通過！

これを合図に、後ろのトラックが全車線を並走してふさぎ、速度を落とすとはるか後ろへと下がって行きます。
同時に前のトラックが速度を上げ、そこには

まるでサーキットのような直線が広がりました。

"前方～～～～。視界よ～～～～～し。90キロで走行～～～。どうぞ～～～”

来た！

とうとうこの時です。

「いよいよだ！」
「よし！」

僕たちは荷台の千葉くんに合図。
これを受けて千葉くんが鉄パイプで組まれたロックをはずしました！

　キキキキキキキ！

道路にひきずられるパイプの端がすさまじい火花を放ちます。
これを上へとひきあげる千葉くん。

「アチッ！」

千葉くんのあわてた様子がつたわりましたが

　すっ・・・・・・・

スティングレイがわずかにバウンドしながら地面に降りました。
今度はスルスルとロープが伸び、スティングレイが離れていきます。

前方を守っていたトラックから連絡が入ります。

”間もなく～～～～あと4キロでサービスエリア～～～～。どうぞ～～～”

”りょうかい～～～こちら明けの明星～～～。兄ちゃんたち！いけ～～～～～”

「いまだ！チャーリー！5速に入れろ！」

トラックの爆音が響き渡る中

　ルルルルルル・・・・・

まるでオートバイのような音がそれに混じって聴こえて来ました。
スティングレイの750エンジンがとうとう吠えたのです。

「行け！チャーリー！」
「行けーーーーーー！」
「行け！スティングレイーーーー」
「走れ！チャーリーーーーーー！」
「走れーーーーーーーー！」

　クォォォォォォォォォォ

千葉くんがロープをほどき、この時スティングレイはまさに

自分で東名高速道路を走ったのです。
自分のエンジンで。
自分の力で。

チャーリーは、トラックに守られた追い越し車線に入ると、僕たちに拳を高く高く上げ、合図しました。

　すごい・・・

「すげ・・・チャーリー・・・・」。
「うん。うん。すごい・・・」。
「すごすぎるよ。チャーリー」。


”兄ちゃんのくるま～～～。走りました～～～。どうぞ～～～～”
”こちら最後尾～～～。80キロで後続ありません～～～。どうぞ～～～～”
”前方視界よ～～～～～し。90キロです～～～～。どうぞ～～～～"

この連絡と同時に

トラックの運転手さんたちが、いっせいに

パパパパパパ
　パパパパパパ
　　パパパパパパ
パーパー
パーーーーーーー

クラクションを鳴らしました。

けたたましいクラクションの拍手に包まれながら、チャーリーは最高速度105キロをマークして。
やがて速度を落としていきました。
これ以上の無理は危険と考えたのでしょう。

それは本当に一瞬のことだったのですが
僕たちには、ものすごく長い距離に感じました。
まるで永遠とさえも。

「おい。見ろよ」。

「ん？」

「海だ・・・・・・」。