ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「わたし、犬のとこもどりますから。先輩は獣医さんに電話おねがいできますか？」

「いいけど・・・。犬種も場所もわからないんじゃ、獣医さんも困るんじゃなくて？」

「場所はー、ここから学校のほうにもどったとこの・・・交差点です。ガソリンスタンドのある・・・」

「あー・・・あそこ？ずいぶん遠いのね・・・。それならガソリンスタンドの人が電話してくれてないかしら？」

「それが・・・・今日は、定休みたいなんです」

「え？土曜日なのに？」

「・・・・スタンドよりもずっと手前だし・・・・」

「そう・・・・・」

「もう、死んじゃいそうなんです！早くしないと！」

「でも、公衆電話なんてこのあたりには・・・・」

「そこの家で電話貸してもらいましょう。わたし、たのんでみます！」


「ごめんくださーい！電話お借りできませんか？」


＊＊＊＊＊＊＊＊＊

別に一夜のことだけを責めていたわけでもない。

あの日を境に、

花ちゃんは露骨にカレに接近した。

そうしなければ、早苗さんの策略は意味がないのだから当然だろうけれど。

北女は私立だから、授業が残っていなかった。
自動車学校通いは公欠扱いになるらしく、ほとんど毎日。

彼女は、わざわざ、わたしたちの町の自動車学校を選んだ。

それが、井上くんが公欠している日と重なることに気づいたのは、ちょっと後のこと。


対するわたしは・・・河野くんからも、孝昭くんからも、西条くんからまで「カレに近づくな」と釘をさされていたから・・・・。


ただ・・・花ちゃんと仲良く下校するカレを指をくわえて見ている以外になかった。


それをいきなり・・・・「結婚」って・・・・？

うちの父が猛反対するのも解り切っていて・・・・。

「・・・・マジメで言ってるの？」

「うん。新婚旅行はどこにする？」

そうすれば、

わたしが花ちゃんのことを許すとでも？

「あたしは・・・・こんなこと・・・・こんなこと言ってほしいんじゃない！」


わたしは、若すぎて

カレの考えがまるでわからなかった。



実のところカレは、

わたしのことを「決着」しなければ、就職先も決まらない状態だった。

学校は、進路指導の「実績」に関わるらしく、
日を追って締め付けは厳しくなっていった。

それが解っていたから。なおのこと、
わたしにはつらかった。


一方、かく言う西条くんは、すでに就職先が決まっていた。

彼らが洗車しまくった中古車屋さん。
（『小さな太陽』）

もとから競馬仲間(？)として親しかったらしいが、彼たちがクィーン号を連れてきて面倒をみたことで、なおのこと西条くんを気に入ったらしい。

けれども・・・・・。


＊＊＊＊＊＊＊＊＊

「ジェミー！」「ジェミー！どこにいたんだ!?」

「ここに」

「それはわかってる」「その前だって」

「生まれたのはN市です。次にいたのが東京の麻布でー」

「お前の歴史、聞いてねーよ！」「興味もない・・・・」

「2人だけじゃありません〜〜〜」

「ありがたいけど・・・・」
「何処に行くかわかってんのか？」

「青年の家！」

「・・・・・・・・」「いつまで夏休みしてんだよ・・・」

「だって先輩。あん時は、青年の家の管理人がウチの伯父さんって黙ってたことを、あんなに叱りつけたじゃないですか〜〜〜！」
（『チクリ小町のポーラスター』）

「・・・・・」
「うんうん・・・・悪かったな・・・・。でも、今日は青年の家に行くんじゃないんだよ・・・・」

「じゃー、どこ行くですか〜〜〜〜」

「いいから、ジェミーはついてくんな」
「そうそう。危ないぞ」

「どこ行くか教えてくれるまで、ここを動きません！」

「・・・・・・」「・・・・・・」

「あ〜〜〜〜！どこ行くですか〜〜〜〜〜！」

「ずっと教えねーから」「ずっと動かずにそこにいろよ」

「じゃあ、教えてくれるまで、先輩がたについてきます！」

「・・・・・・」「・・・・・・」

「・・・・どうする？」「教えるしかないだろ・・・。ついて来られちゃ迷惑この上ない」

「そうそう。そうやって最初っから言えば罪悪感に苛まれずに済んだんですよ？」

「く・・・・・・・！」「いちいち腹のたつ・・・・・」

「僕たちは、これから毛利組に行くの！」

「毛利って〜〜〜〜・・・・あ〜〜〜！犬屋敷〜〜〜〜！」
（『風を見た日』）

「犬より先にヤクザだけどな・・・」「なんで犬から思い出すかな・・・？」

「犬屋敷。行きます〜〜〜〜♪」

「教えたんだからついてくんなっ！」

「え？着いてってません〜〜。おんなじとこ歩いてるだけです〜〜。あははは〜〜」

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