ぼくたちと駐在さんの700日戦争

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「八～田～く～～～～ん」。
「え～り～な～ちゃ～ん」。

インターロッキングの歩道。
ガソリンスタンドの前をカップルがひとつのソフトクリームを舐め合いながら歩いています。
実に微笑ましい。

「ラーメンでも食べていこうかぁ」。
「そうね～。じゃ、そうしましょ！」

ソフトクリーム食べ合いは、言うまでもなく間接キッスの極致。
少しむかつきますが。
幸せそうです。


と。西条くん。陸上部で鍛えた足で、いきなり車を飛び出しダッシュ！

「あ！やばい！孝昭！止めろ！」

が時すでにおそく

ブバ～～～～～～～～～～～

「キャ～～～～!!なになになに？この子!?」

西条くん。仲良しカップルの前でいきなりゲロ！

そうか。西条。これを待っていたのか・・・。
このためにずっと耐えてた？

村山くんのトレノは2ドアなので、後部座席から追いかけた僕たちは遅れをとりました。

ゲロ吐き後の西条くん。

「あ～～～。すんません～～。あ！ナルト・・！」

ナルトじゃねぇよ・・・。

孝昭くんがようやく追いつき

　フォロー

するわけがないのでした・・・。

「ああ。ごめんごめん。こいつ、生き霊につかれてて・・・」

「い、生き霊？」

「そう。別れた彼女の怨念が」。

「わ・・・別れた・・・」
男性の方はシャレにならないようです。

「うん。女ってのは怖いよね。これエクトプラズムなんだよ。エクトプラズム」。

「え・・・えくとぷらずむ・・・ナルト入りの・・・？」。

西条くん。

「そうなんです・・・すいませんね・・・・ああああ！もう許してくれぇっ！俺が悪かった！ゆかりっ！」

　ゲロ～～～～～～～

よく吐くのにあんな台詞言える余裕があるな・・・。

車酔いさえ攻撃に利用するあの闘争本能。たいしたもんです。

「ああ・・・今度はシナチクが・・・・エクトプラズムに・・・」。

食料事情がわかります。

「ラ・・・。ラーメン・・・やめようか・・・。えりなちゃん・・・」。
「そ、そうね・・・」。

災難以外の何者でもありません。



「西条～～～～。なんだってまぁ、あそこまで・・・」。

「おお！カップルは敵だっ！」

「ああ。かまわないけど場所選べよ」。

そうです。西条くんがエクトプラズムしたのがスタンド前であったため、僕たちはその掃除を要求されたのでした・・・。

「こんなよその市まで来て掃除だぜ？」
「しかもお前のゲロ」。

「まぁまぁ。ナルト、喰うか？」

「喰わえぇよっ！」


「あー。でもあれだろ？お前、和美のナルトなら喰うだろ？」

どういう質問だ・・・。

が、僕もつい考えてしまいまして
「う～～～～ん。く、喰えるかも知れない・・・」。

究極の「愛の質問」？

「ほらみろ～～～～」。

なにがうれしいのでしょうか？西条くん。
なにがほらみろ？


村山くんは、やむを得ず、お詫びも兼ねてここでガソリンをつめました。

なにやら店員さんと話していた村山くんでしたが、しばらくして車にもどり

「虹色家族、どこだかわかった」。

「ほんとか？」

「すぐ近くだ。けっこう有名らしいぞ」。

「へぇ・・・」。

「ここのスタンド、お得意らしくってあまりしゃべらなかったけど・・・」

「うん」。

「評判はよくないみたいだね」。

「ふうん・・・・」。

「よくそんなことまで聴き出せたね」。

「ほら。ほとんどバイトだろ？スタンドは。無責任なもんさ」。

なるほど。


そしてトレノは、そこから一つ目の交差点を左折し、どんどん奥地へと進んでいきます。
これといった宗教的なものは目につくこともなく、僕たちはしばらくそれを発見できませんでした。

「おかしいな。バイトの話だと、このへんなんだけど・・・・」。

車を降りる僕たち。
まだナビゲーションなどほど遠い時代。場所さがしは本当に大変でした。

「うん。間違いない。ここいらだ」。

スタンドのバイトくんの描いたメモとにらめっこする村山くん。

「あ。あそこじゃねぇか？」

孝昭くんがすぐ左手側に見えた大きな家を指差しました。

「え。でもあれ、普通の民家だぜ？」

しかし。その家は尋常な大きさではありませんでした。
まわりを高い塀で囲まれたその家は、一見するとはぶりのいい農家にも見えないことはありません。

「井上んちよりデカい？」

「行ってみよう！」
「おお！」

車を移動させる村山くんを残し、僕たちは走ってそこまで行くことにしました。

「ウワ～～～．近くに寄ると塀高いなぁ～～～」。

そうです。2m以上ある漆喰の塀は、威圧感さえありました。

「みんな！耳を澄ませ！」
「ん？」

「ほら。太鼓の音・・・」。
「あ。ほんとだ。かすかだけど」。
「間違いなさそうだな」。
「ああ」。

僕たちは確証を持ちました。おそらくここが『虹色家族』に違いありません。

「入口どっちだ？」

「さぁ・・・。でも宗教ってゲンかつぐから東か南じゃないかな」。

「あ。なるほど」。

しかしそこまで移動することさえ、たいへんな距離です。
庭は500坪～1000坪近くあるのではないでしょうか。

「儲かってやんなぁ」。
「うん。ますますあやしい」。
「宗教ってそんなに儲かるのか？」
「ああ。税制、超優遇されてるからな」。
「へぇ・・・・」。

と、僕たちが門にさしかかる前に

「お前ら。なにやってんだ？」

聞き覚えのない、低い声が僕たちを制止しました。



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