ぼくたちと駐在さんの700日戦争

”電話は居間にありますからーーー。どうぞあがってくださーい”

「だ、そうです！じゃ、先輩。お願いしますね！」

「わかったわ。・・・・・それじゃ、すみません。おじゃまします」

”どうぞどうぞー”

＊＊＊＊＊＊＊＊＊

数ヶ月もの間、虎視眈々と準備をしていた右京先輩に対し、

カレは、あまりに「丸腰」だった。

その上で、わたしとも幾度もデートはしていたし、
わたしが「カレ」を公表していたことも、大きな危険に変わった。

たとえ、カレが、頻繁に花ちゃんとのデートを重ねたにしても。
残された時間はあまりにもわずか・・・・。


しかし。カレは、驚きの方法で、

すべてのことをひっくり返す。

それはまるで、劣勢この上なく見えたオセロゲームのように。


＊＊＊＊＊＊＊＊＊

「セイガクぅ・・・、俺、あんまりお前に関わりたくねぇんだけど？」

「まぁ、そう言わずに」

「ったく、テメェのせいでマル暴の飲み代まで負担させられてよ〜〜〜。39万8000円だぞ！ヤクザだってあそこまではぼったくんねぇ！まぁ、ちっとばかし、テーブルやら椅子が割れてたが・・・」

「備品破損すりゃいくだろーが・・・・」

「なんか言ったか？ぁあ？」

「いや・・・・」
「早乙女さん。実は、今日は真面目な用で寄ったんです」

「ほほぉ。真面目な、なあ？　まぁ、一応、聞いてやる。言ってみろ」

「犬見せてください〜〜〜〜〜♪」

「・・・・・小学生か？お前ら」

「いや・・・そうじゃなくって・・・・」



「就職ぅ〜〜〜？」

「ええ」
「前、スカウトしたろ？権藤さん」

「早乙女、な？早乙女。まぁ・・・スカウトするにゃしたが・・・・」
（『走れ！チャーリー号』）

「犬見せてください〜〜〜〜〜♪」

「ああ。いいぞ」

「ありがとう！権藤さん！」
「感謝します！野口さん！」

「いや・・・俺が『いい』って言ったのは犬のほうの話で・・・・」

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊


この数日後、

カレは、まるで宝塚をも彷彿させる化粧を施して登校した。

学校中が驚いたのは言うまでもなく、

「きっさまぁ！なに考えてる！男子も化粧は禁止だぞ！」

「あ。工藤先生。すいません。就職先の都合で〜」

「就職先だああああ？」

「ええ」

もともとは井上くんよりも美形であったカレは、
文化祭の『ロミオとジュリエット』で、ジュリエット役を演じたほどで、
化粧をすれば、丹下くんに勝るとも劣らなかった。

「と、とにかく！化粧は禁止だ！」

「はい。わかりました〜」


その日、校門にド派手な外車に乗ったヤクザ者が迎えに来て。

そのたった1日で、

カレは「就職せずに、ヤクザ者の情夫になるらしい」という噂が

千里を走った。


真っ黒だった盤上が、真っ白に変わった瞬間だった。

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