ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「あら・・・。どうしたの？また急に」。

「うん。えっとねぇ・・。とっても言いづらいんだけどね・・・」。

「あ。そうだ。今日、君、話題になってたわよ。女子の間で」。

ああ・・・。やっぱし。
たぶん男子の間でも話題になってますけどね。

「なんて言っていいか・・。わかんないんだけど、えっと・・・」。

「なに？」

「まさか男の子に失恋するとは思わなかったな・・・あたし・・・」。

「え！い、いや。それは違うよ。和美。誤解だってば」。

「宮崎さんと噂になった時は、さすがにダメかな、って思っちゃってたけど・・」。

「え！い、いや。それも違うぞ。和美。誤解だってば」。

「1年の丹下くん・・・。確かに見ようによっては素敵だけど・・・」。

「いやいやいやいや。聞けよ！和美！」

「いいと思うわ・・・。いろんな人いるんだもの。愛だっていろんな形があって・・・」

どういう形だと思ってるワケ？？？

「それで？ご用事ってなぁに？」

これで「ブラジャーくれ」って言えたら、相当な神経の持ち主です。

「えっとーーーー。とにかく僕は”女好き”なの！」

まさかまさか自ら「女ずき」などという電話をかけるとは・・・。
いったいなんの電話だったのでしょう？

ジェミ～～～～！


この、和美にとっては意味不明の電話を切った直後、
母が僕を呼び出しました。

「どなたかおいでになってるみたいよ？女の子みたいだけど」。

女の子？

「そう。車で」。

「車・・・」。

僕が外に出ると、なんとジェミーが立っていました。
そして車とは・・・チェリーX1-R。

「早苗姉さん・・・・・」。

「おー！早く乗れ！ちょっと出かけるぞ！」

出かけるぞって・・・。僕の都合も聞かずに・・・。
まぁ、いつものことですけどね。

この一部始終を後ろから見ていた母が

「あら・・・。その方・・・。えっと、たしか・・・琴音さんでしたかしら？」

出た！母の必殺名前スライド作戦！

早苗姉さん、一瞬きょとんとしましたが

「はい～。琴音です～。お母様、いつもお世話になってます～」。

そうです。すでに2つの名前を持っている早苗姉さん。ひとつくらい増えてもどうってことないのでした。
しかも図に乗って

「お母様ぁ。わたし以外のメス猫がつきそうなときは、追い払ってくださいね～。お願いします～」。

母。これが相当気に入ったらしく

「まっかせなさいっ！早苗さんっ」

やっぱ覚えてんじゃん・・・。

ああ・・・僕の青春はいったい・・・・・。



僕はコートを羽織り、早苗さんの車の助手席に。
後部座席に乗り込むジェミー。孝昭くんの姿はありません。

僕が助手席に座ると、早苗お姉さん。

「女ったらし！」

なんだ・・・それ・・・。

「よし！10時10分！」
バオオオオオオオオオオオオオオオオオ

さすがに早苗姉さん。美奈子さんとは、まったく違います。

車はとたんに80km/h

まぁーはえーはえー。だいじょぶなのか？ド初心者。

って、大丈夫なわけはないのですが。

「ど、どこ行くんですか？早苗姉さん」。

「あ？右京ってやつに会いにな」。

「右京に会いにって・・・。わかるんですか？場所」。

「ああ。今日、礼拝会がある教会は一ヶ所だけだ。そこしか考えらんねー」。

「そ、そうですか。でも、あの、スピード落としたほうがよくないですか？」

「あ？うちの子がやられてんだ。スピードも上がるさ」。

そうか。ジェミーの報告は正しいようでした。
女子校は、こういうことに気質です。
しっかりスジを通さないと、スケ番として立場がないのでしょう。

「今回の相手な・・。西条ひとりいるくらいじゃ、どうにもなんねぇかも知んないな」。

西条ひとりくらい？
そういう単位のものの考え方をしたことがなかった僕は、正直、愕然としました。

「組織がでかいってことですか？」

「いや・・。そうじゃない・・・」。

そうじゃない？


と、ここいらまで話したあたりで車の後方から異音が聴こえてきました。

ファオオオオオオオオオオオン

「やべ！パトカーだ！」

”はい～。前方の初心者マークのチェリー、左に寄って停まりなさい～”

言わんこっちゃない・・・。


車を停める早苗お姉さん。
やがて後方のパトカーから、警察官がひとり。助手席側から降りて来ました。

窓をたたき、ウィンドウを下げるように合図しています。

「あー。ずいぶん飛ばしてましたねー。免許しょ・・・」

「あああああああああ！五十嵐さん！！！！！」

「あ！マ、ママチャリ！」

「白バイ、クビになったんですか？」

「バカ。冬期はパトカーに乗り換えるんだよ！」


「とにかく君。速度違反だから免許証を・・・」。

と、早苗お姉さんと目があったとたん

「あ・・・」。

五十嵐さん。ちょっと一瞬とまどったように見えました。

早苗お姉さんは尋問のため車をおりました。
僕も当然、ここは防がなくてはなりませんから、車を降ります。

「ママチャリ。お前の知り合いか？」

「孝昭くんのお姉さんですよ」。

「あ・・。孝昭って・・。あの赤チャリの・・・」。

「そお。五十嵐さんが赤く塗った自転車の」。

「そ、そうか・・。だってあれはお互い様だろ？」

「あれって器物破損になるんだそうですね。五十嵐さん」。
攻撃あるのみ。
この際、チャーリーの赤バイ事件は棚の上です。

「え？い、いや。でも、孝昭、喜んでたろ？」

「そんなこと関係ありませんよ」。

「ママチャリぃ。お前、警察官脅す気か？」

「いいえー。とんでもありません」。

「く・・・。ま、まぁ、今日のところは大目に見る・・かな・・・」。

「すいませ～ん」。
なぜかしおらしい早苗お姉さん。

免許証を返すと五十嵐巡査長。僕を呼んで小声で言いました。

「なぁ。孝昭の姉ちゃんって奇麗なんだなー」。
「え？そうですかぁ？」
「うん。驚いちゃったよ～。いつも一緒なのか？ママチャリ」。
「いえ。今日はたまたまですけど」。
「ふーん。そっかー。そーなんだー」。

どうも雰囲気がヘンです。

「免許証に18歳ってあったけど、高校生？」
「え？あー。北女の女子高生です。来年3月で卒業ですね」。
「そーかー。18ねーーーー。北女ーーーー。ふーーーーん」。

なに聴いてるんでしょう？
この警察官。

逮捕をまぬがれた早苗お姉さん。

「ふーーー。お前のおかげで助かったよ～」。
「あ。いいえ。まぁ、いつものことです」。

「ところであのマッポ。お前どういう知り合いなんだ？」
「え？駐在所で・・ちょっと・・・。孝昭も知ってますよ」。

「な、な、名前はなんて言うの？」
「え・・・。五十嵐さんですが・・・それがなにか？」

「な、なんでもねぇ！さぁ！気ぃとりなおして行くぞ！」

あれぇ？






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