ぼくたちと駐在さんの700日戦争

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うわ・・・きっと今、引き潰されたカエルみたいになってるな・・・。

そう思いながらも、足以外にろくに体の動く部分がありません。
最も痛かったのは、殴られた場所ではなく、雪にあたったままの顔でした。


　　なんとか・・・しないと・・・・。


「ママチャリ！ママチャリじゃないか！」

誰？駐在さん？ちがうな・・・。

「ママチャリ、おい！」

それは五十嵐巡査長でした。

「お前。こんなとこで寝てると風邪ひくぞ」

寝てるように見えるか？つくづく能天気な人だな。

しかし、五十嵐巡査長は、いっしょに巡回していたおまわりさんと2人で、僕をパトカーに乗せると、駐在所へと運んでくれました。


「ママチャリィ！！！どうしたんだ！！！！」
駐在さんは予想以上の大騒ぎでした。

「加奈子！加奈子来てくれ！」

奥さん・・・来てるんだ・・・・？

駐在さんは、奥の自分の住居に僕を寝かせると、なにやらドタバタと動き回っていましたが、僕はそれがなにをしているか、まったく確認できませんでした。




あれ？

そこにいるの・・・誰？

明里ちゃん？

明里ちゃんは、僕のほうを見ると、あの時とまったく同じ笑顔で僕に言いました。

「自転車、乗れるようになったよーーー！見ててね！」

「あ？うん」

明里ちゃんが自転車で進み始めます。

それはちょうど・・・・

あ！だめだ！明里ちゃん！それ以上進んじゃだめだ！そっちに行くと

僕は必死に止めようとしましたが不思議に声が出ません。
明里ちゃんはそのまま自転車のスピードを上げています。

そっちにいったら・・・・もどってこれなくなるよ・・・明里ちゃん・・・だめなんだ！





「‥‥‥‥‥‥目。さめた？」

枕元にいたのは、奥さんでした。

「あ・・・・奥さん・・・僕・・・・・」

僕が最初に見たのは、奥さんの顔ではなく、吊り下げられていた学生服でした。

「ああ。あれ、洗っておいたわ。だいぶ嘔吐物、かかってたからね」

奥さん、そんなことまで・・・・。

「す、すいません・・・。でも・・・・なぜ？」

「ああ。たまにもどってくるのよ。あの人、洗濯とか、からっきしだから」

奥さんはつとめて明るくそう言いました。

「なんか、たいへんだったみたいね」

僕はそれには答えませんでした。

「駐在さん・・・は？」

「なんかさっき出てったわ。きっと君のことで確認したいことでもあるんでしょ」

「そう・・・ですか。ご迷惑おかけしちゃって」

「いいのよ」

「すいません。奥さんも大切な時期なのに・・・」

僕は、すっかり大きくなった奥さんのお腹を気にしていました。


「ううん。大丈夫。お花うれしかったのよ。ママチャリくん」

「いえ・・・僕は・・・・・」

「もうね。動くのよ？さわってみる？」

「え？」

奥さんは、なんの躊躇もなく、すでに包帯でぐるぐるまきになった僕の手をお腹にあてました。

初めてでした。妊婦さんのお腹にふれたこと。

そしてしばらくすると。

　コツッ！

奥さんのお腹の中から、まるで僕の手めがけて、小さな衝撃がありました。

「ほんとだ・・・奥さん・・・動いて・・る。赤ちゃん・・・生きてるんですね・・・・」

生きてる。ほんとだ。

「そうよ？ がんばって生きてるんだから」

「生きてる・・・・あ・・あ・・・・う・・・う・・・・・」


僕はそのまま奥さんの膝元に泣き崩れました。




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